第2話 これからどうしよう……?
「いやー、カイトさん。本当におめでとうございます。この世界って凄い良い世界なんですよー。スーパーカブが活躍できること間違いなしです!」
今、このカブが喋っている内容は俺の頭の中にほとんど入ってこなかった。
……やがて少し間が空いて、真っ白になって止まっていた俺の思考が少し動き出した。そこでまず考えた事……、それは仕事の事だった!
「丸々一月も無断欠勤してから職場復帰するなんて無理だ……、そもそもなんて言い訳すりゃ良いんだ?これは……」
そうつぶやく俺にまたバカみたいに前向きな声が掛けられる。
「え!?また日本に帰るつもりなんですか?せっかく異世界に来たんだからこっちで生活しましょうよカイトさん!」
「はぁ!?バカ言うなお前……、生活も何も仕事しなきゃ金が入らねえから飯が――!」
ハッ、――そこまで言って気付いた。1ヶ月ここでどうやって飯を食えば良いんだ!?金は?……というより店はあるのか!?
俺はちょっとパニックになりかけていた。こんなアニメみたいな事が現実で起こるなんて世の中狂ってる。
「ご飯ですか?それなら――、あっちにヤマッハという町があります。そこで食材を買えばいいですよ!」
なんだそのYAMAHAみてえな名前の町は、そこはお前、せっかくカブなんだからホンッダとかにしとけよ――と心のなかで毒づくが、とりあえず飯を食う場所があったことに安堵した。
――のも束の間、今度は金がない事に気づきまた不安になってきた。
「食材買うにも金がいるんだろ、どーせ?俺はこっちの世界の金なんざ持ってねえぞ!?」
「大丈夫です。カイトさん、バイク便ってあるじゃないですか?あれをこっちの世界でやれば良いんですよ!」
バイク便……確かにカブなら燃費もいいし頑丈だ。しかしそんな上手くいくのか?俺はとりあえずカブに再確認した。
「おい、本当にすぐには日本に戻れねーんだな?実は出来るけど嘘ついてるとかじゃねーだろうな!?」
「やだなあ、次元転移は大変なんですよ?ましてや家一軒丸ごとなんでめちゃくちゃ力を使うんです。カブの販売総数1億台を記念して頑張ったんですから!」
それは俺が頼んだわけじゃない……。まあいい、とにかく今最優先すべきは食料の確保だ。
「おう、そのヤマッハとかいう町に行くぞ!カブ」
「ハイッ!」
その声は機械音声にしてはなんか嬉しそうだった。まあコイツは少なくとも悪人ではないな。どこか狂ってるが……。
俺は魔改造したこのカブのスタータースイッチを押し、指紋認証パネルに人差し指を置いた。するとピーッという電子音と共にカブのメインスイッチが起動した。この状態はノーマルのカブで言えばキーを回してをONにした状態だ。
鍵穴は封印してありセキュリティーは完璧!しかし本物の鍵を使わずにキーONに出来るからといって鍵がいらない訳では無い。ガソリンの給油口の蓋をあける時に――!
「ハッ!?またやべえことに気づいちまった……ガソリン、こんな異世界でガソリンどうすんだよ!?まさかガソリンスタンドなんてある訳ねーよな!?」
「あ。大丈夫です!ガソリンスタンドはないですが、このスズッキーニ王国では石油がいっぱい採れるので精製すればオッケーです。……というか原始的な自動車みたいなものが動いてる世界なので燃料も売ってますよ!安心しました?」
俺はビックリした……。こういう世界って剣とか魔法とかでモンスターを倒したり勇者が魔王を倒しに行ったりそういう所かと思ってたが、いい意味で違った。
「ガソリン売ってんのかよ!まあそれも金かかるんだろ?とにかくヤマッハ行くぞ」
いらちな俺はさっさと動き出したかったのでカブのスタータースイッチを押し、エンジンを起動させた。
ギャギャギャギャッ――ドゥルン……トゥルルルルル!
セル一発でエンジンは始動する。バッテリーは新車で買って約4年間乗ってるが一度も替えたことはない!
テールランプやらをLEDに替えてるのと、ほぼ毎日乗ってるせいでオルタネーターからの給電でバッテリーはいつも満充電状態のようだ。電気系統はさすがにこの世界では手に入らねえだろうからそこは助かったぜ。
左足の下のシフトペダルを前に踏み込みギアを1速にいれてアクセルを捻ると、少しずつカブが前進した!
――そしてカブを走らせるが当然ながらアスファルト舗装のような快適な道路ではないので、ガタガタと車体と体が揺れる。
めちゃくちゃ荒れた山道だ!しかしオフロード用のブロックタイヤにしてて良かった。
しっかしこの世界、当然っちゃ当然ながら全ての道が未舗装だな!
荒れ果てた山道から2メートル程の幅のある道に出た。アスファルト舗装以外は現代日本の公道と変わらないぐらい平たい。
「よっしゃ!まあまあ広い道に出た。コレでもうちょっと加速出来るぞ!」
そう思って右手を捻りアクセルを開ける。
ガタ付きは先程までの獣道と違い格段に少なくなる。
スピードメーターに目をやると50キロを示していた。
「この世界に速度制限ってあるか?」
俺はカブに開いてみた。すると当然のようにこう返って来た。
「もちろんありません!でもお気をつけて」
俺はここへ来て初めて上機嫌になった。
「ふはは!ったりめーだろ。行くぞオラッ!」
何もかも無い代わりに何にも縛られない世界。ある意味いい所かも知れん――。そんな風に考えていた。
そうしているうちに道の向こうに、やたら音のやかましい耕運機のようなものが見えた。
なんだありゃ?
「おい、あれ何だ?カブ、お前知ってっか?」
カブはすぐに答えた。
「アレはこの世界の自動車ですね。軽油で動くみたいです」
「って事はディーゼルエンジンか。さすがに軽油はカブには使えねえよな……」
俺はその耕運機のような自動車に乗っている人間と目があった。
しかし、特に会話もなくお互い「何だアレ!?」といった表情でお互いの乗り物を見つめるのみだった。
俺は元々そんなに人当たりの良い方じゃないしこちらから話しかけるのは苦手だ。たたし交渉とかになるとめっちゃ口出すがな。
それから15分ほど走ってヤマッハの町にたどり着いた。
結構人がいやがるじゃねーか!
まず抱いた感想はそれだった。
といっても日本の田舎町の商店街ぐらいの人数だ。
大通りには色んな露店があり、野菜や魚、肉なんかも売られていた。
「意外と何でもあるんだな……」
俺は少しこの異世界に感動してしまった。
そしてすぐにガソリンやバイク便の事を思い出し、まずは仕事を探そうと動き出すのだった。
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