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「ええっ!?」
朱音の大声に、管制室の二人が同時に振り向く。
『書置きが残ってました。巧とレイを助けに行く、って……』
「どうやって!? まさか走って?」
『自転車で行ったみたいです。ハンガーのが一台無くなってました。ちょっと前、ハッチさんが地図をじっと見てたんで、どうしたんだろう、とは思っていたのですが……申し訳ありません! 自分がもう少し早く気づいていれば……』
電話の向こうで美由紀は涙声になっていた。
朱音の顔が怒りで赤く染まる。
「あのダラ……一人で自転車で行ったところで、何ぁできれんて……」
『あの、ハッチさんは武器庫に寄ったみたいです。武器庫のゲートが開きっぱなしでした。それで、一つなくなっている物があるんですが……』
「何がないがん?」
『あの……それが……』
美由紀の次の言葉を聞いた瞬間、朱音は唖然とする。
「……どこまでダラなんや……何でそんなもん持ってかんなんがやって……」
『あ、あの、チーフ……どうしましょうか……』
「OEDSは?」
『展開完了です。問題ありません』
「OK。あんたたちは万一を考えて、全員シェルターに退避」
『了解しました。あの……ハッチさんは……』
「あんたは何も心配せんでいい。ただ命令に従うこと。いいね」
『……分かりました』
「それじゃ」
受話器を置いて、朱音は真奈美に視線を戻した。
「マナ、敵機のコースは分かった?」
「……今出ました! 八九パーセントの確率で基地の上空は逸れます。予想最接近地点は070、八マイル」
「それじゃスカイシューターは役に立たないね。OK、あんたたちはあたしが戻るまでそのまま待機。直接攻撃を受けたら迎撃して」
「司令は……どうなさるんですか?」
「レイと巧の救出。それから基地を出てったバカを連れ戻してくる」
「え、まさか、ハッチさんが……」
「そのまさかよ。あたしもレイも戻らない時は、規定どおり、マナ、あんたが指揮を執るのよ。分かってるね。それじゃ、よろしく」
朱音は軽く敬礼して踵を返し、走りだした。
「そ、そんな! ちょっと待ってくださいよ、橘司令!」
真奈美の声を背に聞き、武器庫に向かって走りながら、朱音は誰にともなく吐き捨てるように呟く。
「……あんの……ダラぁ!」
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隼人は
スピードメーターがないために正確な速度は分からないが、見る間に後ろに吹っ飛んでいく周りの景色から、時速四〇キロメートルは出ているだろう、と彼は推測する。
"くそ……ギアが軽すぎる。自分のチャリならもっとスピード出せるのに……"
既にチェーンはトップギアに入っていた。隼人は限界ギリギリの
道は把握していた。かつて彼が巧と基地を脱走して南の穴水に向かった大きな道を、逆に北上すればいいのだ。目的地までは一本道である。
隼人の右の肩から左の横腹には、口径四センチメートルの予備弾が三つ装着されたベルトがたすきがけになっており、左の脇の下には拳銃を一回り大きくしたような武器が収められたホルスターがぶら下がっている。おそらく戦闘機と戦うことになるかもしれない、と判断した彼が出発する前に武器庫で選んだものだ。
携帯型の対空ミサイルもあったが、自転車で運ぶには重いし、そもそも隼人にはそれを満足に扱える自信がなかった。かといって拳銃では戦闘機の相手になるはずもない。そこで彼が選んだのが、拳銃のような形状だがそれよりは明らかに口径の大きいこの武器だった。何という名前なのかは知らない。しかし、これなら使い方も拳銃とさほど変わらないだろうし、この口径なら単なる拳銃よりは余程威力がありそうだ。彼はそう考えて、これを手に取ったのだった。
下り坂、急な右カーブにさしかかり、アウト・イン・アウトのラインで横切ろうとした隼人の目の前の地面に突然、爆撃が抉り取った直径五メートルほどのクレーターが姿を表す。
「!」
即座に隼人は左のブレーキレバーをいっぱいに引いた。後輪がロック。カウンターハンドルを切りながらカーブのアウト側に自転車をスライドさせてクレーターをかわす。
ブレーキを握る手を放してタイヤのグリップを回復させ、その勢いで右に傾いていた車体を一気に戻すと、隼人はペダルを思い切り踏みこむ。彼の右手がハンドルのシフトレバーを一気に二段下げると、パンタグラフ式の
"巧……レイ……無事でいてくれよ……"
再び腰を浮かせ、隼人は軽くなったペダルに全体重をかけて踏みしめる。
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