第32話 ◆【九条湊side】調査報告②
「男のほうがお嬢サマに熱を上げてるらしく、惚れた弱みなのか、お嬢サマの言うことは何でも聞いてるみたいだね。美原さんの話だと、気に食わないことがあると男に泣きついて、徹底的に追い詰めさせて、自分は高いところから嗤ってやがるからタチが悪いらしい」
「反吐が出る話やな」
「言うこと聞くようにたまにヤらせて執心させてるんちゃう? とんだ阿婆擦れだよね。で、その阿婆擦れに惚れてる男は麻薬組織の人間と繋がってて、そいつらは湊、晴冬、礼桜ちゃんの3人を探してるってことか……」
「今日のパーティーに参加することで、そのターゲットは間違いなく礼桜ちゃんになるよ。理人、いいの?」
「理人、礼桜ちゃんを連れていくのは危険すぎる! 絶対にアカン!!」
ふと視線を感じたのでそっちを向くと、晴冬が俺を心配そうに見ている。
……変装し終わったんなら、早く行く準備しろよ。俺のこと心配してる場合ちゃうで。
確かに胸糞悪くなる話で、いつもならブチ切れているのだが、そんな瞬間湯沸かし器のようなカッとした怒りは沸かなかった。ただ、静かな怒りが体じゅうを駆け巡る。
マジであり得へん。
どんどん湧いてきやがるうじ虫どもをどう駆除しようか。
礼桜に危害を加える奴らは、すべて、一人残らず、一掃するだけだ。
静かな怒りは毛細血管の先まで血液で運ばれ全身を満たしているのに、不思議と心は凪ぎ、脳はキンキンに冷えている。自分でも驚くほど冷静だ。何が最適解か、自分の醜い嫉妬心や独占欲などに惑わされることなく客観的に考えられる。
奴らは遅かれ早かれ俺たちに辿り着くだろう。
向こうが気づいてない今なら、先手を打って全滅させることも可能ではないだろうか。
だとしたら、今取るべき行動は一つ。
俺は静かに理人と視線を交わした。
理人も静かに俺を見ている。
お互い言葉を発しなくても、考えていることは同じだと理解した。
「予定どおり礼桜ちゃんをパーティーに連れていく」
理人は俺から視線を逸らすことなく、静かにそう伝えた。
「ああ」
俺が肯首したことで、理人以外の全員が瞠目した。同意するとは思いもよらなかったのだろう。
我に返った善さんがダメだと強く反対したが、俺の意思が揺るがないと分かると口をつぐんだ。みんな俺を見ている。怒りが全身を巡っているのであまり喋る気はしないが、仕方がない。
俺は重い口を開いた。
「麻薬組織の人間が血眼になって俺たち3人を探してるのなら、俺らのことを突き止めるのも時間の問題なんちゃう? 今日のパーティーに礼桜ちゃんを連れて行くことで、礼桜ちゃんは理人の婚約者だと認識される。俺と理人は何気に似てるらしいから、一度会ったことのある帝塚伊臣も気づかないはずだ」
「たしかに。スーツ着たら雰囲気が変わるやつなんかごまんといるしね」
「ああ。それに、礼桜ちゃんの個人情報は徹底的に管理されてるから、理人の婚約者と俺の恋人が同一人物だと気づくには更に時間がかかるはずだ。そのタイムロスで組織を壊滅させるんだろ? 先手必勝、短期決戦でいくよな?理人」
「ああ。1週間、最長10日で片を付ける」
「……めちゃくちゃ癪だけど、心の底から嫌だけど、今は俺と一緒にいるほうが危険だから、礼桜ちゃんは理人に任せる。
一つも傷をつけるな。かすり傷でも絶対に許さへん」
「ああ。無傷で守ってやるよ」
理人は優しい眼差しで俺を見ながら微笑んでいる。
なんやねん、その目は。子どもの成長を喜んでいるジジイみたいな顔しやがって。なんか腹立つな。礼桜ちゃんが理人の婚約者と勘違いされるのはかなり癪だけど、ムカつくけど、最善策としてこれが一番だ。ほんと心の底から嫌だけど。
「湊、お前、大人になったな〜」
「ほんまやで」
「あのぶっきらぼうの湊が挨拶もできるようになったし」
「あの湊がここまで変わるとは。ほんま礼桜ちゃんのおかげやね」
オッサンどもが勝手なことばかり言いやがって。
チッ。
特大の舌打ちで返してやったら、晴冬から「舌打ちはアカン」と軽く叱られた。
はぁ。
ため息しか出えへん。
でも、礼桜ちゃんがLIME以外のSNSをしてなくて本当に助かった。そのLIMEも親しい友達にしか教えてないし、特定の友達としかメッセージのやりとりをしていない。
今時の高校生にあるまじき生態なので、前に一度、なぜSNSをしないのか尋ねたことがある。
「なんで自分のことを投稿するのか理解できないし、人に見せたいとも見られたいとも思わない」と一蹴された。
学校の友達からは勧められているようだが、面倒くさがって高校2年生の現在まで至る。
ネット上で呟くことも写真や動画を投稿することも一切しない礼桜ちゃんだから、個人情報の管理がしやすい。
礼桜ちゃんの徹底した〝自分を開示しない〟姿勢に助けられそうだ。
何が言いたいかというと、
俺の彼女は最高だ!!
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