第7話 ◆迫り来る邂逅
—同日、午後4時30分—
お目当てのリボンを手芸屋さんで買った私たちは、晴冬さんの希望で同じフロアにあるゲームコーナーに来ていた。
ここに来た理由は、UFOキャッチャーをするため。
ゲームコーナーにはたくさんのUFOキャッチャーがあり、1台1台二人で見て回った。
入口入ってすぐのところは、大きなぬいぐるみや、小さな子どもたち対象のUFOキャッチャーが置かれ、奥に行くに従ってアニメのフィギュアなどが置いてあった。
別に探したわけではないが、私の好きなアニメのフィギュアが入っているUFOキャッチャーもあった。
めっちゃ格好いいんですけど!!
フィギュアを見て、思わず目が輝いたのが自分でも分かった。
今日、財布の中にいくら入れていただろうか。
電子決済も使えるみたいだから、携帯の中にチャージしているお金でトライしてみようかな。
ものすごく欲しいけど、取れる自信はない。
心の中で葛藤していたら、晴冬さんが話しかけてきた。
「おっ! これ、礼桜ちゃんの好きなアニメキャラじゃない?」
「はい」
「めっちゃ格好ええな」
「格好いいですよね……」
「俺が取ってやろうか?」
「え? 晴冬さん、取れるんですか?」
「多分いけると思う」
晴冬さんはフィギュアの箱がどのように置かれているか、いろんな角度から確認している。
「あの、お金払います」
「そんなん要らんわ」
「でも……」
「俺、礼桜ちゃんに助けてもらったのに何もお礼してなかったから、これがお礼でもええ?」
「私、何もしてませんけど……」
ただ、ひったくりをした晴冬さんを止めただけだ。
「まあ、見てて」
フィギュアの箱は、2本の棒の上に置いてある。よく見かけるこの置き方は〝橋渡し〟というらしい。
UFOキャッチャーは500円入れると6回できる仕様になっている。
晴冬さんは500円入れると、1回目、→方向を動かし、程よいところで止め、今度は↑方向を動かした。アームが閉じられ、持ち上げられた箱は少しだけ動いた。
5回を終えたところで、箱は2本の棒に沿うように横向きに変わった。
6回目、落ちそうで落ちなさそうな絶妙な位置にフィギュアの箱は来ている。
晴冬さんは100円玉を入れると箱を落としにかかった。
100円、また100円と入れていく。
私は祈るように晴冬さんを見守った。
9回目、UFOキャッチャーの右側のアームで箱の左側、ちょうどキャラクターの顔のあたりを押した。
ガタンという音とともに視界から消えるフィギュアの箱。
晴冬さんは腰をかがめると取出口から箱を取り出し、「ほい」と言って私に差し出した。
私の前には、推しのフィギュア。
おそるおそる手を伸ばし、フィギュアの箱を受け取った。
「晴冬さん、ありがとうございます! すっごくすっごく嬉しいです!!」
爽やかな晴冬さんの笑顔と、両手に感じるフィギュアの箱の存在が嬉しくて、胸がいっぱいになった。
◇◇
一つ目のフィギュアは800円で取れた。
晴冬さんは「800円じゃお礼にもならない」と言って、それから2個、私がほしいと言ったフィギュアを追加で取ってくれた。
今、私の腕の中には3つのフィギュアが収まっている。
UFOキャッチャーでこんなに幸せを感じたことがあっただろうか。いや、ない!!
2千円使っても取れずに終わることなんてザラにある。
「晴冬さん、ありがとうございます!!」
「2,200円でそんなに喜ぶとか、どんだけ安上がりなん」
「でも、私は取れないから。本当に嬉しいです」
晴冬さんはすごいな!
今度、コツとかを教えてもらおう。
「喜んでもらえてよかった。
……礼桜ちゃん、離さない勢いで抱きしめてるけど、手に持ったまま帰るん? 袋もらおうか?」
「大丈夫です」
私はバッグに入れていたエコバッグをいそいそと取り出すと、箱に傷がつかないように丁寧に丁寧にバッグの中に入れた。
「……なんか恭しくない?」
「当たり前じゃないですか」
愚問だという気持ちを乗せて真顔で答えると、
「また今度取ったるわ」
と言って、可笑しそうに笑っている。
晴冬さん、言質は取りましたよ。約束ですよ!
◇◇
ほくほくしながら出口に向かっているときだった。
「礼ちゃん?」
声のするほうを向くと、私の目の前に見知った男がいた。
もしかしたら、この邂逅がこれから起こる事件の引き金だったのだろうか。
このときの私は想像すらしていなかった。
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