02.故郷の街ラナⅡ
「は、ははは……。人を殺しちゃった」
乾いた笑いというものを生まれて初めてしている。
助かるためとはいえこんな事件を起こしてしまった。今度は殺人犯だ。どうあってもお母さんを悲しませてしまう。
あたしは力なく膝をついた。
『やれやれ、大げさな娘だ』
まだ何か聞こえる。
「は、はい?」
『早合点する前に奴等をよく観察してみるがいい』
倒れている男達に恐る恐る近寄ると、少し焦げたような臭いがするだけで血が出ているようには見えない。
「怪我すらしてないなんて……どうなっているの?」
『奴等は電撃で痺れているだけだ。――この銃にはそもそも引き金が存在しない。ついでに弾倉を確認すればわかるが、初めから弾など入っていない』
「引き金? 弾倉……? そんなことより、あなたはどこに隠れているの? そろそろ姿を見せてくれないと不安なんだけど」
『まだわからないのか。お前の手の中だ』
「うん?」
あたしの手にはさっきの銃しかない。
『そう、この銃――ウィグナーが
「あはは、そういうことね。あたし、ショックで頭がおかしくなったみたいだわ!」
*
「ええと、あなたは古の魔銃……? そもそも魔銃って何なのよ」
『その反応は正常だ。どの人間も初めは自身の常識を疑う。そうだな、魔銃とはさしずめ魔力を秘めた銃といったところだ』
「要するに魔法ってことなの?」
『然り』
この世界には魔法は存在していない。それは過去にはあったけれど、いつしか失われたと学校の授業で散々聞かされてきた。
だから疑わしいところではある。ただ、さっきの現象を目の当たりにしてしまっているのもあって、何らかの不思議な力が働いているのは間違いないだろう。
――だとしてもだ。
「怪しすぎるの! こういうのって、まずあなたが悪魔かなにかで――そう! あなたは悪魔なの! あたしのような善人に悪事の片棒を担がせようとしてるんでしょ? いいから目的を洗いざらい全部吐きなさい!」
『ある意味では悪魔かもしれん。それにしても……アリスと言ったか。お前は面白い人間だな。実に二百年ぶりに気に入ったぞ?』
くくっとまるで悪魔のような笑い声を発している。
「待って、あたしまだ名乗ってないよね……!?」
『お前の考えていることくらいお見通しだ。そして、過去に受けた裏切りもな』
「なんだかいよいよ怖くなってきた……」
あたしは悪魔の銃をその辺の地面に放った。
『おい、何のつもりだ?』
「じゃあそろそろ行きますね! 魔銃さんとやらもお元気で!」
そんなわけで、全速力であの場所から離れて公園まで戻ってきた。
不思議なことって現実にあるものなんだ。本当は誰かに話したいけど、こんなの信じてもらえないどころか色々疑われちゃうな。
そう思い家を目指し歩き出すと、
『契約は結ばれたと言っただろうに』
「ひゃ!?」
いつの間にかあの銃が手元に戻ってきていた。
もう一度投げてもすぐに帰ってくる。
もう諦めろということなのかもしれない。それを思えば溜息が漏れた。
「一応聞いておくけど、その契約ってどういう内容?」
『いい機会だ、一度しか言わないからよく覚えておけ。お前が本懐を果たすか、はたまた命を落とすまで
「本懐?」
『
「なんだかわかりにくいなあ。もっと具体的に言ってくれない?」
『ならば。お前を裏切った人物に復讐を遂げる、というのはどうだ?』
その言葉にあたしは足が止まる。
「そんなことできるんだ……?」
『やりようによってはだ。直接相手を攻撃できるわけではないゆえに、ある程度考えて動く必要はあろうな』
「あ、復讐っていうのはちょっと言いすぎかな。反省させるみたいな感じでいいんだけど」
『ハッ、ぬるい湯のような考えだな』
「ぬるま湯でいいもん!」
『まあいい。して、やるのかやらないかだけは聞いておこうか』
「今のままじゃ、あたし前科者だしできるなら決着はつけたい。……と言いたいところなんだけどすぐには動けない」
俯いたまま再び歩き出す。
『おおかた母親のことであろう?』
「本当にお見通しってわけね。家を離れるにしても、元気になってからじゃないと不安なんだ」
『それに関しては一つ妙案がある。――おっと、少々喋りすぎたか。ここらで
それを最後にウィグナーは一切口を聞いてくれなくなった。
「おかえりアリス。遅かったからすごく心配したわ」
「今日は忙しくてね。はいこれ、前に言ってた王都のお土産だよ!」
ベッドに入ってからも、あたしはウィグナーの言っていた妙案のことをずっと考えていた。
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