第12話 トドメのレッスン


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2月6日


元の職業柄いろんな人とハグをした(もっぱら年寄りばかりだが)から、少し不安になってきた。

今はじゃれるように体を触り合うだけだからルシオも俺とえっちなことしてるけど、いざ本当に“抱き合った”ら、俺にリーゼロッテを求めていたら、がっかりするんじゃないだろうかと思ってしまった。

ちんちんに触れるのには抵抗なさそうではあるけど……。でも、いざ挿れてみたら、違うかも知れないじゃん。

この身体は間違いなく男の体だ。いや、女になりたいだなんて真面目に考えた事はないが、間違いなく男だ。じいさんばあさんたちとハグしたって男と女じゃ全然違ったんだ、あの人たちより若い俺たち(ルシオはおおよその肉体年齢でカウントする)なんだからもっと露骨に違うんじゃないだろうか。

俺も一応、回数は少ないが、若い女の人と抱きしめ合ったことがある。柔らかかったし、いい匂いがした。

……俺はもう中年の男なわけだ、いい匂いなんかするはずもない。コロンでも買うか?なにをどうしたらいい?

ルシオは俺より沢山の女の人を抱いてるみたいだから、俺と感覚がかなり違うと思う。

なにをしたらルシオが喜ぶんだろうか。

わからない。

あと5日程度であのホテルに着く。

今日は誘われたが、気乗りせず断った。

ルシオが不安そうな顔をしていた。おそらく俺もそんな顔だったんじゃないかと思う。

慌てて笑って誤魔化したが、ルシオにきつくハグをされた。不安に思ってることがあったら言って欲しいと言われた。

勇気が出ない。明日まで待ってくれと言った。

明日はきちんと言えるだろうか。

うまく、気持ちを伝えられるだろうか。


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2月8日


リヤンと話をした。


彼は男だから、女性と、僕が探し求めていたリーゼロッテと違うんじゃないかと気にしていたようだ。

わかるよ、不安になる。肌を重ねたら何かが決定的に変わってしまうんじゃないかって思う。初めてキスした時だって世界が終わるんじゃないかってくらい不安だったのに、今はその時とは比べ物にならないもの。

その変わってしまう何かが、嫌なことだったらどうしようって、子供みたいに不安になる。


僕は今、リーゼロッテじゃなくてリヤンが欲しいよ、と言った。

リヤンを抱きたい。若い女の匂いはしないけど石鹸の匂いがして、僕より背が高くて、どこもかしこも骨ばっててやわらかくなくて胸がたいらで股座に立派な男の子があるリヤンを。

僕だってリヤンに嫌われたくないからリヤンの嫌がることはしたくないけれど、もしここまで来てやっぱり抱かれるのが嫌だなんて言われてしまったら、僕がどうにかなってしまう。

僕は、もう誰がなんと言おうと君を抱くつもりでいるから、どうしてもの時はちゃんと言うんだよ。

そう言ってキスだけした。舌を入れないやつ。


レッスンはきっともう充分だから。

あのホテルまでは、こうやって眠るだけにしようか、と、腕枕をしてベッドに入った。

リヤンの鼓動が物凄く聞こえる。寝入るまでに随分と時間がかかった。

僕が抱えてるのと同じくらい、リヤンも不安の中に期待と興奮をたくさん抱えているといいなと思う。


あのホテルまであと3日。


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2月9日


朝起きたらスマホであのホテルを予約しようと思ってたんだけど、目が覚めても起き上がれなかった。

なんだどうしてだ?って、だんだん覚醒するうちに熱が出てるんだって気付いた。頭が痛くって、体が重い。

情けない、おそらく知恵熱だ。いい歳こいて……。


添い寝してくれてたルシオは俺が目を覚ますより早く俺の体調の変化に(くっついて寝てたから)気が付いていたようで、俺のおデコに濡れタオルを乗せてくれていた。

ぼんやりする視界の端っこでルシオを捉えた時には、少し困った顔が微笑んだ。

起きちゃダメだとルシオは言った。

明日にはあのホテルに着くはずだったのに。

ごめん、なんて言ったらルシオは俺を許す言葉しか返さないだろうから謝れなかった。

なんとか動く手を伸ばしてルシオの手のひらをくすぐったら、ひどく優しい声で「そんなに難しく考えないで」と言った。「僕は君を愛している、だから、心配しないで」「たくさん休んで、きちんと元気になって欲しい」と、そう言ってあいつは俺の頭を撫でた。

夜になってだいぶ落ち着いたから、ルシオが刻んでくれたりんごを食べた。うまかった。

ルシオがベッドの横に椅子を引っ張ってきて、本を読んだり何かを書いたりしている。

にっきかいてるのがばれたからもっかいね る . .. . .

(インクが飛んでいる)


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2月10日


あの後ルシオに説教されながら寝た。

そんでもって夢を見た。

夢の中の俺は、真っ白い部屋の中で真っ白い家具にリネンに目をちかちかさせていた。

柔らかな陽射しが風に踊るカーテンの隙間からさしていて、その先で真っ白い女の人、リーゼロッテが微笑んでいた。

俺たちはベッドの横に並んだ椅子に腰掛けて向かい合っていた。俺はどうしたらいいのか戸惑っていたがリーゼロッテから手を握られて「こんにちはリヤン」と元気のいい挨拶をされて、一気に気持ちが弛緩した。

夢の中の俺は夢だと思っていないから、挨拶を返しながらもリーゼロッテに質問ばかりしていた。どうして俺とお前が一緒にいるのか、とか、ルシオはどこにいるのか、とか。体は大丈夫なのか、とも。

リーゼロッテは親切に、でも少しはぐらかしながら答えて、そういう貴方はどうなの?と聞いてきた。

俺はいたって健康だと答えると、おデコをつつかれた。

じゃあなんでお熱が出てるの?と言われて顰めっ面をしてしまった。

俺は、お前のルシオとどう接するべきか悩んでいると答えたら、リーゼロッテは俺のほっぺたを両手でムギュムギュに掴んでもみくちゃにしながら「“私の”ではないわ。今は“貴方の”よ。ルシオは、わたしたちのルシオなの」と朗らかな声で言った。私と貴方は全然違うけど、同じなの。と、宣ったが俺にはそれがどういう意味かいまいち理解できなかった。

でもリーゼロッテは満足そうに笑って「今生きてる貴方が、今生きてるルシオを愛して欲しいの」「あの時生きた私は、あの時を生きていたルシオを愛したわ!」と続けた。

「わからないふりをしなくていいの、貴方の気持ちに素直にいてくれたほうが、私は嬉しいの!」

ハグをして、頬にキスをしたリーゼロッテは急に実体がなくなって、部屋もすぐに暗闇になった。

上も下もない真っ暗な空間でふよふよと漂っていたら、そろそろ目を覚さなきゃいけないわよ!なんて言うリーゼロッテの声だけが辺りに響いて、目が覚めた。

瞼を開くと、ベッドの横に置いた椅子でルシオが脚と腕を組んでうたた寝をしていた。


変な夢だったなあ。


……夢だよな?


ひとまずルシオを起こしてキスを強請ったが、まだ微熱があるからと、ルシオはおデコにしかしてくれなかった。「きちんと元気になるまでお預け」だってさ。


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2月10日


リヤンが熱を出した。

咳もくしゃみもなくて熱と頭痛だけのようだから、知恵熱か疲れかな。“もうすぐ自分の家”っていう安心感と、その前に僕に抱かれるっていう一大事にたくさん悩んでしまったのかも知れない。


……いや、リヤンは教会に住んでいて、そこを出たのだからもう家は無いんだった。

僕が取り上げたようなものだ。

もしかして僕は、とんでもなくひどいことをしようとしているんじゃないだろうか。

僕はリヤンがずっと一緒にいてくれることに一人ではしゃいで幸せを噛み締めていたけれど、リヤンは帰る場所を無くしてこんな化け物から求婚されて、食べ物にされて身体までいいようにされて……もしこれが御伽話なら、王子様が現れて殺されるのは、僕だ。

そんなことばっかり考えてしまうけれど、リヤンが側にいてくれる心地良さをすっかり覚えてしまって、今更手離すなんて考えられない。

ごめんね、リヤン。


うじうじしたことで頭がいっぱいで泣きそうになっていたけど、リヤンの首に細い革紐が巻いてあるのを見つけて少し気分が持ち直した。

……眠っているリヤンが何か寝言を言った。僕の名前のような気がしたのは、都合が良すぎるだろうか。


僕のかわいいうさぎさん。

熱が下がったら、栄養のあるものを食べさせて、先のことを話そう。


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2月11日


熱が下がった。

熱が下がったっていうのに、ルシオがベッドから出してくれない。「大事を取って」との事だが、元気だとベッドで1人で過ごすのは退屈だ。

だから、大人しくベッドにいるから、もう昼だったし、ルシオも寝るだろうから添い寝してくれと言った。ルシオは、そんな!とか、いやでも!とか言いながらモジモジしつつ、なんだかんだ一緒の布団に入ってきた。

最初のうちは俺の頭を撫でたりしていたけど、俺が熱を出した日から今日までまともに寝ていなかった様子のルシオはすぐにすうすう寝息をたて始めた。

しばらくは胸に抱かれて心地よく過ごしていたけど、少しのイタズラ心がうずいて、そーっとルシオを仰向けに転がした。

ルシオはこういう時寝入ってしまうとちょっとやそっとじゃ起きないから、仰向けに転がしたルシオの側で横になったままくっついて、襟元を緩めて首筋にキスをした。それから、もともと肌が出てるところ……腕とか顔とか。そういうとこにキスしたり齧ったりした。

ルシオがほんの少しだけ呼吸を乱して、小さく息を吐く様子に、なんかこう、動悸がした。

そーっとバスルームに逃げようとしたら、パッと手首を掴まれた。「悪いうさぎさんだなあ」ってルシオは言って、俺をきつく抱きしめた。

ルシオは眠たそうで、すぐにまた微睡んで、そのまますうすう寝た。

いよいよ本当に寝入って目を覚さなくなったから、ルシオの服の前を全部開いた。もちろんズボンも。

半分覆い被さって真上からルシオの顔を覗き込みながら、手で下半身に触れた。もう半勃ちだったからパンツ下ろすのに手こずった。ゆったり、もったり、時間をかけてルシオのちんちんを沢山ずりずりした。ルシオ、悩ましい顔しながら、普段より少し大きい声で(でも寝ぼけた口調で)喘いでて、なんかこう、聞いてて動悸がした。ルシオの乳首舐めたり噛んだりしながらずりずりするうちに、ちんちんがびくっと跳ねて精液が出た。

なんか満足した気持ちになったから、綺麗に片付けて衣服も元通りにして、たくさんキスをした。

俺のも勃ってたからバスルームで抜いた。


夕方にルシオが起きるまでベッドでくっついていた。

起きてから、あのホテルの予約をした。

泊まりたい部屋の都合で、14日にチェックインの予定。


起きたルシオは少しだけ複雑な表情をしていた。


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2月12日


大変だ、変態だ。変態ポエムだ。

ルシオが俺のちんちんに黒子があるのを見つけて、「君の可愛いスイートバナナにシュガースポットがある!まるで“美味しい私を食べて!”って言ってるみたいだ!」と満点の笑顔で言った。

いやね、あのホテルにチェックインするのが14日だから、今晩移動を始めようってことになって移動したのさ。移動が終わって、14日の夕方まで滞在するホテルでシャワー浴びた後に、そのなんだ、ムラムラしたからルシオの体触りたいって強請った。あと2日であのホテルだけど我慢できそうにない?って困ったような嬉しそうななんとも表現しづらい顔でルシオが言ったから、触られるのが嫌なのか尋ねた。そしたらルシオは、いよいよ我慢が難しくなってきたから出来れば煽らないで欲しいんだと言った。俺の体は触らなくっていいから、俺は脱がないからルシオの体を触らせてほしいんだってだいぶ粘った(今考えるとかなりヤバいおねだりだな)ら、そこまでおねだりされたら断れないと言って触る事を許してくれた。

約束通りに俺は服を脱がずに、ルシオだけ裸に剥いてベッドに転がして、ルシオの脚に乗り上げてたくさん触った。たくさん触ったし、ルシオもたくさん出したし。すげえ満足したから、俺は自分の分抜いてこよーってバスルームに向かおうとしたらルシオは起き上がりながら「やっぱり僕も触りたい」って言って俺の腕を掴んだ。

我慢してるのにごめんなって謝りながらも、俺もちんちんパンパンになってたから触ってもらえるの嬉しくって。ルシオの節榑立った手が器用に俺のズボンのウエストを緩めていくから、もっと構ってほしくて邪魔するようにわざと指を絡めたりして戯れついたりした。

手を握ったりキスしたりして、どんどん気分があがって、つい「もう触って」ってルシオに縋りついた。

ルシオは、まあなんというか酷く悪い大人の顔をしてから俺の首筋に顔を埋めながら俺をベッドに寝かせて、ゆっくりゆっくり体を動かして俺の下半身まで移動した。ズボンもパンツもひん剥かれた。

俺のちんちんを裏返してキスしようとしたらしいルシオが急に「あ!」と大きめの声を上げた後、「君の可愛いスイートバナナ」と変態ポエムをこぼした。その時の俺は気持ちよくて頭がフワフワしてたから、いまいちわかってなくて。もしかしたらそうかも、なんて返したけど、今は、なんと言ったらいいのか、え、あー……えぇ……なんだその、正直少し引いてる。

スイートバナナて。シュガースポットて。

うわあ、うわあ。えー……。えぇ〜何言ってんだアイツ。

変なやつ〜〜〜〜!!!





……まあ引きはしたけど、褒められた(?)から、いいか。


200年前ってバナナ食ってたのかな?


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2月13日


あーーーーーー。

バカらしい。一体僕は何を悩んでいたんだ。


あの、あんな、なんなんだアレは!!

なんなんだあのかわいいうさぎさんは!!

ジーザス。いや待てよ?僕ら吸血鬼は神に嫌われた一族だから、“元”とは言え神父の彼を手籠にしようとしている天罰が降るのかもしれない。

幸せの絶頂から叩き落とされるのかも知れない。

ここぞ!というところで使いモノにならなくなるとか。

絶対嫌だ。絶対、絶っっっっ対にダメだそんなのは。


僕はずっと、「リヤンは僕に抱かれるのが嫌なんじゃないのか?」って気にしていたんだ。だって僕もリヤンも男だし。リヤンは神父だったんだから、同性愛は御法度だろうし。

けど蓋を開けてみたらどうだ。僕はするつもりはなかったんだ、リヤンが夜這いをかけてきたんだ!!


リヤンが!!夜這いを!!


いや、夜這いというのは違うかも知れない。昼間だったから、とかじゃなくて。

リヤンからねだられて添い寝をしたんだ。リヤンは熱が下がったばかりだったし、僕は今から寝る!って時間だったから。

熱が下がったばかりのリヤンに「大事をとって寝ていて!」って僕が言ったら、じゃあ添い寝してくれって言われたから同じベッドに入ったんだ。

そしたら、眠ってる(と彼は思ってる) 僕の服を寛げて、僕の逸物を擦って、僕の乳首をしゃぶって……ああ、思い出しただけでまずい。僕は今日自分で慰めたくないんだ。けど忘れない為にも書き留めておきたい……。


まあそこまでが一昨日の話。

昨日も昨日だった。あと2日であのホテルなのに、あのホテルについたら思い切り、思いの丈をぶつけられるのにリヤンが◼️◼️◼️(書き損じが何文字分か続いている) 「ルシオにさわりたい」って、熱っぽくて湿っぽくて熟れ切った目で言ってきた。その場で押し倒さなかった僕の理性を褒めたい。もう何かの勲章を貰っていいと思う。

始めは、もう咲きかかってる秘密の蕾か彼のかわいい雄蕊を可愛がって、埒を開けたいのかな?と思ったんだ。けれど僕も我慢できる自信が無かったから渋ったら、「俺の体は触らなくっていいから、俺は脱がないからルシオの体を触らせてほしいんだ」って。

はあ?なんなんだ。なんなんだこの子は!!

呆気に取られたけど、断れる訳がない。

そしたらリヤンたら僕の服をみんな脱がして、本当にリヤンは服を脱がないで、胸や(僕の乳首をいじって何が楽しいのかわからないけど、やけに面白そうに左右交互に舐めてた) 腹や(臍をいじって何が面白いのかわからないけど、僕はリヤンの臍なら一晩中でも舐めていられるからそういうことなの、か?そうだったら嬉しい) 僕の逸物()を、彼の細くて長くてふしくれだった指がいいように弄んで、たまらず出してしまった。

いっぱい出した。

ぜえぜえ言いながらシーツに沈んでた(けど腹八分目なんてもんじゃない腹一分目でしかない。メインディッシュが遠すぎる!!) 僕を何故か達成感を滲ませた目で見てリヤンがバスルームに行こうとするから捕まえて、僕も彼の身体をいっぱい触った。いっぱい出させた。


いつか、リヤンと肌を重ねるのが日常になったら。

リヤンのほくろを全部、彼の知らないのまで全部まる暗記するんだ。

固く心に誓って、涎を垂らして暴れようとする愚息を抑えつけた。


明日にはあのホテルに着く。

期待と、不安と、他にもいろいろ、形容し難いものが胸のうちに数えきれないくらい渦巻いている。

けれど、きっと大丈夫。

夜這いをかけてくるくらいには、リヤンも待ちきれないみたいだし。

大丈夫。この不安を乗り越えて、もう一段階向こう側へ行ける。


リーゼロッテとは超えられなかったところへ行ける。

大丈夫。


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2月14日


日記を書くには早い時間だ。昼の2時。

でも、多分俺は今日の夜は日記を書くことができないと思う。だから今の気持ちを残しておくのと、気持ちの整理のために筆をとった。

……まるで遺書だな。

日没後、今滞在してるホテルを出てリーゼロッテの別荘だったホテルへ移る。

そんでもって、そこで俺はルシオに抱かれる。ルシオとえっちをする。

痛そうで怖いのと、早く繋がりたいのと、今までシてもらった気持ちいいことのもっと先にいくんだと言う気持ちと、まだ答えを返してない罪悪感でごっちゃ混ぜになってる。

今までの触ったり触られたりなら、ギリギリおふざけで済んだ(済むか?)けど、いよいよ本当にえっちするとなるともう後戻りができない気がする。

繋がりたくて胸の奥が絞られるような切なさを味合わなくて良くなるかわりに、なんだろう、こう、体まで繋がったらルシオなしでは生きていけなくなりそうで少し不安だ。

この先ずっと一緒に生きていくつもりだから不都合はないんだけど、なんというのか、共に生きるのではなく俺がルシオに寄生してしまうんじゃないかって気持ちが少しあるから不安だ。

だってルシオと一緒にいると心地いい。

喧嘩もしたし、お互い不安や不満に思ってることもあるし、怒ったり怒られたりすることもある。だけど、あいつといると心が喜ぶ。


ルシオは俺によくしてくれるから、だから心地いいのかと思っていたけど、だとしたらあの村の爺さん婆さん達と何が違うのか。

みんな同じように俺に色々と施してくれていた。とても嬉しかったが、ここまで穏やかで豊かな気持ちになった事が無い。

ただでさえ気持ちがルシオに甘えようとするのに、身体まで甘やかされたら俺は自分で立っていられるんだろうか。気持ちも身体もとろとろに溶けて形を保てない気がする。

俺が俺じゃなくなっちゃうみたいで、少し怖い。

繋がりたいよ、心の底から。

でもそれは俺の欲求なのか?リーゼロッテの記憶じゃないのか?って疑ってしまう。

気持ちだけじゃダメなのか?身体も欲しがっていいのか?ルシオは、優しいから、俺に合わせてるんじゃないのか?

でも今更「やっぱりやめよう」なんて言えない。だって、色々考えすぎて疲れてソファで横になった時に、考えるでもなくルシオに触れることを想像してたから。

俺が、きっと俺自身が、ルシオを欲しいんだ。

誤魔化すのやめよう。言い訳だけして本当のことから逃げるのをやめる。


ルシオが欲しい。

ルシオの気持ちを独り占めしたい。

他の誰にも渡したくない。

でもこんな卑しい気持ちは、ルシオには言えない。


鼓動が早い。

胸の奥のほうが絞られるみたいな感じがする。

でも不快なんじゃない、甘く焦れるような感じで、ぎゅっと。

どきどきしてる。


スキンを用意したい。ルシオのサイズのやつ。

後で薬局に行く。

でも入手したとして、どのタイミングで渡したらいいんだろう。

上手くできるかな。

緊張してきた。


がっかりさせたくない。

やっぱりいらないって言われたら、俺はどうしたらいい?


怖い。


怖い。


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