第9話 給料出たから飯行こう


「おっす、仕事してきたぜ。報酬くれやー」


 俺はちょっとふざけた感じでギルド受付のイングリッドに受領書を見せた。

 彼女は「は!?」といった顔のまましばらく固まり、俺の顔と受領書を交互に見て、


「しょ、少々お待ちくださいね……」


 と言い残しカウンターの奥へと引っ込んでいった。


 ちなみに子供は俺の横に立っているが、立ったままウトウトと今にも寝そうな勢いだ。もうちょっとだけ辛抱しろよー。


 しばらくしてイングリッドはカウンターに戻ってきた。そしていきなり大きめの声で聞いてきた。


「カイトさん!た、確かに配達してるみたいですけど……、こ、これどうやったんですか!?たった5時間程度であの3件を回るなんて……どんな業者でも絶対に不可能ですよ??」


 ふはははははは。俺はほくそ笑んだ。


「そりゃーおめぇー。企業秘密ってやつよ!それより早く報酬くれねーか?今一文無しで困ってんだ」


 イングリッドはまるで不思議な生き物でも見るかような目線を俺に向けつつも、ちゃんと仕事の報酬を用意してくれていた。


「……ま、まあとりあえずはお疲れ様でしたー。こちらがお待ちかねの報酬金になります」


 カウンターの上に差し出されたのは見た事もないような紙幣と硬貨だった。


「なあ、配送料ってどうやって決まるんだ?」


「はい、基本的に重さと距離で決まりますねー。今回の場合だとロービム村のパン粉が一番送料が高いです、なのでカイトさんに支払われる報酬金も比例して高額になりますね」


「なるほど……で、いくら?」


 俺はこのとき、高揚感から自分の顔がニヤついているのを感じていた。


「合計で良いですか?」

「いや、それぞれの単価が知りたい」

「分かりました。ではヘドライト村の一件が2000ゲイル……」


 イングリッドはそう言ってテーブルに置かれた紙幣2枚をこちらへ差し出してきた!

 うおおっ。コレで2000ゲイルって事は、このお札一枚が1000ゲイルってわけか。

 2000ゲイルあればロービム村の塩パンが40個買えるな。……等と頭の中で考えた。


「そしてロービム村の一件が3600ゲイル」

「3600ゲイル!確かに高いな」


 俺は素直な感想を漏らす。

 あの小麦粉は30キロぐらいあったはずだ。それでヤマッハからロービム村まで距離が7万カライ(70キロメートル)で、報酬が3600ゲイル(約14400円)か。

 一応覚えといて今後の参考にしよう。


「最後にハイビム村の一件で1100ゲイルです。合計6700ゲイルになりますね。どうぞお受け取り下さい!」


 そう言うイングリッドが差し出してきた報酬金をホクホク顔で受け取る。


 6700ゲイル……、大雑把に円に換算すると4倍して26800円!!


 配達時間5時間だから時給5000円ぐらいあるじゃねーか!うははははっ!


 などと浮かれている俺だったが、ふとイングリッドの顔を見てみるとまだ信じられないといった表情で俺の顔をまじまじと眺めている。そしてこんなことを言った。


「いやー、びっくりですよカイトさん。この三つの村への荷物はいっつも配送してくれる方が見つからなくて最後まで残っちゃうんですけどねー」


 俺はその最後という言葉が気になった。


「最後って、王都の輸送団に届けてもらうまでってことか?」


「あっ、はい……。誰かに聞きました?そうなんです、あそこに頼むと配達料5倍になるんですよ!ひどいボッタクリでしょう?」

「どこの世界も国のやるこたぁクソだな」

「えっ?カイトさんってやっぱりスズッキーニ出身じゃないんですか?」


 そういえば思ったけど、SUZUKIみてーな名前の国だな、ここ……。


「ま、まあちょっと訳あって遠いとこから来てよ……、さっきまで一文なしだったんだ」


 俺はなんと説明すれば良いか分からなかったので適当にぼかして話をした。



 ……ふと、ここで少女が俺の手を引いている事に気付いた。


「あ、お前のこと忘れとった、なあイングリッド。この辺で飯を腹一杯食えるとこないか?コイツにも飯を食わせたい」


 ちょっと首をかしげた後カウンターから身を乗り出し、俺の横に立つ少女を発見したイングリッドから何とも嬉しそうな笑顔がはじけた。


「あらー!お子さん連れだったんですか!?……え、っていうかお孫さん?」

「どっちでもないぞ、コイツはハイビム村の捨て子だ」

「ええーっ、す、捨て子を拾ったんですか!?ええーっ」


 などと両手を頬に当てながらイングリッドは大袈裟なぐらい声を大にして驚いている。

 まあ、そういう反応になるだろうな。


 ……と、ここでイングリッドは提案してきた。


「あ、あの……、カイトさん。私もう上がりの時間なのでその子を連れて一緒にに行きませんか?」


「スープキッチン……?」


「はい、生活貧窮者のための無料の食堂のような所です!……まあ無料なので食べられるのはお粥とかになりますけど……」

「何でもいいや、俺も腹減ってるしな。じゃあ行くか!」



 ――というわけで俺と少女はイングリッドの勤務時間が終わるまでカブと一緒に外で待つことにした。


「ってわけで俺ら飯食いに行ってっからちょっとここで待ってろ、カブ」


 俺がカブにそう話すと、カブはなんか恨めしそうな顔をタブレットに貼り付けて、


「ご飯ですかー、いいなー。僕もガソリン欲しいですよカイトさん」


 ……あっ!そうだよガソリンも絶対いるんだよな!危ねえ危ねえ。


「おう、よく言ってくれたぜ。それも買ってきてやる」


 それを聞いてカブは笑顔を浮かべた。


「分っかりましたー!行ってらっしゃい」


「あと、誰かにイタズラされそうになったら自分で逃げろよ!マジでお前がいなきゃ俺も自動的に無職になっちまう!!」


 そこは強調してしっかり伝えておく。


「はーい!」



 ――それから10分ほどしてイングリッドが姿を現した。


「お待たせしましたー。では行きましょう!」


 その姿はどこか楽しそうに見える。


「そういえばこの子、名前はなんというんでしょう?」


「ん!あ、そういや聞いてなかったな。おい、お前名前は?」

 そう尋ねると少女は小さい声でつぶやいた。



「……タチアナ」



 するとイングリッドは足を屈めて、顔をタチアナの顔の高さに持っていき微笑みながら話しかけた。


「タチアナ……ターニャちゃんでいい?お腹減ってるでしょ?今からご飯食べに行こ!」


 俺も一言。


「おう、飯だ飯。腹減ったなー」


 思えば俺もこのスズッキーニとかいう異世界にきて、丸々5時間経過している事に気が付いた。


 そりゃ腹も減るわな。

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