12.フィフニャータの回廊
「カイルさん、ここはどういった場所なんですか?」
「いえ、僕も訪れたことはありません。なので」
「なので?」
「この上なく心躍っています。さあ、行きましょうアリスさん」
とってもいい笑顔のカイルさんはともかく、あたし達はフィフニャータの回廊と呼ばれるところへやってきた。
中は石で造られた一本道になっている。ランタンによる明かりが等間隔に灯されていて、周囲を見渡せないほどの暗さではない。
「何かに使われていた通路なのかもしれませんね」
「何かってどういった?」
「例えば物の運搬、あるいは人の通り道。それも、誰もが寝静まった頃秘密裏にといった趣があります」
知らない場所とはいえさすがの知識量だ。そう感心していると、小さな部屋に辿り着いた。
辺りを見回してみても、変わった物や他の部屋への扉すらも見当たらない。
「おや……この床に何か記されていますね」
カイルさんが何かを見つけたようで、あたしは彼の側に寄る。
「これは何の文字なんでしょう? どこか記号のような感じもしますけど」
「古代のものなのかもしれませんね。いずれにしても読むことはできませんが……」
「ここを出て、他の部屋がないか探してみますか?」
「ええ。気を取り直して行ってみましょう」
先にカイルさんが出たところで、声が聞こえてきた。
『待てアリス。あの文字を見せるがいい』
(もしかして読めたりするの?)
ウィグナーを文字の床まで持ち運ぶと銃身が輝き出した。
見たことのない綺麗な色に目を奪われていると、突然光が止んだ。
『【この場所に両手両足を乗せよ】とあるな』
(うそ、解読できちゃったの!?)
『無論試すかどうかは任せよう』
ひとまずカイルさんを呼んだ方がいいのかもしれない。
ただ、読めてしまっていることで不審がられるかもしれない。
屈んで考えたあといざ立ち上がろうとすると、体がふらつき転びそうになった。
(ふう、あぶなかった!)
『くく、どうやら気が
怪我はしなかったみたいだ。
その代わり、あたしは文字の書かれた床に両手両足をついていた。
*
(ここはどこだろう……)
どうやらさっきの部屋とは違うところに来てしまったらしい。
見回すとすぐに扉があることがわかり、引いたり押したりして開けようとするけれどびくともしない。
ふと壁に視線をやると石版のようなものが貼られている。
『【一、この板に強い衝撃を与えよ】とあるな』
それならと<ショック>を撃ってみるけれど、違っていたようで扉は開かない。
そうなるとあとは<アウェイク>だ。でも、どうやって衝撃を与えたらいいだろう。素手のままだと怪我をするのは目に見えている。
何か手がかりがあるはずだと部屋を調べつくす。
ふと、あたしはずっと手にしているものに気付いた。
(ねえ、ウィグナーの強度ってどのくらい?)
『早々壊れはせぬが……。おいアリス、お前何をしようと言うのだ!』
(せーの!)
その瞬間、轟音が鳴り響く。
<アウェイク>の馬鹿力で思い切りぶつけてみたところ、どちらも無事なようで扉が開いた。
『お前は加減というものを知らんのか。
(ごめんね。本当に反省してますからこのとおり!)
『まったく……今回だけは大目に見てやろう』
(ありがと、ウィグナー大好き!)
彼は少しだけへそを曲げてしまったけれど許してもらえた。
次の部屋を隈なく調べると、石版が天井に貼り付けられていて簡単に触れられそうにない。
『あれは一切関係がない。【二、同一場所で座して待て】だ』
言うとおりにしていると次の部屋への扉が開いた。
『さて、この部屋だが【三、文字の書かれた二箇所の床を同時に踏め】とある』
指定の床はそれぞれ部屋の隅にある。二人で来ているならともかく、それらを一人で踏むのはどう考えても不可能だ。
悩む余地すらないあたしは力なく天井を仰いだ。
『状況的に致し方ないか』
すると溜め息混じりにウィグナーは言う。
(なんだか渋々って言い方だけど、何か手があるの?)
『あまり見せたくはなかったのだがな。アリス、
部屋の中心辺りに置いて待っていると、彼からは文字解読の時とは違う輝きが放たれた。
次第にひときわ眩しい光が部屋中に溢れていき、たまらず目を瞑る。
『アリス』
声に瞼を開けると、灰色の髪と瞳をした小さな男の子が目の前に立っているのに気付く。
あたしは沸き立つ
「君迷子でしょ? どこから来たの? 名前は? 歳はいくつ?」
『いつまでそうしている。これは
「うそ、ウィグナーが人間になったー!?」
その声は男の子から聞こえてきて、直後あたしの出した大声は部屋中に響き渡ることになった。
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