第23話 帰還
【アリス視点】
ノア「あいつ、死んでないよな」
アリス「まぁ大丈夫でしょ」
ヘレーネ「さっきレオが大猿の一撃を喰らって遥か遠くに飛ばされたのが見えたわ・・・。あれぐらいなら、彼の魔回復で何とか持ち堪えるでしょう。以前も何度あったしね」
フィン「大丈夫」
ノア「そうだな。俺たちもこの猿達を捲かないとな。捲いた後はとにかくタタン街に行こう。おそらくレオもそっちに向かうだろう」
アリス「急ごうよ。私たちもあんまり草原にいるのは危険だよ。大猿が目標を変えてこっちに来たら最悪だわ。この猿たちと大猿とが一緒に襲ってきたら、私たちも無事では済まないわ」
ヘレーネ「そうね。レオの索敵無しであんまり草原をウロウロするのは危険ね。早く行こ・・・!!」
「キーーーーー!!!!」
ノア「しまった!見つかった!」
私達は猿の群れから見えないところで、猿の探索から隠れていたが、一匹の猿に見つかってしまった。とにかく、この猿の軍団を捲き、タタン街へ戻るしかない。
へレーネは水で一振りの剣を発生させ、猿を一刀両断にした。
ヘレーネ「行こう!!」
私達はとにかく大きく迂回して、大猿にぶつからない様に必死で走った。
猿達の追跡は執念深く、どれだけ距離を取ったとしても必ず追いかけてくる。この執念があるから、森でも猿とは事を構えてはいけない、との共通認識が森の生物の中に自然と生まれたのだ。
猿達は走力や攻撃力などの戦闘能力はランクEほどの力を持つ。単体で戦えば、へレーネの一撃で殺せるのだが、多数で来ることがほとんどのケースなので、基本は交戦は避けながら、逃げの一手が上策なのだ。
私たちは猿達からの執拗な追撃を躱しながら、タタン街を目指した。
【レオ視点】
「おう、お前、可愛い女の子を連れているな。お前の女か?」
俺はロアを連れて部屋から出てきた。冒険者ギルドなどへ行き、仲間の4人が帰ってきていないかを確認するためだ。ロアを一人しておくと、彼女は自分で自分の魔力の解放を止められないから、ロアの魔力に反応した変な輩を誘発して間違いなく問題に発展する。とにかくロアが自分の魔力をコントロールできるようにならない限りは、俺はロアとずっと一緒にいなければならない。
彼女の肩に手を置き、自然な形で二人で連れ立っているつもりだったが・・・
下卑た笑いをして、同じ宿泊客の冒険者グループが俺とロアを見て絡んできた。
「・・・」
「おい。聞こえてんのか?!おい!」
「・・・」
俺たちは足早にその場から逃げるように去ろうとするのだが。
「おい。俺たちは話があるんだよ。お前にはないがな。そこの嬢ちゃん。そんな子供と一緒にいないで、俺たちの所に来た方が安全だぜ。こっちに来な」
ロアは一瞬怯んだような表情をして、相手を見た。
声をかけてきているのはランクEの冒険者たち。粗暴な出で立ちで、強力な武器を腰や背中に携帯し、歴戦の戦士の雰囲気を身に纏っている。
「おい。無視するなよ」
それでも 俺は聞こえない振りをしながら、ロアの手を握り足早に宿舎から出ようとした。
「おい、色男。そんなに急いででていくものじゃないぜ」
そう言った冒険者の男は、持っていた鞭を取り出しピシャリと俺の足首に打ち付けた。絡みつく鞭が俺の足のバランスを狂わせ、俺はその場で転倒をした。
「はははは!!どうした!?これぐらいの鞭の攻撃が躱せないようだったら、町の中でも変な奴らに絡まれて死ぬのが落ちだぜ」
「おいおいおい。どんくさいやつだな。そこのお嬢さんもそう思うよな」
そして俺は何度も上空に引き上げられ床に叩きつけられた。
ワナワナとただこの推移を見守る事しかできずに、 ロアは倒れ伏す俺と冒険者を見た。
「あ、あなたたちは、一体何がしたいんですか?」
「おぉ、この状況で強気なことだな。まぁ、こっちに来て少し話をしようぜ。お嬢さんの悪いようにはしないぜ。へっへっへっへっへっ」
「私はこの人と一緒に外出をするところです。邪魔をしないでいただけますか?」
絡まれれば無事では済まないような輩たち。この宿舎での俺の立ち位置や、この街でのこの冒険者の立ち位置などが全く分からなく、どう対処すればいいかとわからないような様子で、足元は少し震えていた。
(すまないな)
そう心の中でロアに謝った。
「なっ!?ぐ・・・がはっ!」
鞭を持った冒険者は驚いたように目を開いて、俺が普通に立ち上がったのを見た。そして、いきなり呼吸ができなくなった状況に気が動転して、苦しみ悶えその場で倒れた。
「「「なっ!!!???」」」
「ぐぇ・・・あぁぁぁ・・・・がああぁぁ・・・ぐは・・・」
仲間の冒険者は、男がいきなり倒れてもだえ苦しんでいる姿を見て、一体何が起こったか分からず、状況を掴めずにいった。男は明らかに口から泡を吹いて、悶絶しているような様子だ。
「何を冗談してんだ?」
「おい、冗談は止めろ。なんで倒れてんだ?」
周囲のパーティメンバーは倒れた男に声を掛けるのだが、男は既に気を失っていた。
体に揺さぶるが全く反応を示さないことを訝しり、肩を持って揺さぶった。
「おい!どうしたんだ!?」
「全然反応しないぞ。何があった?!」
「大丈夫か!?」
男は片手に鞭を持ちつつも仲間の声かけに全く反応を示さず、気を失っていた。
俺は倒れ伏していたが、攻撃が止み後方で騒いでいる光景を一瞥して、足に絡まっている鞭を解いて、痛みを堪える振りをしながらゆっくりと立ち上がった。
もう俺たちに絡もうとする奴らはいない。俺はロアを促して出口へと歩いて行った。
ある程度ギルドの建物から距離を取り、誰も先ほどの騒ぎを知らない場所まで行くと、俺はふぅーとため息を大きくついた。
「何があったのですか?」
ロアは不思議そうな顔して、先ほどの宿舎内での出来事を聞いてきた。
「まぁ、単純な話だ。奴の鞭を伝いに俺が奴の体内に干渉したんだ」
「どういうことですか?」
「俺は他の生物の回復ができる。その力はそのまま破壊できることにも繋がるんだ。俺の魔力は、服でも何でも通す事ができる。直接俺と繋がっていれば、俺は魔力を通すことができるんだ。更に奴の鞭は魔道具だから、魔力がこもっているから通しやすかった、ということだ。俺の魔力を通して、奴の体内を締め上げたんだ。呼吸を止めて混乱させた。誰も何が起こったかは全くわからないだろうけどな」
「そ、そんな事ができるんですか・・・?」
「じい曰く、俺の特化した能力らしい。他の人たちは自分たちの魔力を火や風、水、土なんかに変換して、外への放出ができるんだが、俺の場合は全くできないんだ。けども変換の代わり俺は自分の魔力を操作することにかけては、才能があるらしい」
「す、すごい・・・」
「まぁ、誰しも得手不得手というのが存在するのさ。俺の仲間と合流すれば、俺にはできない魔力変換をあいつらに教えてもらえるから、ロアも期待していていいぜ」
「誰が何に期待していていいって?」
その言葉に反応して後ろを振り向くとボロボロの服装を纏った4人の子供たちがいた。もちろん俺の顔見知りだ。
レオ「よう、そろそろ到着するんじゃないかと思っていたが、かなり時間がかかったな」
アリス「大変だったわ。あの猿共を捲くのは本当にいつも手間がかかるわ」
ヘレーネ「それで私たちが草原で死にそうな目に遭っている間に、えらく可愛い女の子と肩を組みながら楽しそうにしているのね」
レオ「お、おう。これには色々と事情があってな・・・」
ノア「よくよくその事情を教えてもらおうか。事と次第によっちゃあ・・・」
ロア「レオ様は本当によくしていただいております。私はレオ様の奴隷ですので」
場が凍り付いた。
4人は一体、何をこの少女が言っているか理解できないでいた。今まで出会ったことないような衝撃を受けたような感覚に襲われていた。
かく言う俺も、一体どれだけ説明を省けば、このような発言ができるのかと、口端が痙攣しているのを覚えた。
何故かとても冷たい視線と、燃えるような熱い風が吹いてくるの両方を感じながら、俺は4人と対峙した。
アリスの後ろかうっすらと何か炎の様な幻が見えるほどの威圧感を感じる。
アリスが怖い・・・
アリス「レオ。詳しく説明してよね」
レオ「はい・・・」
そうして俺たちは踵を返して、再び俺が泊っている宿舎へと戻ってきた。幸い、あの冒険者たちはいなかったので、面倒な事は起こらなかった。
まぁ、居たところでまた同じように対処はするんだけどな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ノア「なるほど、つまりあの時の逃亡中の貴族様が俺たちを裏切らないことを保証するために奴隷落ちしたと」
レオ「平たく言うとそんな感じだな」
俺たち6人は、俺とロアの2人部屋のところにギュウギュウ詰めになりながらも、それぞれの座る場所を確保して今までの状況を整理していた。
手にはそれぞれが宿泊所の1階の食堂で買った食事を持ち、2階の俺たちの部屋にやってきた。
ノア「ふーん。レオ、お前ふざけているのか?」
ノアからは怒気を孕んだ一声が放たれた。誰もが緊張した面持ちでいた。
レオ「俺はふざけていはいない」
ノア「じゃあなんでこの貴族様に魔力使用を教えるように約束してんだ?」
レオ「彼女がその覚悟を示したからだ。もうロアはこちら側の人間になっても大丈夫と俺は判断した」
ノア「それはお前の判断だろ?もしこの貴族様が嘘をついていたらどうするんだ?」
ロア「私は決して嘘などついておりません!!」
ノア「いや、あんたに聞いているんじゃない。レオがどうしてあんたが嘘をついていないかを判断できたんだ、と聞いているんだ」
レオ「彼女の話には整合性があった。彼女はあの森で死にかけていたし、他の付き添いも全員殺された。そして、最後にこの街に入る時も、彼女の追手が来ていたんだ」
ロア「えっ!!??」
レオ「ロアには話してはいなかったが、この魔道具を持っていた傭兵のような奴が来ていたぜ」
そう言って、俺はアリスが座っている部屋の隅に放っておいているナイフを指さしてアリスにこっちに投げるように指で伝えた。
アリスはそのナイフを手でつかみ俺に投げた。
俺はそれを掴んだ。そしてそのナイフに魔力を込めた。基本、魔道具は魔石を埋め込まないと作動はしない。何故なら魔石からの魔力で魔道具はその効果を発揮するのだ。では、その魔力供給元が魔石ではなく、直接外部から与えられたどうなるか。それは単純で魔力供給さえあればその魔道具は効果を発揮するため、今俺が魔力を込めているので、魔道具がその効果を発動させるのだ。
アリス「凄い。レオの気配が消えたように見えるわね」
フィン「気配がほぼない」
ヘレーネ「けども気配は薄くなっているようだけど、魔力を使っているからレオの位置は魔力を使う人達からは丸わかりだけどね」
レオ「まぁそうだな。まぁ、欠陥品であることは間違いない。けどもこれを使っていた奴の魔力量はかなり少なかったから位置を特定するのは困難だろう。俺たちなら感知できるとは思うが、普通の魔物とかなら感知できないと思う。魔力を感知させず、気配もない。街から街へ移動するにはかなり有用な魔道具だ。それに使っていた奴もなかなかの使い手だったな」
ノア「で、それがどうしたんだ?この魔道具と、その貴族様を信じる理由のつながりは?」
レオ「俺が言いたいのは、それぐらいの連中が彼女を殺そうとしていた、ということだ。フォルトン子爵城塞都市ルーガリア。タタン街にいると、ルーガリアが魔物暴走の被害を受けたとの話はチラチラ聞こえてくる。そこから脱出しようっていうんだ。普通はそんな時に城壁から出たら死んだと思うだろう。それでも、その子爵正室アマンダは確実に死んだことを確認するために刺客を送る程だ。俺から言わしたら気が狂っているとしか言いようがない。ここから考えられるのは、ロアがフォルトン家から完全に分離していると考えられる。そして彼女のフォルトン家への復讐心も理解できる。そして魔力使用の習得を第一優先にこれから動く事は辻褄が合う。そして、俺がまだ魔力使いかどうかを伝える前に、そしてじいに会う前に、勝手に俺の奴隷となった。どうだ?彼女の話を信じてもいい気になってくるだろ?」
ロア「わ、私にはもうレオ様と皆様しかいません。どうか私にフォルトン家への復讐の手助けをお願いします」
数秒間の静寂が部屋を支配した。
最初に口を開けたのはアリスだった。
アリス「私でも信じたかな」
ヘレーネ「私もね」
フィン「僕も」
最後まで口を閉ざしていたノアも目をきつく閉じながら言った。
ノア「たしかにな。分かったよ。ロアを信じよう。レオ、これからどうするんだ?そんなお嬢さんを奴隷にして」
レオ「とりあえず、俺たちのアジトへ行く。それでこれからロアに魔力の使い方を教えていくことにする。ロアの自立を助けていく、これが基本的な俺たちのルールだろ?」
ノア「わかったよ。俺たちも手伝うよ。ロア、これからよろしくな。アンタを助けたい気持ちはあることにはあるんだ。一緒にこの世界を生き抜いていこうぜ」
ヘレーネ「よろしくね、ロアちゃん。私はへレーネっていうから」
アリス「これから大変だけど、よろしくね。私はアリス」
フィン「フィン」
ロア「は、はい。皆さん。大変お世話になりますが、よろしくお願いします。ノア様、ヘレーネ様、アリス様、フィン様」
レオ「ロア、俺たちのことは、全員呼び捨てで構わない。もう俺たちは運命共同体のようなものだ。遠慮はいらないさ。むしろ遠慮があったりすると、森での生活は凄惨だからな。そんな事でタイムロスがある場合じゃないんだ」
ロア「そ、そうですか。わ、分かりました。レ、レオ・・・?」
レオ「まぁそんな感じだ。さぁこの都市にいるのはいいけど、やっとこいつらと合流できたから、早くアジトに帰ろうか。この場所は俺たちには非常に居心地が悪いからな」
ロア「ど、どうしてですか?」
レオ「こんな子供だけで、この場所にいれば、周りの大人からは浮浪児扱いされるからな。特にこの場所に庇護する大人がいるわけじゃないから怪しまれるのさ。じいがいれば話は別だが、今回はじいと一緒にいるわけじゃない。変な詮索をされる前にとっとと帰ろう」
ノア「一日だけここに泊まっていいか。もう疲れた。お前たちはいいが俺たちはもう疲労困憊だ」
レオ「そうだったな。ははは。すまんすまん」
そうして俺たちは1日だけこの宿舎に泊まり、無事にアジトへと帰ることにした。
それから1年の歳月が経った。
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