第27話 ◆策略 vs 無関心(琴音視点)②

「礼桜ちゃん、この男に見覚えある?」


 近くにある商業施設の綺麗なトイレのパウダールームのその端で、礼桜ちゃんに携帯で撮った写真を見せた。


 男は礼桜ちゃんの斜め後ろに座っていたので、もしかしたら礼桜ちゃんを撮ったときに写り込んでいるんじゃないかと思い確認したら、ビンゴだった! 九条君に見せてやろうと思って(あげるつもりは毛頭ない)撮った写真が役に立った。


 微笑む礼桜ちゃんがめちゃくちゃ可愛い!

 その斜め後ろに、小さくだが男が礼桜ちゃんを見ている姿が写っている。拡大すれば顔もはっきりと識別できた。



「あっ!」

「もしかして、晴冬たちが言ってた礼桜ちゃんをつけ回してる男?」

「みんな大袈裟に言い過ぎなんだけどね。

月に2回ぐらい駅でばったり会って、一言、二言話す程度のただの顔見知りの同級生だよ。まあ確かにこの前ゲームコーナーで会ったときは少ししつこかったけど……」


 ん?

 男に対する認識が九条君たちと違うのがめっちゃ気になるんやけど。


 そういえば、2年間もまとわりつかれてたのに礼桜ちゃんは全然気づいてへんかったって晴冬が驚愕しとったな。マジか。



「そっか、あの店にいたんだ。全然気づかなかった。話しかけてこなかったから、向こうも気づいてないよね? 九条さんや理人お兄ちゃん達と関わらないって約束したから気づかれなくてよかった」


 いや、がっつり礼桜ちゃんを見とったで。



 笑いながらのほほ〜んと話す礼桜ちゃんを見て、少しだけ頭を抱えたくなった。


 鈍感すぎて気が気じゃないと言った晴冬の気持ちがよく分かる。


 何かあってからじゃ遅いんやで!


 いくら自分の身は自分で守れる強さを持ってても、男の腕力には敵わない。



「もう関わらないって九条君たちと約束したんなら、見つからんうちに早よ帰ろ」

「うん。でも、こんなにたくさん人がいる中で、早々会うことはないと思うけど……」



 会うことはないな。


 それくらい梅田は都会だ。

 同じ日に偶然二度ばったり会うことなんてほとんどない。


 私も切実に会いたくないとそう願うわ!!


 だけど、このまま終わるはずがないと私の勘は警鐘を鳴らし続けている。



 撮った写真を添付し晴冬にメッセージを送った。


 晴冬から九条君や理人さん達に連絡が行くはずだ。


 このままここにいるわけにもいかないし。


 梅田はどこもかしこも人、人、人だが、その中でも特に人通りが多い経路で駅まで行こう。



 私も自分の身は自分で守れるくらいの強さは持ち合わせている。




 トイレから出て、下りエスカレーターに向かって歩いているときだった。


 正面から一人の男が歩いてくる。


 まるで、偶然通りかかったように。


 周りのショップを見ながら歩いてくる男は、さりげなく視線を正面に戻し、私たち、いや礼桜ちゃんを見据えた。



「あれ? 礼ちゃん?」



 今気づきましたと言わんばかりのにこやかな笑顔で、礼桜ちゃんに話しかける男。




 その瞬間、顫動せんどうが一気に私の背中を駆け巡った。


 恐怖と言い知れぬ気味の悪さで背筋が凍りついていく中、私は携帯を握り締めた。


















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