第9話 晴冬さん、追いかけてください!
「こ、と……ね」
晴冬さんはこれでもかと瞠目し、言葉も途切れ途切れで何とか絞り出した。
晴冬さんと彼女を交互に見ながら、この可愛い人が晴冬さんが言っていた彼女だと気づいた。
ことねさんは、目に涙を溜め、クルリと後ろを振り向くと、走り去っていった。
周りにいた友達も慌てて後を追いかけている。
だけど、晴冬さんは呆然と見送るだけで、動こうともしない。
「晴冬さん! 行ってください!!」
私の声に覚醒したのか、ハッと意識が返った晴冬さんは、それでもまだどうするか迷っているようだった。
「私のことはいいから、早く追いかけてください!!」
「でも……」
「お母さんが言ってました。タイミングがずれると上手くいくことも上手くいかなくなるって。晴冬さん、タイミングって大事なんですよ! 早く!!」
思いっきり晴冬さんの背中を押した。
「ありがとう、礼桜ちゃん。必ずあいつに迎えに来てもらうんやで!」
「分かりました。約束します。晴冬さん、荷物をください」
「ありがとう」
十数本のリボンが入った紙袋を私に渡した晴冬さんは、ことねさんの後を追って走り出した。
「頑張れ!!」
全速力で追いかける背中に向かって私は声をかけずにはいられなかった。
どうか、どうかうまくいきますように……。
◇◇
「何事?」
目の前には、まだ問題の男がいる。
いきなり始まったやりとりを静観していたようだ。
どこかに行ってくれてよかったのに。
同い年だから、話しかけられても面倒くさいと思うだけで、特に怖いとは思わない。
さて、どうしよう。
晴冬さんと約束したから、とりあえず九条さんに電話しようかな。
◇◇◇◇
【晴冬side】
まさか琴音ことねがいるなんて思わなかった。
別れたときと変わっていない。
むしろ、綺麗な大人の女性になっていた。
もう手遅れだろうか……。
押し寄せる不安をすべて抑えつけ、俺は必死に走った。
日曜日のキューズモールは家族連れや学生など、平日と比べ人がかなり多い。その合間を縫いながら、俺は必死に琴音の姿を探した。
見つけた!!
エスカレーターで下の階に下りている。
琴音を見つけた途端、置いてきた礼桜ちゃんのことが心配になった。
礼桜ちゃんは大丈夫だろうか。
もし電話できへん状況になってたら……。
俺は琴音を前方に捉えたまま、ズボンのポケットから携帯を取り出し、湊に電話をかけた。
『もしもし』
「湊! ごめん! すぐにキューズモールに来てくれへん? 今、礼桜ちゃん一人やねん。変な奴が礼桜ちゃんの側におるから、とりあえずすぐ礼桜ちゃんに連絡して」
『は? お前は?』
「琴音に会ったから追いかけてる」
『…………分かった。頑張れよ』
前に一度、湊には琴音のことを話していた。
俺の相棒は話が早くて助かる。
きっと礼桜ちゃんは大丈夫なはず。
湊もすぐに来るだろうし、こんな人が多い場所であの男も騒ぎは起こさないだろう。
礼桜ちゃん、湊が来るまでどうか無事でいて!
そう願いながら、俺はエスカレーターを駆け下りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます