第3話 二人で作るお昼ご飯②

「礼桜ちゃん、卵4つ割って」

「はい」


 ボウルを用意し、私は冷蔵庫から卵を4つ取り出した。



 今日のお昼ご飯は、オムライス!!!



 お昼ご飯を作る際、大好きなオムライスを作ると聞いて、私のテンションは爆上がりになった。


 テンションが高すぎてウザく感じたのだろうか。九条さんからギュッと抱きしめられた。抱きしめられ、スンと落ち着いたところで料理開始となった。




 自慢じゃないが、私は料理がまったくできない。



 なので、私はお手伝いと後片付け係を買って出ている。といっても、九条さんも後片付けを一緒にしてくれるし、キッチンには食洗機があるから、私がすることはほんの少ししかないけど……。


 今週の月曜日、初めて一緒にお昼ご飯を作る際、「少しずつできることを増やしていくので、よろしくお願いします」と〝料理がんばります〟宣言をしたら、私をジッと見た後、「うん、少しずつね。とりあえず包丁以外でがんばろっか」と優しく頭をポンポンされた。


 もしかして……私はやんわり戦力外通告をされたのだろうか。


 確かに私に刃物を持たせると怪我する確率のほうが高い。ピーラーでさえまともに使えないのだから。


 だが、私は諦めない!


 料理はできないけど、お手伝いはできる!!



 それをモットーに、今日の私のお手伝いは、お米を研ぐこと、玉ねぎの皮を剥くこと、卵を割ること、お皿を並べることくらいだが、今のところきちんと全うできている。



 九条さんの家のキッチンは、ペニンシュラキッチンと呼ばれる仕様で、ペニンシュラとは半島という意味を表す。左右どちらかが壁についているキッチンのことを言うらしい。四方が壁に接していないキッチンがアイランドキッチンなら、片方だけ壁につけたものをペニンシュラキッチンと呼ぶ。

 コンロの上には、大型タイプの高性能レンジフードがお洒落に取り付けられており、煙や匂いがレンジフードに吸い寄せられるように上に上がっているのが分かる。一言でいうと、広くて機能的でかなりお洒落なキッチンだった。



 九条さんが手際よく鶏肉と玉ねぎを炒めている。料理をしている姿もかなり格好いい。


 早炊きで炊いたご飯も炊き上がった。

 鶏肉に火が通ったらお米を投入してケッチャプで味付けるのだろうか。隠し味とか入れるのかな?


 作っているのを側で見ているだけでお腹が空いてきた。


 私にできることは、もはや何もない。

 九条さんの邪魔にならない場所に立ち、わくわくしながら出来上がるのを見守ることにした。




◇◇



「湊君、とっても美味しい!!」

「よかった」


 半熟のふわふわ卵がチキンライスの上でプルプル震えている。それを崩すとき少し罪悪感が押し寄せたが、口に入れた瞬間、そんな罪悪感は遥か彼方に吹き飛んだ。


 ふわふわの半熟卵とチキンライスの絶妙なハーモニー!!


 九条さん! ありがとうございます!!


 心から手を合わせて九条さんを拝みたい。それくらい美味しい。


 テーブルの上には、オムライスと野菜サラダ。

 手際がいい九条さんは、いつのまにかレタスやプチトマトなどを洗ってサラダを作っていた。



 九条さんは美味しそうに食べる私を見て嬉しそうに笑った後、オムライスをスプーンですくって口の中に入れた。


「うん、うまい」


 私は同意するように満面の笑みで頷いて、また一口オムライスをすくって口に入れた。


 二人で作って一緒に食べる4回目のお昼ご飯。


 二人で暮らしたらこんな感じなのかなと想像を膨らませつつ、私はまた一口オムライスを口の中に入れた。




◇◇




 昼休み直後の5時間目と同じで、エアコンが効いて快適な九条さんのお部屋でも、お昼ご飯を食べた後に課題をしたらすぐに睡魔に襲われる。物理の課題をしようとした日には、秒で夢の中に行ける自信しかない!


 なので、午後3時半まで九条さんとまったり過ごし、そのあと課題に取りかかっている。


 それまでは、ソファーに座らずラグの上で、九条さんに後ろから抱きしめられながら、時々九条さんの膝を肘置きにしたり、横向きになって九条さんが膝立てている足を背もたれにしながら、二人でくっついて過ごしている。後ろからハグされると九条さんの温もりがダイレクトに伝わり、包み込まれているように感じる。

 後ろからのハグは、言葉で伝えるより愛情を感じられることを知った。


 閉じ込めるように抱きしめられた腕の中で、九条さんは頻繁におでこや頬っぺにキスを落としてくる。この1か月で大分慣れた。耳に九条さんの唇が近づくときだけ手でガードして防いでいるが、でこチューや頬チューは耐性がついてきたようだ。


 九条さんは約束どおりそれ以上のことは何もしてこない。

 最近、次の恋愛レベルに行っても大丈夫な感じがしてきたが、九条さんに伝えると後が怖いので、あえて伝えていない。



 安心しきった私は、今日も横向きになり、九条さんの心音を聞きながら抱きしめられた腕の中でお昼寝をした。

 九条さんも後ろにあるソファーにもたれかかり、私を抱きしめたまま一緒に目を瞑ってお昼寝をしている。



 私たちの恋は、少しずつ、少しずつ育っていた。







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