気付けば見知らぬ森の中

 目を覚ますと、そこは見覚えのない森の中だった。

「どこだよ、ここ……。確か俺は、さっきまでゲームをやってて……」

 そして謎の通知を見たとたんに気を失って、気付いたら見知らぬ場所で目を覚ました。

「駄目だ。言葉にしてまとめてみても、やっぱり意味が分からない」

 そもそも、ここはどこなんだ?

 もしかして、ゲームの不具合で別の場所にワープさせられてしまったのだろうか?

「ともかく、ログアウトするか。どうせもうすぐサービス終了だし、もうこの世界に来ることはできなくなるんだし」

 最後の瞬間がどこだか分からない森の中と言うのは少し味気ないけど、それも含めてクラフティリアの思い出として心の中に残るだろう。

 ゲームからログアウトしようとメニュー画面を呼び出そうとして、俺は違和感に気付く。

「あれ? おかしいな……。メニュー画面が、開かない?」

 何度試してみても目の前にメニュー画面が現れることはなく、ただ時間だけが無為に過ぎていった。

「駄目だ、全然開かない。もしかして、サービス終了の影響でバグったのか?」

 こうなったら、強制ログアウトをするしかないか。

 そう判断した俺が現実の身体に着けたバイザーを外そうとするが、その手はむなしく空振ってしまう。

「強制ログアウトもできないって、もしかして完全にゲームの中に閉じ込められた?」

 いや、そもそもここは本当にゲームの中なんだろうか?

 いくらクラフティリアが現実と見間違えるくらい美麗なグラフィックだとはいえ、目の前に広がる景色はあまりにもリアルすぎる。

 鬱蒼と茂る木々や、微かに聞こえてくる鳥の声。

 そして頬を撫でる風の感触が、ここは紛れもない現実だと訴えているようだった。

 試しに頬をつねってみると、確かな痛みを感じる。

 そう、痛みを感じるのだ。

 仮想現実にダイブして遊ぶクラフティリアでは、安全上の問題から一切の痛みを感じることはない。

 なのに痛いということは、つまりここはゲームの中ではなく現実の世界だということだ。

「でも、だとしたら俺はどうしてこんな場所に居るんだ? ゲームを始める前は、確かに家に居たはずなのに」

 それが気が付いたら見知らぬ場所に居るなんて、訳が分からない。

 いや、本当はなんとなく予想はついてるんだけど、認めたくない。

 それを認めてしまえば、もう取り返しのつかないことになってしまいそうだ。

 もうすでに取り返しはつかないような気がするけど、こういうのは気持ちの問題だからな。

 なんてある意味で現実逃避をしていると、不意に近くの茂みが音を立てて揺れる。

「なんだ? なにか居るのか?」

 思わず声を上げると、その声に反応するように茂みからなにかが飛び出してくる。

 そしてそれは、俺の予想を半ば無理やり確信へと変えてしまった。

「ああ、やっぱりそうなのか……」

 目の前に現れた、とても現実ではお目にかかれない角の生えた兎を見て、俺は諦めたようにため息を吐く。

 どうやら俺は、異世界に転移してしまったらしい……。


 

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