第41話 ◆本人か別人か
理人お兄ちゃんと会場の中を歩いていると、少し向こうに見知った顔を見つけた。
最初は他人の空似だろうと思った。こんな場所にいるはずがないと。
その男は、にこやかに年配の男性と談笑していた。
髪をセットし、上品なスーツを着こなし、背筋を伸ばしてスマートに対応している。女の子達を侍らしているあのいつものチャラチャラした感じが全くない。それどころか、どこぞの御曹司のような雰囲気を醸し出している。
やはり別人だな。
だけど、何度見てもやはりあの男にしか見えない。
やっぱり本人なのだろうか。
もし本人なら、どうしてこの男がここにいるのだろう。
そういえば、どっかの会社の社長の息子だって言ってたような……。興味がないからどこの会社か覚えてないけど、そんなことを言っていた気がする。
ということは、目の前の御曹司然とした男は、やはりあの男なのか?
「どうしたの、礼桜ちゃん。難しい顔してるよ」
理人お兄ちゃんにあの男がいることを伝えた。
「ああ、あれが」
理人お兄ちゃんが男を観察している。
私たちと男との間には少し距離があり、その間にテーブルや談笑している人たちがいるので、ガン見しない限り気付かれることはないはずだ。
理人お兄ちゃんは、男の顔はさることながら、癖や動き等でどんな男か把握しているように感じた。
その間、私もチラチラ見て確認するが、いまだに本人なのか確信が持てない。
だって、私が知ってる男は、いつも数人の女の子たちを連れてチャラチャラヘラヘラしているから。だけど、御曹司然の男は、若いのに年配の方相手でも臆することなくしっかりと対応している。
目が合えば分かると思うのだが、一向に目が合わない。
「理人お兄ちゃん、もしかしたらそっくりさんかもです」
世界には自分と同じ顔の人が自分を含め3人いると言われているので、そういうことにしておこう。ドッペルゲンガーだっけ?
なんかもうどうでもよくなってきた。
別にどっちでもいいし、本人だと分かったところで話しかけるつもりもない。
それを理人お兄ちゃんに伝えたら、クスクスと笑われた。
目の前を晴冬さんが通り過ぎた。
私の興味は一気に晴冬さんになり、視線が晴冬さんを追いかける。
相変わらずスタッフに徹している晴冬さんは、動きに無駄がない。
だから、私は知らなかった。
私の視線が逸れた瞬間、男が年配の男性との談笑を終え、招待客の中に紛れたことを。
男の視線は、私たちに気づかれないよう最新の注意を払いながらも、常に私を捉えていたことを。
男の双眸は昏く、私への恋慕や執着を孕んだ熱情が溢れ出ていたことを。
そして、男の動向を把握していた理人お兄ちゃんによって私が男の視界から隠され、二人睨み合っていたことを。
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