幸運の象徴、らしい
あれから、彼女の道案内で森を抜けた俺たちは整備された道を歩いていた。
整備されているといってもただ土を固めただけの道だったけど、それでもなんの手も加えられていない森の中よりは何倍も歩きやすい。
そんな街道を歩いていると当然のように荷物や人を乗せた馬車とすれ違い、ここが異世界であることをいやが上にも実感させられる。
そしてなにより驚いたのが、馬車に乗っている人たちはみんなリリィを見ると愛想良く挨拶を交わしてくるのだ。
老若男女関わらず誰からも声をかけられ、リリィもそれを当然のように受け入れている。
「リリィって、意外と知り合いが多いんだな」
「意外とってのは、余計なんじゃないかしら? それと勘違いしてるみたいだけど、彼らのほとんどとは初対面よ」
「え? だって、あんなに親しそうに声をかけてきたじゃないか。てっきり、みんな知り合いなんだとばかり……」
驚く俺にたいして、リリィは今日何度目か分からない呆れた表情を浮かべる。
「あなたって、本当になにも知らないのね。……旅エルフは、旅行者にとって幸運の象徴なのよ」
「幸運の?」
リリィの言葉に首をかしげると、あまりよく理解できていない俺の様子に彼女は苦笑いで答えた。
「旅エルフってのは、いろんな場所を転々と旅するの。その中にはもちろん、危険な場所だってあるわ。特に街道なんかの街の外は、いつモンスターや盗賊に襲われるか分からないから。そんな街道をエルフが歩いているということは、この先に危険はないか、あってもすでにエルフが対処した後ってことになる。だからいつからか旅行者にとって、旅エルフは安全を知らせる幸運の象徴と呼ばれるようになったの」
「なるほどなぁ。あれ? でもリリィって、さっきまで森の中に居たよな? だったら、この先の街道が安全とは限らないんじゃ……」
「まぁ、そうかもね。だけど、そこまで責任は持てないわ。さっきの話だって、そもそもはヒト族が勝手に言い出したことだもの」
平然と答えるリリィを見て、まぁそんなもんかと納得する。
「それに、さっきのゴブリンの死体は私が最初に倒した分も含めて大部分を森の中に残したままだから。肉食系のモンスターはわざわざ生きているヒトを襲うより死体を食べることを優先するはずよ。腐ったらもったいないから」
責任は持てないなんて言いながらも、リリィはさっきの馬車に乗っていた人たちのことをしっかり気にしていたようだ。
それを指摘してみると、リリィは一瞬だけ顔を赤くして狼狽える。
「なっ!? べ、別にそんなんじゃないわ。私はただ、あなたが気にしていたみたいだったから」
それでもすぐに気を取り直したリリィは、しかめっ面を浮かべながらそう言って俺に背中を向ける。
「ほら、早く歩くわよ! 日が暮れる前に、街に生きたいんだから!」
そのまま少し速度を早めて歩くリリィの耳はまだ赤く染まっていて、俺は思わず笑みを浮かべながらその背中を追うように歩くのだった。
クラフティリアへようこそ ~ものつくりチートでのんびり異世界生活~ 樋川カイト @mozu241
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