第3話 カブなら行ける!


 カブは俺にアドバイスを送ってきた。


「カイトさん、あちらに商工ギルドがありますよ。まずは登録してみましょう!」

「な、なんだそれ?」

「商売をする人に仕事を斡旋してくれたり、逆に誰かに頼んだり出来るところです。カイトさんの場合絶対登録しておいたほうが良いですよ!」


 カブに力説されたが確かにコイツの言う通り登録しといたほうが良さそうだ。よし、行くか。


 広い道だ。大通りと言っても過言ではない、そこを俺はカブを押しながら進んでいく。

 目立つか?と思ったが幸いなことにもっと訳の分からないデカい乗り物に乗ってる奴が多くて俺に対する注目は低く、ちょっと安心した。


「なあカブ。ここって異世界の割になんか、その……、もっとこう魔法とかモンスターとかそういうのはないのか?今んとこ現代から200年ぐらい前のヨーロッパにタイムスリップしてきたような感覚なんだが?」


「魔法?……モンスター?……。いやー、とりあえずこの国にはいませんね。遠い外国には存在するみたいな話を聞いた事がありますが……」


 カブの言葉に俺は安心した。とりあえずモンスターと魔法で戦う事はなさそうだな。そして同時に納得もした。

 だって魔法なんてあったらそもそも自動車なんて必要ないしな……。ふうーっ。



 商工ギルドは道の正面に建っていた。この世界にしてはかなり大きいぞ……。

 入り口の前にカブを留め、早速中に入ってみる。


「頑張ってきてください!」


 カブの声が背中越しに聞こえてきた。俺は「何を頑張るんだよ?」と心の中で静かに突っ込みをいれた。


 キィ……。木製の開き戸を開ける。


「こんにちわー!!」


 俺が入っていった瞬間に明るい声が飛んできた。

 笑顔の眩しい20代前半ぐらいの姉ちゃんだった。俺の娘も今あれぐらいかな……。とか考えてすぐに考えるのを止めた。

 あいつが受付嬢だな。


「おう、姉ちゃん。俺、ここ初めてなんだけどよ、運び屋やりてえんだけど仕事あるか?」


 受付の姉ちゃんはそれを聞くと、手をポンと叩いてなんか納得したような表情を作った。


「あ、もしかして最近作られたキャリッジで物資の運搬されるおつもりですか?」


 キャリッジ?何やそれ?

 俺は純粋にそれが何か分からなかったが、すぐに名前の響きからあのデカい耕運機みたいな乗り物の事か――、と推測できた。


「あれか?あのデカい耕運機みたいなやつ……」


 と確認のために尋ねると姉ちゃんは首を縦に振った。


「ホントに凄い発明なんですよー。人や馬の力を使わず荷台だけで走っちゃうんですから!」


 まあ、そりゃあ自動車だからな……。と思ったが口には出さなかった。

 どうやらこの世界では車の原型みたいなものが最近やっと発明された感じらしいな。


「まあ、そんな感じで運び屋やりてぇんだ。ここで登録すりゃ良いんだろ?」


「あ、はい。お名前は?」

山村快斗ヤマムラカイトだ」


「ヤマムラカイト……、変わったお名前ですね」

「長げーからカイトでいい」

「分かりました。では手続き致します」


 姉ちゃんはそう言うと何やらタイプライターのようなものを操作して書類を作り出した。

 ……と、そこまでは普通だった。


 しかしこの姉ちゃん。タイプライターをカタカタやってる最中、ニヤつきながらこちらをチラチラ見てくる。……何だ?俺に何か用か?

 姉ちゃんはそういった奇妙な挙動の果てに、

 ――ッターン!!とまるでエンターキーを打ち込む意識高いヤツのような動きを俺に見せつけてきた。


 ……な、何だ!?


 姉ちゃんはそうやった後、俺に何か言って欲しそうな雰囲気を醸し出しつつこちらをずっと見つめている。


 何なんだよ!?とりあえず適当にコメントしとこう。


「……ね、姉ちゃん。えらくカッコいいな?」


 俺はとりあえずそう言って相手の出方をうかがった。

 すると姉ちゃんは目を輝かせテーブル越しに上半身を乗り出し、俺にこんな事を言った。


「……どうです?カッコいいでしょーこのタイプライター!最新式でこれがあると書類作成がめちゃくちゃ速いんですよ!まだ世界に7台しか出回ってないんです!ふふっ……」


「な、なんやお前、ソレがあるの自慢したかったんかい……」

「は、はい。うふふ……」

 俺の突っ込みに姉ちゃんはちょっとハニカミながら苦笑いした。


 コイツちょっと面白え奴だな。


 ってか、タイプライターも最近販売されたのか……、なんとなく産業革命が起きた近代ヨーロッパって感じだな。


「……あんた、名前は――?」


 俺は受付の姉ちゃんの胸元の札を見たのだが、この世界の文字だったので何と書かれているのか読めなかった。


「あ。私はこの商工ギルドの受付をやっているイングリッドというものです。よろしくお願いします!」

「イングリッドか。覚えとくわ、……で、早速仕事ないか?」


 待ってましたとばかりにイングリッドは依頼者ノートのようなものを手に取り、俺に見えるように向きを逆さにして机の上に置いた。


「これらが依頼の一覧なんですが、……今この三件だけですね」


 え……配達依頼がたった三件だけ?少なくねーか!?もっとあっていいだろ?


「実は、近場や依頼件数の多い都市部の案件はキャットやサガーといった大手の運送屋さんにまとめてお願いしてるんです……」


「……なるほどな、それで残ったこの三件は町から離れたへんぴな所にポツンと存在する……そういう配達先って事だな?」


「ええ、そういう所は時間もかかりますし燃料代もかさむので業者の方々は嫌がるんですよー。そもそも車では入って行けないような所にありますし……」


 イングリッドは頬に手を当て悩ましげな表情を見せる。

 ……まあしょうがねえか、最初はそういう所からだ。

 ちょっとこの三件がこのヤマッハからどれだけ離れてるのか聞いとこう。


「おうイングリッドよ、それってここからそれぞれ何キロぐらいあるんだ?」


「キロ?……とは??」


 あー、そうか。ここ現代じゃねーんだった……。

 俺は自分の頭に掌を乗せ、すっと前にやった。


「なあ、俺の身長ってどれぐらいだと思う?」


 イングリッドは一瞬キョトンとした表情を浮かべ、俺の掌の高さをジッと見つめた後、こう答えた。


「カイトさんの身長だと1.7カライってとこですかね……、あ、私結構正確にそういうの読み取れるタイプなので、信用してもらって良いですよ!」


 カライ!?


 いや……ちょっと都合良過ぎでビックリした!

 俺の身長がちょうど170cmだから1カライ=1メートルって計算ができる。なんちゅう分かりやすさだ!


 この世界の距離の単位が分かったので俺はすぐに聞いてみた。


「ここから一番近いこの配達先まで何キロ……何カライぐらいだ?」


 イングリッドはすぐに答える。


「ヘドライト村までは5万カライ、そこからさらに2万カライ進んだ所にロービム村、最後のハイビム村まではそこから3万カライ進んだ所になりますが……」


 それを聞いて俺は頭の中でイメージしてみた。

 ……っつー事は片道10万カライ(10万メートル)つまり100キロ!往復200キロだ。

 そして俺のカブの実燃費は少なく見積もってリッター60キロ(満タン法で実証済み)。ガソリン満タンで4.3リットル、コレも少なく見積もって4リットルとしても最低240キロは走る計算だ。


 お、行けるんじゃねーか!?

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