第30話 パーティー当日—束の間の団欒—
私以外の全員がノリノリで悪役令嬢を演じながら攻撃を仕掛けてくる。
笑いたいけど、避けるのを疎かにしたら蹴兄ちゃんから容赦ないダメ出しが飛んでくる。しかも、ダメ出しがなぜかいつの間にかオネエ言葉になってるし! 絶対私を笑わせようとしてる!!
クネクネしながら私に向かってくる樹兄ちゃんの攻撃を一歩後ろに下がって
ダメだ、面白すぎてお腹に力が入らない。足元がふらつく。
「ちょっとぉ足元ふらついてるわよ。しっかり踏みしめなさぁい」
もう無理。笑いたい。
「ほら構えて。次の攻撃が来るわよぅ」
「あんた可愛すぎるのよぉう」
野太い声でクネクネしながらゴリラ、いや善さんが私のほうへ突進してきた。目潰ししようと人差し指と中指を私のほうへ向けている。よくよく見ると、なぜか小指も立ってる。
もうダメだ。目潰しで小指立ててくるとか、なんのポーズやねん。
しかも善さんの指が太いから、刃が欠けた熊手にしか見えへんし。もう無理。
「あははははははは、もうダメだ。おかしすぎる」
「ちょっとぉ。笑ってないで避けなさいよぉ」
「ほんとそう。避けてもらわなきゃ礼桜ちゃんを傷つけちゃうじゃないのぉ」
女性の声色に変えてダメ出しをする蹴兄ちゃんは甘いマスクが相まってあまり違和感がないが、善さんは……面白さの塊だ。
しかも、なんでオネエ言葉になると標準語? 声も太すぎひん?
これアカンやつだ。
「あははははははは、お腹痛い。はははははは」
お腹が捩れるくらい爆笑してしまった。自然と涙も出てくる。
「失礼しちゃうわ!」
「ほんとよねぇ」
「ちょっと可愛いからって」
「私たちを笑うなんてひどい」
アダルト4人がクネクネしながら反論してくる。
「あはははははは、だって……、ははははははは、オネエさんになったらめっちゃ標準語やし……」
「仕方ないじゃない!」
「ほんとよ」
「この言葉になると大阪弁が出てこないのよ!」
「それを笑うなんて」
「「「「失礼しちゃーーう」」」」
アダルト4人、息ぴったりだな。
晴冬さんと琴ちゃんは4人が悪ノリしてオネエさんになった時点で参加するのをやめ、引きつった顔で私たちを見ていた。
◇◇
みんなで笑い合っていると、1階の部屋の扉がガチャっと開き、九条さんが出てきた。手には黒縁メガネを数個持っている。
「楽しそうだね」
九条さんが私の側に来たので、可笑しい気持ちのまま顔を見上げて、みんなのオネエさんぶりを伝えた。私を支えるように腰に手を回し、優しい双眸で話を聞いてくれたが、どこか残念そうに見えるのは気のせいだろうか。私も残念だったように、九条さんも残念に思ってくれているといいなと思った。
九条さんからエスコートできなくてごめんと謝られたので、樹兄ちゃんにエスコートをしてもらったこと、洸さんと樹兄ちゃんに優しく教えてもらったこと、蹴兄ちゃんから及第点をもらったことなどを伝えた。それを聞いていた蹴兄ちゃんから速攻で「最後の課題はまだ合格点出してないわよぅ」とツッコまれた。
大体動きは分かったので、もう動きたくなかった私は蹴兄ちゃんの言葉をやんわりスルーしたら、「あんた、いい度胸してるわね」と言われ、こめかみをグリグリされた。
魔王の片翼、ほんと容赦ない。
蹴オネエさんとギャーギャー言い合っていると、またもやガチャっと扉が開く音が聞こえた。
「マナーレッスンは全部終わった?」
私たちがいるリビングダイニングから一番近い部屋から理人お兄ちゃんが出てきた。
ここに来てからまだ一度も理人お兄ちゃんと会ってなかったので、てっきり家にはいないとばかり思っていたが、どうやら仕事をしていたようだ。部屋着なのか、いつもよりラフな格好をしているが、相変わらず見目麗しい。
「ああ、一通り終わった。付け焼き刃にしては上等だと思うよ」
蹴オネエさんから一瞬で元に戻った蹴兄ちゃんにお墨付きをもらってしまった。
……合格ならこめかみグリグリされる必要なかったのでは?
チベットスナギツネを双眸へ降臨させ、私は蹴兄ちゃんに湿り気のあるじとっとした視線を向けたが、蹴兄ちゃんはどこ吹く風で可笑しそうにしている。
……なんか解せぬ。
「礼桜ちゃん、よく頑張ったね。エスコートは湊にしてもらったの?」
「俺」
「え? 樹がしたの?」
「ああ。湊には眼鏡の最終調整を頼んだからな」
「珍しい」
「だろ?」
理人お兄ちゃんと樹兄ちゃんが笑い合っている。仲のいい掛け合いを見ていると、なぜか違う扉が開きそうになる。チラッと琴ちゃんを見ると、琴ちゃんも目が輝いていた。……よかった。扉が開いたのは私だけじゃなかった。
隣に立っている九条さんは不満そうにしているが、あえて気づかなかったことにさせていただいた。
「晴冬は何時から?」
「16時です」
理人お兄ちゃんの問いかけに疑問を持った私は、晴冬さんのほうを向いた。
「晴冬さん、どこか行くんですか?」
「うん。バンケット(宴会)スタッフとして礼桜ちゃん達が行くパーティーに潜入することになったから。何かあったら俺のところに来るんやで」
「そうなんですか!? 知らなかった……」
理人お兄ちゃんの話では、前回バンケットスタッフとしてバイトしたときの働きぶりがよかったため、人手が足りないときはパーティー責任者から晴冬さんにバイト依頼の電話がかかってくるそうだ。今回タイムリーに声がかかったので、受けることにしたらしい。
晴冬さんがパーティー会場にいると思うと、少し心が軽くなるのを感じた。
だけど、晴冬さんには申し訳ないけど、もっと頼りがいがある人がよかったなぁとか、思ったりなんかしちゃったりして……。
「……何か不満そうやな?」
「いえ別に。そんなことないですよ! いやー、晴冬さんがいてくれて嬉しいなー」
両手をブンブン振って否定したのに、なぜかめっちゃ睨まれてる。
とりあえず笑っておこう。
そっか、晴冬さんが会場内にいるんだ……。
私は、みんなに気づかれない程度で、ほんの少しだけ口角を上げた。
「晴冬、16時からバイトならそろそろ準備して出なきゃ間に合わないよ」
「あっほんとだ! いつの間に……」
「礼桜ちゃんも16時には家を出るから、そろそろ準備しておいで。階段上がってすぐの右側の部屋を使って。そこに礼桜ちゃんが着ていく服も置いてるから。琴音ちゃん、礼桜ちゃんをよろしくね」
「はい」
「樹たちは今から打合せをするから準備して」
「オッケー」
理人お兄ちゃんはみんなに指示を飛ばしていく。
善さんから「礼桜ちゃん、お腹空いたやろ? 料理をよそって持っていくから2階で待っててな」と言われ、蹴兄ちゃんからは「よく頑張ったね。これでマッサージしとくんやで」と足の
気づけば時計の針は午後2時半を指していた。
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