第13話 推しヒロインと作戦決行

 朝食も食べてエネルギー全開。改めて俺達は玉座の間に移動し、配下の魔物達に今日の予定を告げる。




「さて……知っての通り、昨日『黒き竜の聖女』ベルナデッタ及び勇者フリード率いる人間達が、このフリューゲル城に攻め込んできた。これが示す事実はただ一つ、人間達はいよいよもって魔族を制圧するつもりでいるようだ」



 俺が玉座に座り、その隣にベルナデッタが立っている。原作を追っていた時には考えもしなかった協力関係、もとい男女関係だ。



「これに対し全ての魔族は団結し抵抗を……と言いたいところだが、早速裏で糸を引いている者がいる。貴様等も知っているであろう『黒竜王』だ」


「奴は人間に力を貸し、我の打倒を目論んでいるようだ。人間達はこれで打ち勝てると思っているのだろうが、我が消えた瞬間に奴は裏切るだろう。結局自分とそれに従う下僕しか目に入っていないのだ」



 俺の発言に対し、ベルナデッタが小さく頷いたのを見逃さない。奴の邪悪な性分は、彼女が一番理解しているのだ。



「奴を討伐するのは当然だが、その前段階として、まずはフリードを始末する。あの人間は去り際にベルナデッタを狙う趣旨の発言をしており、それを元に再び攻め込む可能性が高い」


「フリードも含め、『黒竜王』によって強化された人間共が何度も送り込まれては、疲弊が募るばかりで埒が明かん。よって早めに――本日中に手を打つことにした」



 本日中というのを聞いて、魔物達はざわつく。俺の行動力の早さを絶賛する者もいた。



「我が直接フリードに手を下す。その間、貴様等はフリューゲル城の修繕を進めよ。時間があるようなら己の研鑽もな。いつ敵と交戦してもいいように、万全の体制を整えろ」


「まだこの戦闘は終わっていない。力を溜め込み反撃を仕掛け、人間共に魔族の力を見せつけてやるのだ!」



 魔物たちに向かって呼びかけると、玉座の間全体が歓声に包まれる。これがカリスマってやつか……やっぱり凄い奴なんだな、シュヴァルツ。俺が中に入っているせいで、影響力忘れそうになるけど。





 士気が上がった魔物達は、颯爽と作業に移っていった。玉座の間には、俺とベルナデッタだけが残されていく。



「シュヴァルツ。フリードの討伐、私も同行するぞ」

「ふうんっ、そうかまあ認めよう」



 言われるまでもなく、俺はフリードの討伐にベルナデッタを連れていこうとしている。だが理由が思い浮かばずどうしようか悩み出したところに、ベルナデッタが先手を打ってきてくれた。予想外だったので変な声が出たが。



「奴には私から絶縁を叩きつける。私は勝手に物事を終わらせられ幸せにさせられるような、操り人形ではない。けじめをつけるなら私の前でやってもらうぞ」

「ベルナデッタ……」



 口では簡単に言っているが、覚悟は並大抵ではないだろう。何せ人間であるにも関わらず、同じく人間であるフリードとの決着をつけるのだから。


 それは同族に対する裏切り、魔族に手を貸すのと同義。だがそんな大それたことは今の彼女には関係なく、ただ感情を裏切られた憂さ晴らしがしたいだけだろう。幸せになるための決着とは、恐らくそういうことだ。



「それにだ。奴は人間の町を拠点にしている。魔族の領地から基本的に出てこない貴様だ、案内役は必要だろう?」

「その気になれば我の魔力でどうとでもなるが……使わないことに越したことはないな」



 ガンガン理由を詰めてくるな……! どうしても同行させろという圧を感じる。それはそれで構わないのだが、懸念点は当然存在するわけで。



「だがベルナデッタよ。貴様は人間社会においては名前どころか容姿も知れている。のこのこと姿を見せたら、騒ぎになるのは間違いないだろう」

「それはそうだが……変装すればどうにかならないか?」


「見た目を変えたとて、魔力までは隠せんだろう。魔力だけでも貴様という存在を探知できる程なのに」

「むう……では町の外で待つのが最善になるか」

「それだと我の近くを離れてしまう。そこをフリードやノワールに襲われたら元も子もない」




「……変装に関しては、我がどうとでもしてやる。一番の問題はそこではないのだよ」


「貴様が昨日言っていた不安だ。嫌っている、恐れている、裏切る可能性を秘めている者。それらの感情に触れる機会が全くないとは言い切れん。守られるだけの人間というのは、醜悪な感情を往々にして抱えるものだ」


「そういった感情を直に受けても……耐えられそうか?」




 俺の一番の懸念点はそれだった。ベルナデッタが不特定多数の悪意に触れて、もっと傷つくのではないかと。


 だからと言って城に置いていくのも何があるかわからないし、そもそも今の感じだと意地でもついてきそうだ。




「大丈夫と思いたいが多分無理だろう。泣き出してしまうかもしれない」


「だがシュヴァルツは、そんな私をどうにかする気でいるのだろう?」



 そう言って、ベルナデッタは俺に笑いかけた。



「これがもしも一人だったら、感情に潰されていただろうな。しかし貴様がいてくれるなら、何だかやれそうな気がしてくるよ」


「……全く。直接対面して一日で、ここまで心を開いてしまうとは。これも魔王の力のうちか?」



 素直さの中に皮肉を混ぜながら、俺のことを信頼してくれている。



 作中ではどこまでも復讐のことを考えていて、人に心を許す素振りが一切なかった。だがいざ許してもらうと、ここまで素直になるものなのか――




「……くっ、ははは。実にその通りだ。我には他人を心の底から信奉させる力がある。それがあったからこそ、魔王として君臨できたのだ」



 俺は思わず早口になって答える。そして勢いのままに歩き出して、玉座の間を出ていく。



「然らば早速準備をしないとな。貴様のみならず、我も姿を隠させばならん。騒ぎを大きくされる前に始末するのが、この作戦の重要な点だ」

「そうだな。私が認めるのもあれだが、人間は数だけは多いからな。いくら世界最強が二人いても、押し切られる可能性だってある」


「はっはっは。ベルナデッタよ、貴様は我を最強と認めるのだな。『夫』を立てるのは『妻』に相応しい態度よ」

「客観的な事実を連ねただけだ。立てるつもりなぞ一切なかったのだがな」



 素直だと思ってからかうと、照れてツンツンする。くうっ、この心の揺らぎがたまらないぜ。原作だと無表情が多かったから余計にな。


 この先色々な表情を見せてくれるのかもしれない。俺はそう考えると、ちょっと心が踊るのだった。

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