第34話 【九条湊side】爆誕させてんじゃねえ

「礼桜ちゃんの準備ができましたー!」


 階下にいる俺たちに向かって、花谷さんが満面の笑みで知らせながら階段を下りてくる。



「礼桜ちゃん、恥ずかしがってないで下りておいでよー」


 先に下に下りた花谷さんが声を掛けるも、まだ礼桜ちゃんは現れない。



「花谷さん、礼桜ちゃんはどこにいるの?」

「多分、階段の近くの死角になってる壁側に張り付いてると思う」


 礼桜ちゃんを迎えに行こうと階段に向かって歩き出したときだった。


 ソロソロとだが、意を決したように礼桜ちゃんが現れた。

 その瞬間、周りの音が遮断され、俺の双眸には光り輝く礼桜ちゃんしか映らなかった。


 綺麗……。


 透き通るような水色のワンピースは、礼桜ちゃんの体に沿って流れるようなIラインで、上はシフォンとレースが見事に合わさってデザインされており、スカート部分はシフォン生地のみで縫製されている。そのスカートのシフォンがふわふわと上品になびいている。


 俺の所感だが、水色のワンピースを着こなせる人はそれほど多くない。水色の色味によっては、安っぽく見えたり、派手な感じになったり、若作りしているように見えたり、地味なオバサンに見えたりするからだ。着こなすには難しい色だと俺は思っていた。

 だけど、礼桜ちゃんが着ている水色のワンピースは、色味も礼桜ちゃんの肌と合っており、とても上品な仕上がりとなっている。


 彼女のスタイルの良さがワンピースによって遺憾無く発揮されていて目が離せない。


 礼桜ちゃんの肩上の黒髪は緩く巻かれ、ハーフアップのヘアスタイルが大人っぽく、色気を感じさせる。化粧によって肌の透明感が一層上がり、全体的に輝いている。


 めっちゃ綺麗だ。


 俺を見つけて微笑む姿は、もはや女神や天使と言っても過言ではない。


 いやマジで。


 しかも、立ち居振る舞いや姿勢の良さが、清楚で上品な印象を与える一助となっている。


 俺はただただ階段の下に突っ立って、2階にいる礼桜ちゃんに見惚れていた。





「「「「おぉぉぉぉぉ!!! 」」」」


 蹴君、樹君、あきら君、善さんが上げる感嘆の声で我に返った。



 アカン! まじでアカン!!

 可愛すぎるやろ。なんやねん、あの可愛さ!!


 10人中10人が振り返る美少女が爆誕しとるやないか!!

 狙われたらどうするん!?

 てか、絶対狙われる!!

 可愛すぎて攫われるかもしれへん!!

 マジでアカン!!



 礼桜ちゃんが階段の手すりに手を添え、一段一段ゆっくり階段を下りてきた。足元を見ると、ピンヒールを履いている。俺は急いで階段を駆け上がると、礼桜ちゃんの手を取りエスコートした。


「湊くん、ありがとう」


 俺にだけ聞こえるような小声でお礼を言われた。俺に向ける微笑みが尊い。

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。心臓がギュ〜っと締め付けられる。蹲りたいほど胸が痛い。


 礼桜ちゃんを抱きしめたい。誰にも見せたくない。この場から連れ去って腕の中に閉じ込めたい。真っ赤になって恥じらう礼桜ちゃんにキスしたい。そして……。



 俺は垂れ流される全ての欲望を必死で抑えつけ、澄ました顔を張り付けたままエスコートした。



 階段を下りると、礼桜ちゃんを待ち構えるアダルト4人に速攻で囲まれ、口々に褒められている。その輪から強制的に外された俺は、オッサン4人を横目で見ながら花谷さんへ近づいた。



「……花谷さん、やりすぎちゃう?」


「それは……うん、なんか、ごめん。でも、想像以上にどんどん美少女になっていくんやで! どこまで行けるか見てみたいやん! 久しぶりに本気出したわ!」


「なに爆誕させてんの? 手え抜いてくれたらよかったのに」


「は? 九条君なに言うてんの? 一級品の素材を前にして手え抜くとか有り得へんやろ」


「そんなん求めてないから。ホントどうしてくれるの? あの可愛さだから、変な男が近寄ってくんで」


「あー、私も一瞬その考えがよぎったんだけど、大丈夫かなって。だって礼桜ちゃんの横におるのは理人さんやで。理人さんに勝てる人なんかおらんやろ」


「……………」


「アレやな。下手したら礼桜ちゃんが一番可愛いんと違う? あの水色のワンピースを着こなせるのも礼桜ちゃんだけだと思うし。主役より目立つこと間違いなしやね」


「………………」


「しかも、あの透明感に加え清楚な雰囲気! 理人さんとは釣り合わないって謗られることもないんちゃう? 20代半ばの化粧で誤魔化してるお姉さん達に礼桜ちゃんが負ける姿が想像できひん」


 言うてることはよう分かる。

 ほんまにムカつくぐらい俺もそう思うわ。

 だから心配やねん!


 あのワンピースは着る人を選ぶ。誰でもは似合わない。だから理人はあえて選んだのだろう。きっと礼桜ちゃんと理人は会場の誰よりも注目を浴びるはずだ。


 俺が服を用意したかった……。

 悔しいけど、水色のワンピースは文句のつけようがないほど礼桜ちゃんを際立たせている。



「………………はあ」



 溜息しか出えへん。




「ほんまにいい仕事したわ」


 ドヤ顔でサムズアップしてくんじゃねえ。

 サムズアップの仕方が晴冬と似てるのが、めっちゃ腹立つ。




 晴冬と礼桜ちゃんは天然で、ある意味純粋で、何気に二人は似た者同士だ。だからだろうか、そんな天然を恋人に持つ俺と花谷さんも同じタイプの人間のような気がする。


 晴冬だけ構ってればいいのに、礼桜ちゃんにまで慕われてるのも気に食わない。

 

 礼桜ちゃんと花谷さんの仲の良い絡みを見るたびに少しだけイラッとする。


 はっきり言って、いけ好かねえ。



 もしかして、これが同族嫌悪ってやつか。







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