第24話 琴ちゃんと遊ぶ楽しい時間②
デザートまで堪能した私たちは、カロリー消費もかねて梅田周辺をぶらぶらすることにした。
ちなみに、私が頼んだのはバナナチョコシフォンケーキ。クリームが添えられたシフォンケーキは、口に入れた瞬間、バナナとチョコの匂いが鼻を抜け、ふわふわの柔らかい弾力が口内に広がる。そのまま食べてももちろん美味しいんだけど、クリームをつけたらさらに美味!!
18センチのホールになっても一人でペロリといける自信しかない!
◇◇
「礼桜ちゃんはキタとミナミだったら、どっちによく遊びに行く?」
**
大阪で活気のあるエリアとして知られる「キタ」と「ミナミ」。
「キタ」は、大阪駅や梅田周辺、そして
一方の「ミナミ」は、
キタとミナミの明確な範囲を教えてと言われても、「自分でググって調べて」としか言えない。なぜかって? 漠然としか把握してないから。みんなそんなもんちゃう?
**
「キタかなぁ。学校が淀川の近くにあるから、友達も大阪北部から来てる子のほうが多いし」
「ミナミには行かへんの?」
「ミナミは、インバウンドの外国人観光客ばっかりだから、ほとんど行かないかな」
「分かる! 心斎橋とか難波を歩いてる人の半分以上が観光客ちゃうかって思うときあるよね!」
「だよね」
「私も最近難波に行ってないなぁ。ちょっとしたものなら天王寺で全部揃うし、こうやって遊ぶときは梅田が多いかも」
琴ちゃんがよく行くコスメが充実している雑貨屋に向かって話しながら歩いていく。
梅田周辺は、オフィスカジュアルを身に纏ったお姉さんやスーツ姿の男性、学生さん、親子連れ、観光客、様々な人たちが行き交っている。
ふと前方に、大学生ぐらいの女の人が立ち止まってキョロキョロしながら携帯を見ているのが視界に入った。
もしかして迷ったのだろうか。
教えたいけど、梅田の地下には巨大迷路のような複雑な構造を持つ地下迷宮——梅田ダンジョンが広がっている。私はまだすべて攻略できていないので、声をかけたところで教えられるか不安だ。
琴ちゃんを見ると、琴ちゃんもその女性に気づいたみたいで、私にアイコンタクトをしてきた。二人で頷き合って、女性のところへ行くと琴ちゃんが話しかけた。
「ねえ、もしかして道に迷うたん?」
「はい」
「どこに行きたいん?」
「えっと、———————」
よかった! 琴ちゃんもよく知ってる場所だったし、奇跡的に私も知ってる場所だったから、スムーズに道を教えることができた。
私たちにお礼を言って歩いていくお姉さんを二人で見送る。
「礼桜ちゃん、大阪の人って道に迷っている人を見つけたら教える習性があるって知ってた?」
「え? それって大阪の人だけの習性なんですか?」
「らしいで。この前そんな記事を読んでん。確かに道に迷ってる人を見かけたら声かけてまうな」
「たしかに……」
「私、思ったんだけど、あれちゃう? 地元ローカルの夕方の情報番組で、芸人さんが道に迷っている人を見つけて道案内してるコーナーがあるやん。あれ見てるからちゃう?」
「してますね、道案内。そういえば、友達が、梅田で地図が載ってる案内看板の前に立ってたら芸人さんに声かけられるから気いつけやって言ってた」
「なに、その子。もしかしてテレビカメラ付きで声かけられたん?」
「そこまでは聞かなかったけど、もしかしたらそうかも」
それを想像すると可笑しくて、二人で笑い合った。
◇◇
私たちは文具コーナーでそれぞれ欲しい文具を買い、店内を一通り回って、最後にコスメコーナーに来た。
琴ちゃん曰く、最初にコスメから回ると誘惑が多いからお金が足りなくなるそうだ。
なるほど。
新商品のコスメをチェックしながら気になるものは手に取り商品説明を読んでいる琴ちゃんを、私は横でただただ見ていた。私はコスメを買ったことがないから、琴ちゃんが何を手に取るのか、それを見てるだけで楽しい。
「礼桜ちゃんはメイクしたことある?」
首を横に振りながら「ないです」と答えた。
「一度も?」
「あっ! 日焼け止めとリップクリームはしてます!」
「……それメイクちゃうから」
真顔でツッコまれた。
「今週末、理人さんとパーティーに行くって晴冬から聞いたんやけど、メイクどうするん?」
「あっ…………」
いつもスッピンだから、まったく思い至らなかった。このままでは行けないよね?
メイクどうしよう。
「私が当日メイクしよか?」
「いいの?」
「礼桜ちゃんが嫌じゃなければ」
「全然嫌じゃない! むしろお願いします!」
「食い気味できたね」
前のめりになって、気が付けば琴ちゃんの顔がすぐそこにある。
「ごめんなさい」
「九条君より先に私がチューしてもええよ」
「え?」
「冗談やで。じゃあ今から礼桜ちゃんに合うコスメ選ぼ」
「でもあと1万円ぐらいしか財布の中に入ってない……。足りないよね?」
「大丈夫やで。晴冬を通して理人さんから軍資金を預かってるから」
してやったりの顔でバッグから封筒を取り出し、ニヤッと嗤う琴ちゃん。
そんな姿も可愛いです!
そして、爽やかに笑ってる理人お兄ちゃんの姿がなぜか琴ちゃんの後ろに浮かび上がった。
「というわけで、次はデパコス見に行こーー!」
◇
私は洗顔や化粧水など基礎化粧品だけはオーガニックの良いものを使っている。母が基礎化粧品だけは良いものを使わなきゃダメだと、私に合うものを探してきてくれたから。それでも1本5,000円前後のものだ。
良い化粧品は高いということはよく知っている。
化粧品に詳しい琴ちゃんは、フェイスパウダーはここ、マスカラはここ、シャドウはここ、チークはここと、いろんなお店を渡り歩いていく。その都度、手の甲で色味を見たり、試したりしながら、私に似合う似合わないを吟味している。
琴ちゃんの目が本気だ。
だけど、だけど、琴ちゃんが手に取るのは1万円前後の商品で。
恐ろしくなった私は、琴ちゃんの腕を掴み、涙目のまま無言でフルフルと首を横に振るしかできなかった。
一体いくら預かってきたのだろう。
聞きたい気もするが、聞いたら最後その金額に震えそうだから、絶対に聞くべきではない。
「礼桜ちゃんの肌はキレイで透明感があるから、それを生かすだけでいいと思うねん。間違いなく美少女の爆誕やで。想像するだけでめっちゃ楽しい!!」
どこのお店に行っても、店員さんと一緒にキャッキャしながら選んでいく。
その都度、一万円札もしくは五千円札が必ず1枚は出ている。それと千円札。
もう現実逃避をしよう。
琴ちゃんが楽しそうで何よりだ。
◇◇
コスメをあらかた買い終わった私たちは、琴ちゃんの希望で下着屋さんへと向かった。
既にヘロヘロの私と違い、琴ちゃんはいまだ生き生きとしている。
ピンクを取り入れた明るい店内には、大人可愛い下着がたくさん置いてある。
私にはまだ似合わない総レースのブラやショーツなどを含めいろいろなデザインの下着がかかっており、そのどれもがめちゃくちゃ可愛い。
可愛いけど、私にはまだ似合わないな……。
つい凹んでしまった私に気づいたのだろうか。
琴ちゃんは私が似合う下着も一緒に選んでくれた。
琴ちゃんが選んでくれたのは、私でも付けられそうな可愛いブラと、対となるショーツだった。
ピンク系と迷っていた琴ちゃんだったが、「趣味と実益を見越して」とよく分からない言葉の後ホワイト系を手渡してくれた。可愛いかったし予算内だったから、琴ちゃんが選んでくれたものを買うことにした。
「ここの下着可愛いでしょ。しかも機能的で着心地もいいからお気に入りなの」
私は肯首しながら、琴ちゃんが購入予定の下着を見て思った。
「晴冬さんが可愛い琴ちゃんの下着姿を見ると思うと、なんか腹立つ」
しまった! 心の声が漏れてしまった。
恐る恐る琴ちゃんを見ると、優しい眼差しを私に向け、可笑しそうに笑っている。
「ごめんなさい。心の声が出ちゃった……」
「ええよ、事実だし。これ着て晴冬を悩殺させるつもりだから」
「え? そんなん晴冬さんが喜ぶだけの、ただのご褒美じゃないですか」
そんないい思いを晴冬さんにさせなくてもいいのに。
感情が顔に出ていたようで、つい仏頂面で答えてしまった。だけど、琴ちゃんは怒るでもなく、可笑しそうに笑ってる。
「そうだ! 礼桜ちゃんも九条君に見せたら?」
「え? 無理!」
「どうして?」
「晴冬さんは琴ちゃんのを見て鼻血出すくらい喜ぶと思うけど、九条さんはほかの人で見慣れてると思うし、今さら私のを見ても何とも思わない気がする。むしろいい迷惑だって思われないかな」
「……………………。なるほど」
——アカン。自己評価低すぎやろ。可愛い礼桜ちゃんにそんなこと思わせて、九条君、何してんの。ほんまに許さへん。今度会ったら絶対文句言う。
琴ちゃんが心の中で九条さんに対して怒りを爆発させていたことを私は知る由もなかった。
その後も私たちはいろいろな下着を見て回った。アニメやキャラクターとコラボしてる下着もあり、それがかなり可愛くて、二人で盛り上がってしまった。
ブラ紐に小さめのリボンが付いていて、カップもノンワイヤーなのにホールド感抜群で。
上下セットを色違いでお揃いで買うことにしたら……提案者の琴ちゃんがプレゼントしてくれた。出逢った記念にって。
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