第6話 異世界で初めての飯!
トゥルルルルルルッッ――。
現在、俺の乗っているカブは大きな荷物が減った分軽くなり、そしてリアボックスも閉じられた事でより走行が安定した。
俺達は次のロービム村へ行く途中だが、ヘドライト村へのあの荒れた山道を荷物満載で走ったのに比べれば今は大分楽だ。
そんな事を考えつつ俺は次の納品先について考えていた。
たしか配達物は小麦粉だったな……。と、そこでカブが一言つぶやいた。
「次はロービム村のパン屋さんですねー」
「パン屋?ああ、だから小麦粉って訳か。……しかしよ……、たまたま俺が配達出来たから良かったけど、もし運び手がいないままだったらどうするつもりだったんだろうな?」
「……」
カブはちょっと考えているみたいだった。
タブレットには斜め上を見上げ、思案しているような表情がアニメみたいに映されている。芸が細かいな。
「どうなんでしょうねー。さすがにそれでパンが作れなかった――とかだとマヌケ過ぎますよね?」
「おう、ちょっとその辺の話でもしてみっか」
さて、俺達は1時間ほどかけてロービム村へ到着した。
ここもまた盆地みたいな村だったが、先程のヘドライト村よりは規模が大きく、建物も4〜50棟ぐらい建てられていた。
「よし、とりあえずのんびり走ってパン屋を探すか!」
「はい。僕はゆっくり走るのも大得意ですからね!!」
プルルルルルル――。
家々をつなぐ細い畦道をカブで走っていると、デカい釜と煙突が家から外にはみ出すような格好で設置されているのが目に入った!
――間違いない、あれがパン屋だ!
目当ての家を発見した嬉しさと共にアクセルをひねって家の前まで行き、カブを停める。そして即ドアをノックする!
「ちわー、荷物お届けにきましたー!」
元気な声でそう叫び、店員が出てくるのを待った。
ガチャッ。――木のドアが開き中からエプロンをした店員らしき若い男が出てきた。
「えっ、もう来たの!?……頼んでた小麦粉……?」
「そう!こちら、ね」
俺は背負った小麦粉の袋を店員側に向け、それを受け取らせた。
「ほ、本当に小麦粉だ!ひゃー早いなー。絶対あと20日は待たされると思ってたのに……!」
俺は上機嫌になって笑った。
「ははははっ。配達ならウチの会社――『スーパーカブ』をよろしく!」
「スーパーカブ?聞いた事ないな……」
やはり最初の納品先の婆さんと同じ反応を見せる店員。まあそりゃそうだろう。
ここで早速先程の疑問を思い出し、聞いてみた。
「なあ、あんた。思ったんだけどよ、小麦粉ずっと配達されなかったらパン作れねえんじゃねえか?どうすんだい?」
店員は悩ましけげな顔をして答えた。
「そうなんですよねー。……なので誰も配達依頼を受けてくれないときはギルドから王都の輸送公団に届けてもらう事になるんですが――」
そう話す店員の表情は曇っていた。ああ、なんとなく察したぞ。
「あれだな、配達料金がクソ高いんだろ?」
俺がそう言うと店員は目を見開いた。
「そう!そうなんですよー。なんと通常料金の5倍です!……ヤバいでしょ?」
俺も思わず苦い顔をした。
「5倍!?マジか……、そりゃーちっとボリ過ぎだよな。いくら町から離れた所だからってよ」
「でしょ?……いやー、だから今回あなた、――『スーパーカブ』さんに届けていただいて助かりました!」
そう言われて俺はちょっと照れるように笑い、
「ははっ、そりゃ良かったぜ。ま、俺も金がないから仕方なく残った配達先を全部引き受けたところ――、たまたまここに配達があったってだけの話だ。礼には及ばん」
店員はちょっと考える仕草をしてこう言った。
「あの、また来月もお願い出来ますか?」
「お、おお。大丈夫……と言いたい所だが、まだ分かんねーな。運次第だ」
俺は先の事を考えると戸惑わざるを得なかった。依頼をされるのはありがたいが、来月となるとその時自分がどんな状況になってるか想像もつかなかったからだ。
「分かりました。またご縁があれば是非!」
「おう、ハッキリ約束できねーですまねんな」
という会話のあと、店員は俺にパンを一つくれた。コッペパンみたいな形のパンだ、ちょうど腹減ってたしその場で頂く。
ん?
……!
う、うめえーー!!
「うおおおおお!こりゃ美味い」
「普通のバターパンに粗塩を振った塩バターパンです。ウチの人気商品なんですよ」
これは日本のパン屋と比較しても遜色ないほどの味だ。
ちょっと値段聞いとくか。
「こ、これ一ついくらだ?」
「販売価格は50ゲイルです。……あ、いや!別にスーパーカブさんにはタダでお渡ししますよ。今回あなたが配達してくれて大分予算が浮きましたからね!」
「おっけ、美味かったわ。また次も来れたら来るな」
俺は手を振って店員と別れ、カブの元へと帰った。
「お帰りなさいカイトさん!」
「おう、待たせたな。パン貰っちまったわ。フツーに日本のパン屋かそれ以上に美味かったぞ。ビックリしたわ」
「ふふ、そうなんですよ。この世界は食べ物めちゃくちゃ美味しいんです!多分カイトさんの住んでた地球のモノよりも上じゃないかと……」
「マジか!?ちょっとどっかの町で本格的にガッツリ飯食いてえなー。この配達が終わって報酬もらったら食べ歩きでもするか!?……とりあえず仕事の続き行くぞ、カブ!」
「はい、次のハイビム村で最後です。張り切って行きましょー!」
――というワケで俺達は再びカブで走り出した。
「なあ、カブ。この世界ではあのパン一つが50ゲイルって話だが、大体こんなもんか?」
「はい、まあパン一個の価格ならそれぐらいじゃないですか。日本だといくらぐらいでしたっけ?」
俺はパン屋でパンを買った時の事を思い出して答える。
「……多分200円ぐらいじゃねーかな?って事は大雑把に考えて1ゲイルは4円ぐらいか……」
そこまで言って、この配達の報酬が何ゲイルになるのか楽しみになってきた。……てか報酬についてはギルドでイングリッドに何回か聞いてたハズだがな、アイツ俺に言い忘れてやがるな!?
まあ、もう遅いけど……。
ブォン!
ちょっとした高揚感と共に俺はシフトペダルを踏み込みクラッチを切り、いい感じにアクセルを煽る。
この世界には道路交通法もなけりゃ煽り運転もない、……というより車が後ろにつくことがまずない。
ハハッ、何とものんびりした世界だ。
「あー。荷物もほとんどなくなったし、後は手紙一通だけだ。案外この仕事余裕なんじゃねーか?」
「ですねー。もう次の村までは道も険しくないですし荷物も軽いし気楽にいきましょー!」
と、まあこんな感じでのんびり40キロぐらいで走っていたわけだが、……ここで思わぬトラブルに遭遇するのだった。
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