第35話 幕間:シリアスな打合せの裏では……

 鏡を見た瞬間、自分が自分じゃないように感じた。琴ちゃんの手によって、かなりいい仕上がりになってる。


 メイク動画などでスッピンと仕上がりが全然違う人を見るたびにすごいなぁと思っていたが、鏡に映った自分を見て、本当に化粧で変わるんだ!って感動さえした。


 すべては琴ちゃんのおかげなんだけど。

 琴ちゃんはやっぱり素敵だなと改めて感じ、ますます憧れが強くなっていく。



 だけど……、綺麗にしてもらったのは嬉しいけど、既に一杯いっぱいで気持ち悪い……。



 窓から見える日差しが強い青空を見ながら、今から行くパーティーのことを考えると、遠い目にならざるを得なかった。





**




 女性の支度が大変だということを今回身をもって体験することで知った。



 理人お兄ちゃんから指定された部屋に入り善さんの料理を食べ終わった私たちは、早速準備に取り掛かった。


 琴ちゃんから伝えられた流れは、最初に足のマッサージをし全身を磨いた後、水色のワンピースに着替え、メイクを施し、最後に髪をセットするというもの。




 気持ちいいリラクゼーションタイムを終えると、琴ちゃんが壁にかかっているワンピースを取ってくれた。その際、どこのブランドか気になったのだろう。興味本位でタグを確認した琴ちゃんは、そのまま静止した。


 時が止まったかのように指一本動かない。

 


 「琴ちゃん、どうしたの? もしかしてその服……」


 ものすっごい嫌な予感がする。

 ハイブランドのワンピースとかじゃないよね?



「…………ううん、なんでもない! このワンピースすごく可愛いよね! きっと礼桜ちゃんに似合うから早く着替えよう」


 そういって渡してくれた琴ちゃんの表情は固く、無理やり引き上げた口角で作られた笑顔を私は見逃さなかった。



 間違いない。高い服だ。




 どこのブランドか私もタグで確認したが、そもそもどんなブランドがあるのかほとんど知らない私が、なぜタグのスペルを正確に読むことができると思ったのだろう? 何となくしか読めないし、それを読んでピンと来るはずもない。

 こんなとき自分の枯れ具合を恨めしく感じる。琴ちゃんに聞くこともできるが、〝知らぬが仏〟ともいうし、なんか面倒くさくなったので素早く着替えるにとどめた。



 服が汚れないようにケープで覆いメイクがスタートした。


 メイクをしてもらっている最中に動くと琴ちゃんから注意されるので大人しくしていたが、5分もすれば飽きて何気に手持ち無沙汰になる。


 退屈な私は、横目で窓の外を見ることにした。

 高層マンションの最上階なので、少し目線を下げないと大阪の街並みは見えない。どちらかというと、空が近い。こんなに広い空を見たのはいつぶりだろう。大阪市内で空を見上げると、必ず建物が映り込む。だけど、窓から見る空はどこまでも広く青かった。


 あれ? 向こうに見えるのは、もしや大阪城ではあるまいか?


「琴ちゃん見て! 大阪城が見えるよ!!」


 興奮した私はすかさず琴ちゃんに伝えた。

 琴ちゃんは私が指すほうをチラッと見て「ほんまやね」と言うと、私の顔を固定し、またメイクに没頭し始めた。


 反応が薄いので、私はまた大人しくすることにした。



 エアコンが効いて快適な部屋の中とは違い、窓の外は陽差しが強く、大阪の街全体がじりじりと焼きついている。今日も35度以上の猛暑日予報だが、気温を測らずとも体感で当たっていると分かる。

 夏の天気は否応なしに〝地球温暖化は待ったなしやで。お前らそれでええんか?〟と事実を突きつけてくる。




 最後に髪のセットを行い、私の仕上がりを全方位から確認した琴ちゃんは、「ふおぉぉぉぉぉぉ!」と叫んだ。



「自分で言うのもなんやけど、完璧やわ」



 大袈裟なポーズで前髪を流し、ドヤ顔で自画自賛した。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る