第26話 推しヒロインと宝物庫探索
色々あったが、とにかくノワールと全面戦争が始まることになった。フリューゲル城はその準備で慌ただしくなる。
「今回参加可能な者はどの程度いる?」
「全体の八割ぐらいです。まだ傷が癒えておらず、泣く泣く休む者も少なくありません」
「ノワールと正面衝突するとわかっていたなら手加減していたのに……」
「我がまさか関係性を持ちかけてくるなど、誰にも想像できまいよ。故にこれは我の責任である」
「自分で言うのか。まあ事実だがな……」
昨日の今日で戦闘続きで、魔物達にも申し訳なくなってくるな。それにフリューゲル城だってまだ修繕が完全に済んでいない。流石に命運を分けるような戦闘を二度もしたら、修繕が終わる前に城が崩壊する。
「魔王様ー! こちらが『大聖堂』の見取り図になります!」
「うむ、流石の仕事の早さだ。感謝するぞ」
「見取り図なんて書かせてどうするんだ?」
「突入する際の最適な位置を探す。ベルナデッタ、貴様の意見も参考にしたい」
「私にできることなら……協力するぞ」
というわけで今回は、フェリスに直接乗り込んでノワールをぶちのめすことにした。というか城で待っていたとして、あいつはまず人間達を送り込み、俺とベルナデッタを消耗させるだろう。その上で叩かれたら一溜りもない。
よって雑兵は魔物達に任せ、俺とベルナデッタは早急に親玉を叩く。こうした方が万全の状態で戦えるのだ。ちなみに大聖堂というのは、フェリス国の王城みたいなもん。人間の偉い奴はここに集結して仕事をしている。
「大聖堂には秘密の裏口があるんだ。確かこの辺りに……」
「魔法錠がかかっているのだったな。鍵は東の倉庫に置かれている」
「人間の建物なのに、どこで知ったんだ」
「以前偶然にもな……知る機会があったのだよ」
もちろんこれも作中の描写。ベルナデッタが人間の役人を連れて、ここから逃げるというシーンがあったのだ。
「ふうん……どこで知ったかは聞かないでおくとするよ。今重要なことではないしな」
「物わかりがよくて助かる。とすると、他にやらねばいけないことは……」
魔物達にあらかた指示は出し終わった。後は出撃する時まで心身共に整えてもらうだけ。
「我自身の準備をせねばならん。宝物庫に行くぞ」
「あの広い中から兵器を漁るのか」
「いや、持ち出そうと思っている物については、目星がついてあるのだ」
『ブラッディ・アポカリプス』最終巻の一個前。そこの設定公開コーナーに、ラストの展開の没プロットが置いてあった。
それによると最後の決戦において、シュヴァルツは究極魔法を使い、ベルナデッタと相打ちになってこの世から消え去る予定だったと言う。流石にヒロインが死ぬのはいかがなものかと編集にツッコまれて没になったそうだ。
まあ生き残ったら生き残ったで、もっと悲惨な目に遭っていたのだが――今はその没プロットを利用させてもらう。
「いらっしゃいませ魔王様ー!! 宝物庫は今日もキンキラリンで輝いております!!」
「管理ご苦労。今から秘宝を一つ持ち出すが、構わないか」
「ここにある物は元より魔王様の物なので、許可は一切必要ございません!! でも……危険な物ではありませんよね?」
「起動させた瞬間に爆発するとか、そういった物ではないから安心しろ。引き続き管理を行うように」
「かしこまりましたー!! きゃー!!」
数日前にも出会ったミミックと話をしてから、俺はベルナデッタと共に奥に進んだ。
「危険物ではない上に、今回の戦いの勝率を上げる物なのだろう。一体何だ?」
「これだ……究極魔法『アポカリプス』」
目的のそれは、禍々しい黒を内包した球体だった。側にいるだけで気が触れてしまいそうな迫力を持っている。シュヴァルツ程度の猛者でないと使いこなすのは不可能だろう。
「聞いたことがある……人間は訓練すればある程度は魔法が使えるようになるが、例外が存在する。それこそが『アポカリプス』」
「人間にも知られている存在なのだな。これは魔族にしか従えられぬ闇なのだ」
俺は呼吸を整えてからそれを手に取り、そして身体に押し込んだ。すーっと溶けて俺の身体に吸い込まれていく。
「ふむ……調子は悪くないな。ノワールの面にこれを叩き込んでやるとしよう。闇に飲み込んで跡形もなく消してくれるわ」
「はは、それはいいな……私じゃなくてよかった」
ベルナデッタから不意に漏れた一言に、俺は反応する。
「何だ今の言葉は。自分に向かって放たれる心当たりがあったのか?」
「それはもう、あなたとの直接対決。あの時に使われていたら、今こうして語り合えることはなかった」
「……何故か貴様との戦いでは使いたくなかったのだ。享楽を求めていたからであろうな」
「邪魔者だと断じて排除することもできただろうに……どこまでもあなたらしいな」
「……」
没プロットとはつまり、一度は正史にしようと思ったけど、やめておいたということ。その『可能性』がこの世界に残っていたのかもしれない。ベルナデッタはそれを敏感に察知したのか。
「ところでこの宝物庫にある物、シュヴァルツは全て把握しているのか?」
「ん? そんなことは一切ないぞ。価値がある物は取り敢えず放り込んでおいているからな」
「そうなのか?」
どうやらそうらしい。シュヴァルツは色んな享楽に手を伸ばしていたっぽいから、宝集めに割く熱量がそこまでではなかったのだろう。その分食事に熱心だったということだ。
「だとしたら効果がわからない物もあるということだな……よっと」
「待て、自然な流れで持っていこうとするな。我に許可を取れ」
「ああすまない、見ていたら欲しくなってしまって……」
ベルナデッタが微笑みながら手にしていたのは、キラキラ光る青いリボンだった。
「……髪を結ぶのに使いたいなら構わないが。何が起こるかは保証せんぞ」
「こんなにも綺麗なんだから、悪いことは起こらないだろう。女性物の装飾品も集めていたとは驚きだ」
「宝物庫に入れておいたということは、何か特別な効果を持つのだろうが……」
じっと観察してみるが、何もわからないし思い出せない。多分よく説明も聞かずにシュヴァルツは放り込んだのだろう。
あと正直なことを言うと、ベルナデッタがこれで髪を結んでいる姿を想像したら、どうでもよくなった。可愛さは全てに勝る。
「貴様の言う通り、不都合が起こるわけではなさそうだ。起こったとしても我の力で粉砕してやる」
「呪いすらも跳ね返す、頼もしい魔王様だな」
「貴様が自由に容姿を変えたいと言うのであれば、そんなものは些細なことよ」
「ふふっ……ありがとう。それと、他にもこのリボンのような物があるか探してみたいのだが……」
「ノワールとの戦が終わってからにしろ。そうすれば好きなだけ漁れる。焦って不必要な物を取り出す心配もなくなるぞ」
「それもそうだな。ああ、戦いの後が楽しみだ!」
「気を抜いて敗北するようなことになったら許さんぞ。全く」
この戦いには必ず勝って、ベルナデッタに好きなだけおしゃれをさせてあげたい。というか、おしゃれをして可愛くなった彼女を俺が見たい。
そういう気持ちも愛なのだろうな――なんて恥ずかしいことを俺は考えるのだった。
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