20
「あ……!」
彼らの後方に、花が咲くようにオレンジ色の爆発の炎が広がっていた。破片を撒き散らしながら、それは黒い煙の塊に変わっていく。086の機体中心のパイロンから投下されたSPK39が、敵機を真っ正面から直撃したのだった。
「……」
「……」
しばらく二人は無言で、放心したようにその様子をただ見つめていた。
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「……」
巧と隼人の話を聞いていた朱音は、しばらくぽかんと口を開けたままだったが、ようやく我に返ったようだった。
「はぁ……とても信じられない。レイが聞いてたら、彼女も間違いなくそう言うと思う」
「信じられなくても、こいつのフライトログを見れば、それが真実だということがわかるさ」
巧はそう言って後ろの086を振り返る。
「ほんと、信じられませんよ……ポッドをぶつけて敵機を撃墜するなんて……」
途中から朱音の後ろで話を聞いていた美由紀が、感慨深げに言った。
「あ……悪いな、ミュウ……燃料ほとんど使い切っちまったよ。偵察ポッドもECMも全部捨てちまったし」
隼人は美由紀に向かってすまなそうに軽く頭を下げるが、美由紀は慌ててかぶりを振る。
「何言ってんですか、ハッチさん! そんなことよりも、お二人がご無事で戻られることの方がずっとずっと大事ですよ!」
そう言って笑顔を見せる美由紀につられて、隼人も思わず微笑む。
「ありがとう……ミュウ……」
そんな隼人と美由紀の様子を見ていた朱音が、はぁ、と再び大袈裟なため息をつく。
「まったく、外付けポッドをぶつけて敵機を撃墜するなんて……今までそんな話一度も聞いたことないよ。ほんと、あんたたちはある意味天才だね。そんなバカなこと思いついて、しかも実現できちゃうパイロットなんて、きっとあんたたちだけよ。まさに『奇跡の撃墜王』ね」
「それって、なんか全然褒められてる気がしないんだけど……」と、巧。
「誰も褒めちゃいないって。呆れてるだけ」
「……あ、そう」
引きつり気味に笑みを浮かべた巧は、ふと、朱音の目が赤くなっていることに気づく。美由紀は、と見ると、やはり同じく目が赤い。
"……まさか……泣いてたのか?"
巧は探るような目つきで朱音と美由紀を見るが、今の二人には、そんなそぶりは微塵も感じられなかった。
"やっぱり、気のせいかな……"
「ま、いいよ。これでまた一つあんたたちの伝説が新たに生まれた、ってことね。とりあえず、デブリ(
そこで朱音は、隼人の耳元で、声を低く落として
「(……覚悟しときなさい)」
「ふん。分かってるさ。じゃ、あとは任せたぜ……っと……」
歩きだそうとしたところで、ふいに隼人がふらりとよろめく。
「ハッチさん! 大丈夫ですか?」
「ちょ、ちょっと隼人、あんた、まさかどっか怪我してんじゃ……」
慌てて美由紀と朱音が駆け寄ろうとするが、隼人は二人を左手で制止する。
「心配ねえ。巧、行くぞ」
「あ、ああ」
二人は並んで管制室に向かって歩きだす。が、巧はすぐに振り返り、心配そうに自分たちを見つめていた朱音と美由紀の方を向いた。
「朱音……いや、橘班長、そして守川曹長……ありがとう。君らの整備は完璧だったよ」
二人のメカニックは照れ臭そうな、だけど誇らしげな笑顔を浮かべ、無言でうなずく。
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「……ええ……ええ。あ、ちょうど今二人が来たところ。……ええ。分かってる。それじゃ」
隼人と巧の姿が管制室に現れたのを見て、レイは内線電話の受話器を置く。彼女が話していた相手が朱音であろうことは、二人にも容易に察しがついた。
「杉田大尉、風間大尉、ただ今帰還致しました!」
席を立ち、歩いて来たレイの目の前で、隼人と巧は並んで直立し、敬礼する。
「ごくろうさま。随分なご活躍だったようね」
レイも答礼し、隼人の前で眼鏡を外して折り畳むと、それを胸のボケットに差し込んでニッコリと微笑む。
"う……"
てっきり激しく叱責されると思っていた隼人は拍子抜けすると共に、間近に見るレイの美しさに見とれた。
だが、次の瞬間。
パァン、と乾いた破裂音が管制室内に響きわたる。
レイの平手が、隼人の左の頬を鋭く打っていた。
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