第4話 初仕事!


「おう、その三件全部引き受けるぞ。一日で終わらせてやる。報酬はいくらだ?てか運ぶモノは何だ?」


 そういや、肝心の荷物について考えてなかったな。

 俺が軽いノリで依頼を受けるとイングリッドは仰天した。


「カ、カイトさん……無茶ですよー。あの辺は車が入れるような広い道ではなく細くて急な山道なんです。距離もそこそこありますし途中で燃料も切れてなくなると思いますよ!」


 それを聞いて俺は内心ほくそ笑んだ。車が通れないような細い道なんてカブで走るのにうってつけだ!

 それにこの世界の車がどれだけ走れるのか知らねーが、こっちは世界最高燃費のスーパーカブだぜ!


「ふっ、大丈夫だ任しとけ。どうせ誰もこいつら宛の依頼受けたがらねえんだろ?誰かが運んでやんなきゃ気の毒だろうが」

「カイトさん……」


 イングリッドは俺の心意気に嬉しさと少しの不安が混ざったような神妙な面持ちになっていた。

 あ、っと……コレも聞いとかなきゃな。


「あのよう、運ぶ荷物ってどんなんだ?あんまデカすぎる荷物だとキツイんだが」

「えーっと……ちょっと待ってください……」


 そう言ってイングリッドは別の冊子をカウンターの奥から取ってきて説明してくれた。


「えーっと、……小麦粉大袋1つ、それと玉ねぎやじゃがいも、南瓜とかの野菜の詰め合わせ一袋と……あと一つは手紙一通ですねー」

「よっしゃ、多分行けるな!早速今から行ってきてやるよ」


 俺はやる気に満ち溢れていた。それは初めてバイトで面接に受かった時の新鮮な感覚に似ていたかも知れない。


 しかしここでイングリッドは警告してきた。


「カイトさん。あの、……大丈夫だと思いますけど。荷物を捨てたり着服したりするとブラックリスト入りして二度と仕事出来なくなります!注意してくださいね!!」


 おお……、怖えな。後でギルド職員が確かめたりすんのかな?


「大丈夫だ!任しとけ。早く荷物持ってきてくれ、時間が惜しい」

「……分かりました」


 俺はカウンター奥に荷物を取りに行ったイングリッドの後ろ姿を眺めながらお金の事を考えた。

 報酬はいくら貰えるのか?そういやここの通貨ってどんなもんだ?紙幣?貨幣?単位は?……等。気になる事はいくらでもあった。


「それではカイトさん、こちらです」


 ――ドサッ!


 結構な物量だった。特に小麦粉と野菜の入った皮袋が重たそうだがカブのリアボックスを開けっ放しにしたら積み込めるだろう。やったるぜ!!


「よっしゃ」


 俺はそれらを担いでイングリッドを振り返った。


「そうそう、報酬はいつもらえるんだ?」

「あ、はい。配達先でこの用紙にサインを貰ってきた下さい。それをカイトさんが持ち帰ってギルドが確認して初めて報酬をお渡しすることになります……」


 俺はイングリッドから受領書みてえな紙を受け取り、ちょっと心配そうな顔をしている彼女に手を振り、ギルドから出ていった。



 そして置いてあったカブのクソデカリアボックスを開け、小麦粉の袋と野菜の袋を詰め込み、最後に薄っすい手紙一通をボックスの隅にそっと置いた。

 リアボックスは蓋が閉まらなかったが、上からツーリングネットで覆ってやるといい感じに荷物が固定できた。


「おっしゃ、準備は万端だ!行くぞカブ」

「はい、カイトさん!!」



 ……というわけで俺は再びエンジンを始動させ、シフトペダルを前に踏み込みギアを1速に入れてアクセルを捻った。


 ゆっくりと動き出すカブ。

 俺は荷物が荷崩れしないか後ろの状況を確認しつつ徐々にスピードを上げていく。

 荷物はしっかりと固定されているようだ。


「よし、これなら結構な速度が出せるな」


 そう思っていたらカブが話しかけてきた。

「カイトさんはスピード出す方ですか?今のエンジンコンディションだと僕の感覚では95キロは出せますよ!」


 それを聞いて俺はますますテンションが上がった。

「やるじゃねーか!さすが俺がカスタムしたカブだぜ!」


 俺は上機嫌でアクセルをブン回し、カブに冗談を飛ばす。

「おい、カブ!ここは後ろから白バイが迫ってきたり、警官が物陰に隠れて一時停止線見張ってたりするかー!?」

「するわけないでーす!」

 カブも何となく上機嫌なように感じる。

「だろうなあ行くぞー!!」



 トゥルルルルルルン――。



 さらにスピードを上げる。


 ヤマッハからしばらくはかなり広い道が続いていた。

 それでも日本の片側一車線ぐらいの幅だ。おそらくこちらの世界の車がすれ違える程度には設計されてるんだろう。


 路面も踏み固められていて走りやすい!



「おい、今って何時ぐらいだ?時間のこと忘れてたぜ」


「えーっと。今は……地球基準で言いますと午前10時ぐらいですね」

「よっしゃ。往復200キロなら時速60キロで走りゃあ3時間ちょいだな」


 そんな頭の中だけでの計算はちょっと楽観的すぎるとも思ったが、トラブルはその都度対処していくしかない。

 とにかく俺はカブを走らせるぜ!


 そう思っているとカブが何やら変な事を言いだした。


「あの、カイトさん。なんか物足りないと思いませんか?」


「あ?何だそりゃ!?物足りない……っていうかか食料も金も全てが足りんわ。今さらどうした?」


「そうじゃなくて僕のの物足りない部分です」


 カブはちょっと語気を……というか音量を上げて何かを訴えるような声を出した。

 正直カブにこれ以上うるさくされると面倒くさいんだが……。


「別にねえよ。今でも十分感情豊かだろ」


「あ!ちょうどいいものがあるじゃないですかカイトさん。このメーターの上にあるタブレットですよ。ちょっとお邪魔しますねー!」


「え!?おい?」


 俺はメーターの上に小さめのタブレットを設置していて、それで地図アプリを見たりバックモニターとして使ったりとまあまあ活躍してくれていたのだ。……が!?


 俺が何もしていないのにタブレットが起動し、そこには今どきのアニメみたいな笑顔が映し出されていた!!



「こんにちはカイトさん。僕です!よろしくお願いします!!」

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