第30話 推しヒロインと共闘する
「ベルナデッタ! 貴様は後方に回れ! 貴様は人間である以上傷つきやすい、その分我の方が強靭だ!」
「そうは言っても、さっき凄く苦しそうにしていたじゃないか! 私が前に出ればいくらかマシになるだろう!?」
それを言われたら反論に困る!! 神聖魔法は魔族に対して絶大な威力を発揮する。人間であるベルナデッタにはあまり意味がないのは、その通りなのだが――
「はっ、早速ケンカかよ! 二人でなかったらこんな風に――攻撃を受けることもなかったのになぁ!!」
「くっ!!」
ベルナデッタに爪を突き立てようとするノワール。こちらは奴本来の黒い魔力が迸っていた。
実質二つの魔法を操れるようなものか――俺は急いで間に割って入り、剣で攻撃を防ぐ。
「――二人だからこそ、今の攻撃を無傷で凌げた。数は勝敗を決める要素だ! 今現在人間を多数支配している貴様も、思い知っているだろう!」
その力を上手いこと吸収し、押し出すエネルギーに変える。
ノワールは弾き飛ばされ壁際まで追い詰められた――窓ガラスを割り、外まで吹き飛ばされる。
「ぐあああああ……っ!!」
「クソ……生意気なっ!!」
すぐノワールは竜翼をはためかせ、態勢を取り直す。周囲の空気が激しく動き、風が起こる。立っていることも辛くなる勢いだ。
「ベルナデッタ! 風の影響を無効にするように魔法を――」
「シュヴァルツ!! 上だ!!」
「何っ……!!」
俺がベルナデッタの方を振り向くと同時に、上から何かに叩き潰される。
その勢いは強く、床を破壊しどこまでも下に落ちていく。ノワールが俺を潰していることに気づいたのは、落下が完全に止まってからであった。
「うひゃあ!? 魔王様!! とにっくきノワールだ!!」
「ひいっ、『黒き翼』に『黒竜王』……!! 逃げろー!!」
どうやら一階にまで叩き落されたようだ。魔物や人間が慌てる声が耳を覆ってくる。
ノワールは手を首に押し当て、俺の息を止めようとする。当然俺は剥がそうとするのだが、かなり掴む力が強く、簡単に外れてはくれない。
加えて翼が動き、空気の流れが激しく上手く息ができない。みるみるうちに手が痺れていく。
「ぐっ……おおおおおっ!!」
「魔王であろうとも息ができないと死ぬんだよなあ!? このまま惨めでくだらない死に方をしろぉ!!」
くだらない殺し方で魔王を殺すな――そんな文句は脳裏に浮かんだが、口にする力がない。
もうダメかもしれないと思ったその時に、救いは訪れる。
「グルルルアァ!!!」
「何……ッ!! 人狼!!」
人狼がタックルしてきて、ノワールを突き飛ばす。俺は急いで起き上がり、深呼吸を繰り返し状態を元に戻す。
その人狼はヴィヴィだった。彼女はしてやったりという態度で、俺に向かって笑顔を浮かべる。
「魔王様! ご無事でよかった!」
「ヴィヴィ、礼を言うぞ! 危うく天に昇るところであった……!」
周囲がめまぐるしく動く以上、何があってもおかしくはない。だがそれに反応できないのは許されない――それができなかった時点で死だ。
「ベルちゃんは一緒じゃなかったんですか!?」
「我だけここまで落とされてしまい、はぐれてしまった。追ってきていると思うが……」
魔物達はノワールの襲来と共に外に逃げたが、人狼達だけはここに残った。積極的に攻撃を仕掛け、奴を翻弄しているが――
「ふんっ!! ……ああ、これ人狼にも効果絶大だ!!」
「きゃあっ!!」
神聖魔法の衝撃波を喰らい、どんどん致命傷を負っていく。わずかでも魔族の血が流れているなら効果が及ぶのか……!
教皇達が開発していた神聖魔法。確か作中では不完全な状態で終わってしまっていたが――俺が動いているうちに完成したとでも言うのか。厄介なものを残してくれたな、本当に……!
「皆下がって! 無暗に突撃してどうにかなる相手じゃない!
「わかっているじゃないか? 人間も時には役に立つもんだ!」
感心しつつもノワールの動きは止まらない。一瞬にして俺との距離を詰め、そして剣と爪とで交戦を始める。
「ははははは……!! なあシュヴァルツ!! 君達の様子を見ていて、僕は面白いことを考えたんだよ!!」
「まさか我等を仲違いさせるつもりか? 前回は不覚を取ったが、二度も同じ手には乗らん!!」
俺が高を括ったのと同じタイミングで、ベルナデッタが階段を使って上から降りてきた。
「はあ、はあ……! シュヴァルツ、遅くなってすまない! 足をくじいてしまって……!」
「おっと、負傷しているのかベルナデッタァ!! なら益々面白いことになるだろうな――!!」
ノワールがにやりと笑いながら、階段の上のベルナデッタを見遣る。俺は嫌な予感が過ぎり、彼女を庇おうと動くのだが――
俺が到着する前に、奴が行動する方が早かった。
「ベルナデッタ!! 君はさあ、『人としての幸せに目覚めた』んだよな!? 心がそう思っているなら、身体も合わせないといけないよな――!?」
ノワールはベルナデッタに向かって指を伸ばし、何やら魔力を操作する。そして、ベルナデッタの身体に異変が起きた。
「なっ……えっ、嘘……?」
手足に生えていた爪、竜鱗、そして局部を覆っていた服。全て一瞬にして消え去った。
俺がベルナデッタの所に辿り着く頃には、彼女は衣一つ纏っていない、ただの非力な人間に成り下がっていたのである。
「……くっ!!」
俺が到着した瞬間、天井が崩れ落ちる。呆然としているベルナデッタを抱きかかえ、急いでその場から走り出す。
彼女を抱えている影響で、普段よりも走る速度が落ちてしまう。ギリギリこの場は凌ぐことができた――
「ぎゃははははは!! さあ『黒き翼』、最強の魔王!! 『夫』は『妻』を守るんだろ!? 足手まといの人間抱えたままで、一体どこまで戦えるか見せてもらおうか――!!」
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