これが流行りの異世界転移!?

 どうやら俺は、異世界に転移してしまったらしい。

 自分で言っていても「なにを馬鹿なことを」と思ってしまうが、目の前に現実を突きつけられてしまえばもはや受け入れるしかない。

 だって、普通に考えて小型犬くらいの大きさの角が生えた兎なんて、現代日本に生息しているはずがない。

 幸いなことにこの兎は大人しい性格らしく、俺の存在など意に介さず呑気に草を食べている。

 それでも、鋭い角を持った生き物はそれだけで今の俺にとっては充分な脅威である。

 もしなにかの拍子で襲いかかられたら、きっと無事では済まないだろう。

 できるだけ兎を刺激しないように気を付けながら、俺はゆっくりとその場を後にする。

 そうして兎の姿が見えなくなるくらい離れると、そこでやっと俺は安堵のため息を吐いた。

「はぁ、緊張した……。なんとか襲われずに済んだけど、このままじゃまずいよな」

 もしまたさっきみたいな奴に出会ったら、同じように逃げられるとは限らない。

 それどころか、積極的に襲ってくるような動物に出会ってしまえば一巻の終わりだ。

「せめて、なにか武器になるものがあればなぁ。クラフティリアだったら、材料さえあればすぐに作れるのに……」

 例えばその辺に落ちている枝や石だけでも、クラフトシステムを使えば便利な道具に早変わりだ。

 そんなことを考えながらなんとはなしに枝を拾うと、いきなり頭の中に無数のレシピが浮かび上がってきた。

「うわっ!? なんだよ、これ……?」

 次から次へと浮かんでくるレシピには、なんだか見覚えがある。

「これ、クラフティリアのレシピと同じだ。もしかして、この世界でもクラフトシステムは使えるのか?」

 試しに近くに落ちていた石も拾い上げると、レシピの中から枝と石で作れる物がピックアップされる。

 その一つを選ぶように強くイメージしながら、俺は虚空に向かって小さく呟いた。

「クラフト、石の槍」

 その言葉とともに手に持った石と枝が消え、そして一瞬の光とともに穂先が石でできた槍が目の前に現れた。

「すごい、本当にクラフトできた……」

 槍を手に持って眺めながら、俺は自然と瞳を輝かせてしまう。

 クラフトシステムが使えるなら、右も左も分からないこの世界でも生きていけるかもしれない。

 そんな希望が湧いてくるとともに、俺の頭にはもうひとつ疑問が浮かぶ。

「クラフトシステムが使えるってことは、もしかして他のスキルも……」

 そこまで考えた時、不意に背後からガサガサと音が聞こえてきた。

「もしかして、またあの兎か?」

 うまく逃げられたと思ったけど、もしかして追いかけてきたのだろうか?

「まぁ、この槍があれば追い払うくらいはできるだろ。来るなら来てみろ」

 余裕ぶって振り返りながら、槍を構える俺。

 そんな俺の視線の先、揺れる茂みをかき分けるようにして現れたのは、ボロボロに汚れた1人の女の子だった。

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