第2話 二人で作るお昼ご飯①
—7月14日(木)12時50分—
「
「おかえり、
7月に入ってぐんぐん気温が上がり、空を見上げると、すっかり夏の空に変わっている。
私の制服も夏服へと移行し、半袖の白ブラウスにネクタイ姿へと変わった。
リボンとネクタイ、どちらをつけても構わないので、私は夏服にはネクタイを合わせている。
頭一つ背の高い彼氏の九条さんは、柔らかく微笑むと、背負っているリュックを下ろして持ってくれた。
通学リュックが10㎏以上あることを知ってから、九条さんは私のリュックを持ってくれるようになった。
7月に入っても、相変わらず学校が終わる時間に合わせて迎えに来てくれる。
何度も何度も「一人で帰るから大丈夫」と伝えても、首を縦に振ってくれない。むしろ悲しそうな顔でいつも「迷惑?」と聞かれるから、それ以上は何も言えず、いまだに九条さんの好意に甘えている。
九条さんと付き合い始めて2か月が過ぎた。
名前で呼び始めてもうすぐ1か月になるので、何とか自然に「湊君」と呼べるようになってきた。
◇◇
身長185センチの九条さんは、華やかな顔立ちに、すらっと引き締まった体と長い足で、女性がキャーキャー騒ぐほどイケメンでルックスがいい。髪はダークブラウンの落ち着いた色味で、ふわふわのパーマがかかっており、前髪はセンターで分かれている。柔らかい雰囲気も相まって格好いいの一言に尽きる。
そんな九条さんが学校まで迎えに来ると、女子生徒にキャーキャー騒がれてしまう。なので、私のわがままを聞いてくれた九条さんは、目を隠すように前髪を下ろし黒縁メガネをかけたもっさい姿で迎えに来てくれる。
本当にありがたい。
かたや私はというと、自他ともに認める地味な女子高生だ。肩上の黒髪で、優等生のような真面目オーラが出ているらしく、女子高生の特権とも言えるキャピキャピ感が一切ない。
「17歳! 高校2年生! 青春してこー!!」と盛り上がるリア充の勢いを横目に見ながら、気の置けない友達と高校生活をのんびり満喫している。
キャピキャピを出せと言われても、無理なものは無理だ。
地味な女子高生だけど、なかなか充実した楽しい日々を送っているので、まったく問題ない。
早いもので、そんな真逆のような私たちがお付き合いを始めて2か月以上が経過した。
今年21歳(今はまだ20歳)になる阪大生の九条さんは、私の4つ上で、交際を始めるとき「本気で好きだから筋を通したい」と私の両親に交際の許可をもらいに来てくれた。挨拶に来るということがどういうことか、私が思っている以上に真剣なのかもしれない。
誰かを好きになったこともない恋愛偏差値ゼロ以下の私に合わせて、九条さんは「少しずつ慣れていこうね」といつも言ってくれる。「礼桜ちゃんの嫌がることは絶対にしない」と。それなのに、色気駄々洩れの大人の甘さ全開で来るから、ほんと困る。
嫌じゃないけど、恥ずかしくて困るのだ。
◇◇
「おなかすいたでしょ。何か食べてく? それともウチで食べる?」
車に乗り込んでエンジンをかけたところで、九条さんが聞いてきた。
7月中旬から終業式前は三者懇談が始まるため、学校は午前中で終わる。今日も短縮の4時間授業だったので、時計を見ると午後1時前を指していた。
「湊君はおなかすいた?」
九条さんのお願いどおり、敬語で話すのもやめた。だけど、時々、敬語が出てしまう。もう癖になっているので、そんなときは大目に見てくれる。
「ん~、どうだろう。減ってると言えば減ってるけど……」
「私は湊君と一緒にお昼ご飯を作って食べたい、かな……」
「分かった。じゃあ今日も二人で何か作ろっか」
「はい!」
「礼桜は何が食べたい?」
「湊君が作ってくれるご飯は何でも美味しいので、お任せします。私は今日もお手伝いを頑張りますね!」
「分かった」
二人で笑い合いながら、車は一路、九条さんの家に向かって走っていく。
私のことを「礼桜ちゃん」と呼んでいた九条さんも、時々「
◇◇
三者懇談(短縮4時間授業)が始まって今日で4日目だ。昨日までの3日間、私は九条さんのお宅にお邪魔して、二人でお昼ご飯を作って食べた。その後、少しまったりして、私は夏休みの課題を、九条さんは大学のレポートや仕事をしながら過ごすのが日課となってきた。
今日もそんな午後になるのだろう。
エアコンが入った快適車内から外の陽射しが突き刺さる街並みを眺めた。車は大阪のビルの間を抜けていく。新しくできたお店があると、つい車窓から目で追ってしまう。最近は新しくオープンした〝みたらし団子〟屋さんが気になって仕方がない。車で通るたびにガン見している。買っている人が多いので美味しいに違いない。
「今度、あの新しくできたお団子屋さんに行こ」
九条さんがチラッと私を見て提案してくれた。どうやら私の考えはお見通しだったようだ。
車はちょうど赤信号で止まり、九条さんの左手が私の右手を捉えた。
恋人つなぎで繋がる手。
視線を上げ九条さんを見ると、優しい眼差しで私を見つめている。
お見通しだったことが少し恥ずかしかったが、嬉しい気持ちがまさり、私は笑顔で「はい」と答えた。
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