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 隼人が疑問に思うのも無理のないことだった。朱音によって目覚めさせられた新しい五人のスタッフは、いずれも美由紀のような十五~十六歳の女子ばかりなのだ。


 それまでの高校生活では部活動に一心に打ち込んでいた隼人は、日頃女子生徒と話す機会があまりなかった。そのためか、彼はこの基地にいる女性の集団に対し、何となく気圧けおされるものを感じていた。


「ええっ!?」


 美由紀の反応は、隼人の予想以上に大袈裟だった。


「……へ?」


「そんなのあたりまえじゃないですか! 基地にいた男たちは、みな出撃して行ってしまいましたよ。飛行機のパイロットとして、あるいは陸軍の歩兵や海軍の水兵として……そして、帰ってこなかった……誰一人……」


 美由紀はうつむき、唇を噛み締める。


「そ、そうだったのか……すまん、悪いこと聞いちまった……」


 隼人が質問したことを後悔しつつ、頭を下げると、美由紀は慌てて表情を取り繕った。


「あ、いえ、こちらこそすみません。そうですよね。お二人がおられた新田原とは基地の規模が違いますもの。けど、こんな小さな基地ではどこもそんな感じで、スタッフはWAFワッフ空軍の女性Women of Air Force)ばっかりだと思いますよ」


「へぇ……」


「あ、だけど、その中でも自分たち整備班は最後の戦闘要員なんです。だから、一応みな陸戦も、飛行機の操縦もできるように訓練はしています。いざと言う時は、自分たちが最前線で戦うことになるんですよ」


 "陸戦も?……そうか、だから朱音はあの時……"


 隼人の脳裏に、昨日自分たちを助けにきた時の迷彩服姿の朱音が浮かぶ。


「なるほど。君らも操縦できるのか?」


「いえ……実は、今ウイングマーク (パイロットであることを示す、胸に付けるワッペン)持ってるのはチーフだけなんです。自分は実機の経験はないんで、ほんとに飛ばせるかどうか……少なくともシミュレーションの上では完璧……なんですけどねぇ……」


 言いながら美由紀は頭をかき、苦笑いして続ける。


「一応TACネームもあるんですけどね。"ミュウ"って言う。ちなみに橘チーフは"ルージュ"です」


「"ルージュ"って……口紅?」


「もともとはフランス語で"朱"って意味なんですよ。ほら、チーフは"アカネ"だから……」


「ああ、なるほど」


「だけど、出撃任務の時以外にその名前で呼ぶと怒られます。"あたしはメカニックなんだ"って。自分の"ミュウ"はもともとのあだ名なんで、よかったらハッチさんも、自分のこと……ミュウって呼んでもらえると……嬉しいです」


 美由紀は恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「ミュウか……かわいいTACネームだな。なかなか似合ってんじゃないか? ミュウ」そう言って隼人は微笑む。TACネームと思うと、なぜか彼もその名を呼ぶのに気恥ずかしさはなかった。


「ありがとうございます!」美由紀も満面の笑顔になった。それをなぜか眩しく感じた隼人は内心うろたえるが、美由紀にそれを悟られないようにさりげなく視線を反らす。


「まあ、そんなわけで、今の能登基地にはWAFしかいないんですよ。だけど、これだけの人数のWAFがお二人のために誠心誠意尽くすわけですから、ハーレムみたいなもんですよ。男の方ならやっぱり嬉しいんじゃないんですか? ね、ハッチさん?」


 美由紀はクリっとした両眼の片方をつぶってみせるが、隼人の表情は冴えない。


「うーん……まあ、それはそうかもしれんが……」


「なんか、あんまり嬉しくなさそうですね」美由紀の表情が悲しげに変わる。「ってことは、自分らって、ハッチさんにとってはあんまり魅力的じゃないんですね……」


「そ、それは違うぞ!」隼人は即座に否定してみせた。「いや、何というか……今まで男ばっかりなところにいたもので……少し戸惑ってるんだよな……」


「そうだったんですか」美由紀はパッと顔を輝かせる。表情がクルクルとよく変わる娘だな、などと隼人は思う。


「ふふ、ハッチさんって案外純情なんですね。大丈夫ですよ。変に意識しないで、普通にお話してください。みんなも、ハチロクのお二人に出会えてとても喜んでるんですから」


「そうか……そう言ってもらえると助かるよ。ありがとな、ミュウ」


「そんな……とんでもないです……」美由紀は頬を染めて照れ臭そうにうつむく。


「それじゃ、ミュウ、邪魔して悪かったな」


「いいえ! 明日のミッション頑張ってくださいね!」


 笑顔で手を振り、美由紀はハンガーの扉の向こうに消えた。


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