第27話 推しヒロインと出撃準備

 その後何分か宝物庫を探し、良さそうな武器や魔法を探して持ってくる。



「おお、まさかこれは『黄金の爪』……! 本当に実在したとは!」

「我も宝物庫に眠っているとは思わなかった。貴様に預けたら鬼に金棒も当然よ、ヴィヴィ」



 このいかにも強そうな手甲も宝物庫に眠っていた。作中に描写されていないだけで、まだまだお宝が眠っていそうだな。


 それこそ実際に出そうと思ったけど、構成上カットせざるを得なかった品々だったのかもしれない。



「しかし人狼で一番強い者として、まさか貴様が推薦されるとは思わなかったぞ」

「私達の戦闘技術は、全部ヴィヴィさんに教えてもらったんですよ」

「そうだったのか。実力者は爪を隠すものだとよく言ったものだ」



 一方でベルナデッタと関わりがあるのなら当然か、とも思ってしまう。主人公に関するなら必然的にキャラが濃くなるのだ。




「今回は爪を出して戦うので、容赦はしないというメッセージとも取れますね」

「はは、上手いことを言いおって。さて人狼達よ、他に必要な物はあるか?」

「いえ、あとは大丈夫です。『黒竜王』の加護を得たところで所詮は人間、何とかなりますよ」



 人狼の軽い発言に、近くを通りかかったスライムがびくっと反応する。



「しょ、所詮って……実質的に『黒竜王』を相手にするようなもんだぞ!? よく楽観的でいられるな!?」

「そっちこそ何ビビってるんですか。私達は偉大なる魔王シュヴァルツ様に従えている身ですよ? 最強の魔族に仕えているんですから、ノワールなんかに引けを取りません」



 人狼達があまりにも誇らしげに語るものだから、周囲の魔物も同調され、自分達は強いという雰囲気になってきた。



「そ、それもそうだな……シュヴァルツ様が勇ましく戦われるのに、俺達がビビってどうするよ!」

「見ていてくださいねシュヴァルツ様ー!! 俺達はこの戦いで、華々しい戦果を挙げてきますからー!!」



 魔物が何体か声をかけてきたのを受けて、俺は驚いた。シュヴァルツの人望はここまでなのかと。思えば臣下の魔物達を労わる言葉は、悩むことなく自然に出てくることが多かった。案外同族には優しかったのかもな。



「慕われているんだな、シュヴァルツ。私もあなたに出会えて本当によかった」

「ふん……我は所有物を丁寧に扱っているだけにすぎん」

「当然のように仰ってますけど、それが大変なことなんですよね~」

「謙虚にすると逆に強さが引き立たれますね!」

「褒めた所で何もしてやれんぞ」





 それから他の魔物達も見回り様子を確認した後、俺とベルナデッタは仮眠を取り――次は午前3時頃に目覚めた。



「朝にしては早いが、貴様は眠くなっていないか」

「ふん、この程度……しっかり数時間単位で眠ったのだし、ばっちりだ」



 出撃は明朝にすることにした。人間は朝に弱いというのがこの時間に選んだ根拠。


 もっともノワールもそれを承知しているだろうから、いつ攻め込んでも変わらないだろうという認識はあったが――気休めでも最善は尽くしたかった。



「そういえば、魔物達は空を飛べる魔物に運んでもらって移動するんだったか。なら私とあなたはどうなる?」

「我と共に空を飛んで移動する。落下せぬように心がけよ」


「……何だその表情は」

「いや、また転移魔法陣を使うものだと思っていたから……」

「恐らく大聖堂にはノワールの魔力が張り巡らされている。突入していきなり交戦にでもなったら、溜まったものではない」



 そういう理由で今回は地道に移動する。ちなみに飛ぶ方法はというと、魔法でどうにかする予定だ。



「さて、魔物共に声をかけてくるとしよう。だがその前に……」

「何かすることが……あっ」



 俺が予想した通りベルナデッタの腹が鳴った。



「ははっ、我は学習したぞ。人間は朝に食事を取らないと活動できん。まずは食料庫に行かなければな」

「くっ……こういう時ばかりは魔族が羨ましい」




 というわけでベルナデッタに食事を取ってもらう。食料庫に移動し、彼女に食べたいものを聞くことにした。



「またあなたが作ってくれた料理が食べたいな。あのえげつない見た目のスープ」

「味噌汁のことをえげつないと言うな。美味かっただろう」

「確かに美味かったがあの見た目は衝撃だった。ヴィヴィさんにも見せてあげたいな」


「ああ、あれは我も定期的に食べたくなる一品だ。人狼達に作り方を教えておかねばな。いずれにしても、今は簡単な物にしろ。重い物を食べて腹を崩したらどうする」

「む……その可能性は考えていなかった」

「食わねば活動できんが、食っても不調を齎すことがある。気難しいものだな」



 俺のアドバイスを受けつつベルナデッタは食料庫を探す。そして結局、パンにジャムを塗ったもので済ませることにしたようだ。




「軽めと言われたからな、二斤で我慢しておこう」

「十分食べていると思うが」

「私からすると腹六分目ぐらいだ」



 出会った直後のように、パンに食らいつくベルナデッタ。思えばあの時から色んな経験をしてきた。それこそ世界の常識を覆すような。


 ならば最後までひっくり返してしまって、幸せをこの手で掴み取ってやろう。俺はそう思いながら、ベルナデッタが持っていたパンを少しちぎり取る。



「む、貴様も食べるのか。このジャム美味しいぞ。だが私が前に食べたジャムの中に、より美味しい物があった」

「ほう、それは興味深いな。後で探しに行ってみるか……うむ」



「どうしたシュヴァルツ、何故黙るんだ」

「いや……このような会話をするなぞ、まさしく『夫婦』ではないかと思ってな」


「何だそんなことか? 今更何を言うかと思えば」

「今更……ははっ、確かに今更だな。元々そういう名目だったのだから」



 二重の意味で覚悟を決めよう。何としてでもノワールをぶちのめし幸せを掴むという覚悟と、ベルナデッタの『夫』として振る舞う覚悟だ。多分後者の方がきついかな、はははっ。

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