第22話 ロアの魔力訓練

(困ったな・・・)


俺は部屋を出て、途方に暮れた。


確かに彼女の話に整合性はあり、この状況下で嘘をつくことは無いだろう。そこは疑っていない。


そして、俺もできることなら彼女に魔力使用の方法を教えてあげて、彼女の生存を脅かす全ての可能性を排除したいとの願いを叶えてあげたい。これが実は俺の正直な思いだ。


しかし、だ。


何をどう考えてもそれは不可能だ。そんなことを言い出したら、全ての孤児には全員同情する余地は大いにあり、全ての孤児を引き取り、全ての孤児に魔力の使い方を教える羽目になる。この世界において暗鬱としない身の上話など存在しない。必ず誰かが殺され、必ず誰かが不遇の目に遭っている。同情すれば、全ての人に同情する余地がある。


しかし、問題は、俺がそんなことをし出したら、何故この子供たちは魔力が使えるのか、と多くの人々は疑問に思い、俺たちの存在が明るみに出るのは時間の問題になるだろう。これは絶対に避けなければならない。人々の注目を得て、良いことは何一つとしてない。


けども、だからと言って彼女を放っておくことは俺の気持ちが許せない。


自分の気持ちと生存率の低下・・・。





(ふっ、比べるまでもない)





仲間の命と自分の一時的な同情の気持ちなら、仲間の命が何億倍も大切だ。


そう思うのだが、彼女の覚悟に驚く。


奴隷落ちしてでも学びたい。



(どうする・・・?)



もちろん、彼女が俺の奴隷になるなんてことは受け入れられない。彼女の人生を奪うつもりなどさらさらない。


そこまでの覚悟・・・


彼女の事は信用できるのか?




揺らぐ心のまま、俺は一人街のある場所へと向かった。


そこは物見櫓だ。俺はここ最近、魔力収斂で探索を街の外、広く10キロ先まで伸ばして俺の仲間の帰還を待っていた。あいつらは猿の一群如きで死ぬほど軟な奴らではないのは分かっている。しかし、あの猿の一群も簡単に逃げられるほど軟な奴らでもない。伊達に森の中で最も恐れられている魔物として君臨はしていない。


俺はあいつらと早く会いたい。生きている事は分かっているが、早く会ってあのロアという少女について相談がしたい。


あいつらと別れて早1週間が経つ。一体どこで何をしていることやら・・・。


街の方を見ると既に闘技祭は終了しており、その余韻を楽しむように多くの人達が街のあちこちで宴を行っていた。


俺はそんなものにもちろん参加することは無く、魔物が跋扈するこの草原において多くの魔力反応を感知しているが、4人を探して集中していた。


その時にまさか、あの少女が宿舎から出ているとは、全く感知していなかった。







【ロア視点】

私は絶対の機を逃すことはできない。


(お母様・・・。お母様の形見のアクセサリーを使わせてもらいます・・・)


私の唯一と言っていい母からもらったモノ。私の首にかかる薄い糸の形状のネックレス。


これは薄い糸状のヒヒイロノカネでできており、趣向も凝らせたかなりの装飾品。貴族と結婚をした母が、私に死に際にくれた贈り物。そして母を思い出せる、唯一の形見・・・


私は形見のネックレスをぎゅっと握りしめ、再びベッドから出て、周囲の壁を伝いながら部屋の中を歩き回り始めた。もう少しすれば体力も戻るだろう。まずは歩くのに慣れていきたい。外に出なければ・・・


私はただひたすら壁伝いに歩き続けた。


一瞬自分の服を見て驚愕した。


(服が変わっている!)


頭の上から何か蒸気の様なものが噴出したような気分だった。


(レ、レオ様が着替えさせて・・・??)


とにかく動揺する気持ちを横に置いて、歩いては休み、歩いては休み、ただひたすら歩き続けた。


夕方になるとレオ様は戻ってきた。


「もう体は大丈夫か?」


「はい。このままここで寝ていても何も進展はありませんので。いつまでもレオ様にお世話をしていただいているわけにはいきませんわ」


「まぁまだ当分は大丈夫だから、そんなに棍を摘めなくてもいいぞ。俺も待ち人がいるから、それまでならあまり無理しなくてもいい。それに俺はロアが独り立ちできるまでは待つつもりだから、無理はするな」


「はい、ありがとうございます。本当に何から何まで、レオ様には感謝の言葉しか出てきません。それと私の服の件なのですが・・・」


「あぁ、あまり気にするな。女将に手伝ってもらって着替えてもらったからさ。また明日の朝に来る。ゆっくりしてな」


「は、はい」


そう言って、レオ様は再び部屋から出て行かれた。


私はレオ様がこれほどまでに気遣い、護っていただいていることに胸の中に熱いモノを感じるようになってきた。もちろん、レオ様は私をどうこうするつもりもないのは分かっている。私が孤児院に引き取られるまでの関係とも分かっている。


しかし、正直、これほど優しくされて、何も感じるなと言われる方が無理というもの。


私はとにかく歩き続けながら、また自分の中の魔力を感じながら、どうしたらこの魔力を使うことができるかを考えた。前みたいに私の中から魔力が流れだすことは無い。何もすることもできないのだ。


そして時間が自然と経っていった。




それから2日後。




私は商人ギルドの建物の前に立っていた。


この街の片隅に佇む商人ギルドの建物は、質素ながらもたくましい威厳を湛えている。小さな敷地に建つこの建物は、周囲の家々とは一線を画すような存在感を放っていた。薄い赤茶色の壁は年月の経過を物語っているが、しかしその風格は揺るがず、地域の経済活動の中心地としての重みを背負っている。


建物の窓からは、取引や協力の機会を求める地域の人々が出入りしている様子が伺える。内部は賑やかでありながらも組織的で、地域の商人たちが情報を交換し、アイデアを出し合う場としての機能も果たしているようだ。


様々な商業行為に関しての厄介事なども、商人ギルドが間に入り、調停などを行っている。商人ギルドは街の活力と結束を象徴し、その存在は地域コミュニティにおける一大拠点として大切にされている。


入口には古びた木製の扉があり、その上に商人ギルドの象徴的なマークが控えめに刻まれていた。マークは街の発展と繁栄を象徴し、街人たちに誇りを与える存在だ。


商人ギルドの象徴的なマークは、地元の要素や価値観を反映させたシンボルである。円形の中に描かれたのは、街を流れる川と周囲を囲む山々である。川は地域の豊かな水源としての重要性を示し、山々は地元の豊かな自然を象徴している。その中央には交差する2本の道が描かれ、これは人々が互いに交流し、繋がり合うことを表している。また、その周囲を取り囲むように配置された小さな星は、地域の協力と結束を象徴している。全体的にシンプルでありながら、地元のアイデンティティや共通の価値観を代表する象徴として、商人ギルドのマークは地域の人々に親しまれ、尊重されている。



私は最初に商人ギルドを訪れた時に、受付にいたお爺さんから詳しく聞かされたので、すでに記憶に深く刻まれた。


何度か目になる、商人ギルドの建物に入った。ギー、ドアの音が響きゴクリと喉が鳴った。


早朝にもかかわらず、商人ギルドの建物には多くの人々が行き交い、人々はそこかしこで商談を行い、人で一杯であった。正面にはカウンターがあり、受付嬢たちが事務作業に勤しんでいる。


私は、カウンターで事務作業に勤しんでいる一人の受付嬢の元に近付き、和かに挨拶をした。


「おはようございます」


「おはようございます。本商人ギルドへようこうそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「こちらで『隷属リング』の取り扱いはありますでしょうか?」


「はい、ございますが・・・」


先ほどまで笑顔で対応していた女性の顔が一瞬だけ曇ったが、すぐにビジネスライクな能面な笑顔に戻った。


「申し訳ございませんが、そちらの商品は奴隷商人、資格保持の方、もしくは貴族様にしかお売りできない規則になっております。何か身分証のようなものはお持ちですか?」


「このネックレスで買えると思うけど、どうかしら?」


「こちらのお品物ですね。こちらで確認させていただきます。しばらくお待ち下さい」


そう言って受付嬢はまじまじと私のネックレスを見た。


「こ、これは・・・まさかヒヒイロノカネではないですか?貴族様でしか持つ事の許されない素材。しかも精巧な趣向が施されていますね。素晴らしい・・・し、失礼しました。これ程の品物に出会うことは滅多にありませんので。しかも・・・何か書かれていますね。えぇと・・・、『ロア・フォルトン子爵に捧ぐ』ですね。貴女様はフォルトン子爵家の方でしょうか?」


「はい、私はロア・フォルトン。フォルトン子爵家の七女。それを証明するものはないけど、このネックレスを持っているので、その証明にならないかしら」


「承知いたしました。こちらのお品物で証明とさせていただきます。お求めの品は『隷属リング』でよろしかったでしょうか?」


これほどの物でしたら、金貨5枚ほどでしょうか。しかも精巧なデザインが施されておられますね。これをお売りになるということでよろしいでしょうか?」


「はい、それでお願いします」


「承知いたしました。ご説明は必要でしょうか?」


「はい、私も分かっているとは思いますが念の為に聞いておいてもいいかしら?」


「はい、承知いたしました。それでは商品をお見せしながらご説明いたします」


そう言って受付の女性は別室へとロアを案内した。


「少々お待ちください」


しばらく1人で部屋に待たされた。


(大丈夫。大丈夫。大丈夫。絶対に上手くいくわ。こんなところで立ち止まっている場合じゃないの。必ずフォルトン家を破滅に追い込むわ。この力で。その為にはどうしてもレオ様のお力添えが必要)


私は手を強く握りしめて受付嬢が戻ってくるのを待った。


ドアが開き、筋肉隆々の私の身長の3倍はあろうかという大男が受付嬢を連れ立って入ってきた。


「あんたか、隷属リングを欲しているという貴族様というのは」


私は椅子から立ち、その大男と相対した。


「はい、その通りです。私がその者です」


「この嬢ちゃんか。なるほどな。俺はここのギルドの管理をしている、ザイアスっていう者だ。何が目的で隷属リングを所望する?」


「それに答える必要はあるのですか?」


「まあな。規則だからな。誰でも彼でも渡して良いっていう規則じゃないんだよ。決めたのは俺だがな。俺なりのギルド内ルールみたいなものだ」


「そうですか。分かりました。ギルド長の許可がないと購入が無理と言うのであれば話をせざるを得ないですね。私はロア・フォルトン。フォルトン子爵家第7女。現在、フォルトン子爵家が統治している、城塞都市ルーガリアが無数の魔物の襲来を受けております。私はそこへ早急に帰館する必要があるのですが、冒険者か傭兵の方々を頼むつもりです。その際に何人かは奴隷として連れて行くつもりなのです」


ザイアスはじっと私の眼を見て話を聞いていた。


何秒かの沈黙があった。


私の背筋に嫌な汗がにじみ出るような感覚に襲われた。


ザイアスはおもむろに口を開いた。


「まぁ貴族様のご事情だ。俺の分からない所のこともあるんだろう。見たところ平民の恰好をして何を貴族様気取りしているとち狂った奴かと思っただけさ。まぁ正気の貴族様の様だから大丈夫だな。おい、このご令嬢に隷属リングを」


「承知いたしました」






【レオ視点】


トントン


俺はロアのいる部屋に帰ってきた。


なかなか俺の仲間達が俺の感知にかからないので、流石に心配になってくる。大猿がいない猿の群れだ。あいつらが対処できないはずがない。逃げ切っているのは確信しているが、まさかな・・・


「どうぞ」


部屋の中から応答の声が聞こえてきた。


俺は部屋の中を魔力感知しているので、魔力を発するものがいないのは確認している。


俺は静かにドアを開けた。


そこには椅子に座るロアがいた。


「今日はどこかに散歩でも行っていたのか?」


「はい、商人ギルドに行ってまいりました」


「そうか。なんでそんなところへ?」


「実は今後の生活に関して少し相談があるのですが、レオ様、座っていただいてもよろしいでしょうか?」


俺は静かに近くの椅子を掴み座った。


俺の隣にロアはすぅと近付いて座った。そして、俺の手を取って話し始めた。


その瞬間俺の頭の中で「カチッ」と音がしたような気がした。


「ロア?」


「レオ様、私の覚悟をお伝えしたいのです。今この場において、私の隷属リングの契約が完了いたしました」


「?」


「私はこれよりレオ様の奴隷となりました」


「ロア、一体何を言っている?」


そう言うとロアは自分の首辺りにあるチョーカーのような首飾りを俺に見せた。


「これは隷属リングと言われる魔道具です。本日商人ギルドで購入してまいりました。使い方は非常に簡単です。奴隷にしたい人間にこのリングを装着させて、主人となる人が触れれば、契約完了となります。私はレオ様がこの部屋に入られる前にこのリングを装着して、待っていました。あなたの命令に背いた時には、このリングが私の首に強烈な圧迫を与えて、窒息させます」


「はぁ・・・ロア・・・なんでこんなバカな真似を・・・」


「レオ様に私の覚悟をお伝えしたく、ここまでさせていただきました」


「俺のような奴を信じていいのか?自分で言うのもなんだが、胡散臭い奴だと思うぞ」


「胡散臭い人は、自分を胡散臭いとは言わないものです。ここまで私の為に尽くしていただいている方を信用しないはずがありません。むしろ、私は何をすればレオ様の信用を勝ち得るかを考えてまいりました。それがこの結果です」


「じゃあ、ロアは俺の奴隷だろ?じゃあ扱うかは俺次第という訳だ。では、ロアの隷属化は俺には必要ない。解除だ」


そう言って、俺はリングの解除を指示した。


「申し訳ありませんが、このリングを解除する為には、その解除用の魔道具が存在しており、奴隷の主人でさえも解除ができなくなっております」


「欠陥魔道具だろ」


「いいえ。私にとっては都合がいいのです。私はあなたに完全に服従です。ここで命果ててもいい覚悟はできています。私の願いを聞き入れて下さい。どうか、私にセリカ様にお会いさせて下さい。決してご迷惑をおかけしないことをお約束いたします」


彼女の真摯な眼差しが、俺を貫いた。


俺もどちらかと言えば、彼女を助けたいと思っていた側だ。ここまでの覚悟があるのか。見誤っていたな。


俺は徐ろに立ち上がり、「じっと座っていろ」とロアに指示した。ロアは指示通りじっとしていたが、俺は彼女の両肩を掴み、立ち上がらせた。


「き、ぎゃああぁあぁぁぁぁぁぁ」


彼女の首のリングが光り、強烈な耳を劈くような音が発生した。リンクがロアの首を絞めていくのが分かる。本物だ。


「止まれ」


リングの光は無くなり、音も鳴り止んだ。


ロアはその場で四つん這いになり、咳き込んでいた。


「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!こ、これで信じていただけましたか・・・?」


「これほどとは・・・」


俺はあまりに酷いことをしたと、自分の軽率な行動に青ざめた。そして今後このようなことは一切しないと心に密かに誓った。


「ご、ごめん・・・。まさかこれほどの効果があるとは」


「もうこれからはレオ様の命令は絶対となります。私の髪の毛一本までも、レオ様の所有物となりました。これで私のことを信用していただきたいのです。私はセリカ様も、レオ様も誰をも傷つけるつもりも、裏切るつもりもありません。むしろできません。是非、私をセリカ様に会わせて下さい!!!」


俺は完全に呆気に取られた。これほどの決意をした人がこの世の中にいるのか、と。俺や俺の仲間も自分たちの好きなことをすればいいとは言われているが、ここまで自分の見出した問題に、全生命をかけて死をも覚悟して臨む姿勢に畏敬の念さえ覚える。


彼女はしっかと、俺を見つめていた。一切の俠雑物もない、澄み切った眼であった。


彼女の先には後悔して仕切れないような血みどろの道が待っている。


それを俺や他人がどうこう言う問題でもない。無意味だとは思わない。しかし、大きな意味があるとも言えない。それを判断するのは俺ではなく、彼女自身。


どう冷静に考えても、俺にとって大切なのは、俺と仲間の命。それが確保されているのであれば、冷徹に考えても大丈夫だろう。


そう結論付けて、俺は「ふぅうう」と長い息を吐き出した。


「ロア、分かった。しかし、セリカじいには会わせない」


「ど、どうか!!!」


「いや、じいに会わせる必要はないということだ。ロアの願いは叶えてやる」


「どういう意味ですか?」


「これから俺の言う内容は、絶対に秘密だ。もし他人に口にすることがあれば、殺す。分かったな」


何故かロアは笑顔になって応えてきた。

「はい!承知いたしました!」


「よし。じゃあ俺がロアに教えてやるよ。魔力の使い方を」


「え・・・。そ、それはどういう・・・?」


「俺は大魔導師セリカの弟子だ。孤児として拾われ、この年まで森の中で仲間と共に生きてきた」


「ま、まさか、そんなことが・・・」


「あぁ、そのまさかだな。じいが俺たちに魔力の使い方を教えてくれた。今の俺であれば、ランクDぐらいの力があると思う。ここら辺りの魔物ぐらいであれば簡単に屠れる力はある」


「す、凄い・・・」


「別に自分の自慢をするつもりはない。世の中には自分の力ではどうしようもない敵もいるからな。現に大猿の一撃で撃沈だ。城壁の外で自分の力を誇れるほどの自信を持てるほど、俺は強い人間じゃあない。けども、ロアに魔力の使い方を教えて、その子爵を潰せる力は付けさせてやる事は可能だと思う。しかも、ロア、お前の魔力量は圧倒的に多い」


「まさか、レオ様。レオ様が何かをされて、私は魔力が使えるように?」


「その通りだ。じいによると、俺は魔力操作に長けているらしい。そのおかげて魔回復が使えるようになった。魔回復は逆に触れる生物の体内を破壊できる力と言い換えることもできる。使い続けていると生物の体内を自由にできることが分かったんだ。これほど凶悪な魔力操作もないと思ったよ。背筋が凍る」


「私もその力を教えていただけませんか?」


「やれるだけやろう。魔力は適性がないと、できないものはできない、と言われている」


「承知いたしました」


「じゃあ最初は魔力解放からな」


そう言って、俺はロアの両肩に手で掴んだ。


「レオ様!!??」


ロアの体が強張っているような感じだったが、それは無視して俺はゆっくりと魔力をロアの魔核に迫った。


「あああぁぁぁん!!」


ロアが声を荒げながら崩れそうになる。しかし俺は肩を掴んでいるので、ロアは膝から崩れることは無かった。


俺の魔力は彼女の魔核の「フタ」を開けるように刺激して、魔核から魔力が溢れるようになった。


「あああぁぁぁあぁん!えっ!?こ・・・これは・・・凄いです!力が溢れる!!」


「これが魔力解放だ。この魔力を垂れ流しにせずに身体のみに留めるように魔力の流れをコントロールすれば、長時間魔力を使うことができるだろう。今の俺がフタを開けた感覚を忘れないことだ。そうすれば、ロアは自分で魔力解放をすることができる。最初慣れない感覚だから戸惑うだろうけどな」


「魔力がどんどん溢れるように出てきますが、これは大丈なのでしょうか?」


「正直にいうとあまり宜しくない。魔力はそのうち切れるからな」


「切れたらどうなるのですか?」


「それは前もロアは経験したと思うが?気を失って何日間は寝込むな」


「えっ!!??じ、じゃあこの魔力の流れを止めないと私はまた・・・」


「そうだ。気を失う。けどもそれはそれでいいんだ」


「どうしてですか?」


「使い切れば使い切るほど、魔力量は増えていく。じい曰くだが20歳までは、魔力が増え続けていくようだ。だから今は使い続けていくべきなんだ。俺たちも毎日使い切っているよ」


「け、けども、レオ様は何日まで寝込むことはないと思いますが?」


「勝手にストップするよ。魔力量がゼロになると魔力解放を自動でストップする。それ以上に魔力を出そうとすると、代わりに生命力が使われるんだ。そうすれば何日間も寝込む羽目になる。魔力量の回復に関しては、夜寝れば魔力は回復している。前の時は、ロアは魔力量をゼロにしても、更に魔力を出そうとして、生命力を代わりに使ってしまったんだ。生命維持のための生命力を使い切って、身体がそれに耐えられなかったんだ」


「そ、そうなのね。それでもし生命力を使い切ったらどうなっていたのですか?」


「死んでた」


「!!??」


「じゃ、じゃあ、私はあの時・・・」


「おそらく、言いたいことはわかる。そうだ。死ぬ寸前だったと思う。良かったよ。生命力の放出が止まって。おそらくロアの本能が死ぬ手前で止めたんだろう」


「そ、そうなのですね・・・ちなみに勝手に生命力が使われることは無いんですか!?」


「その心配はない。魔力が無くなれば基本はそれ以上の力は出なくなる。それ以上に力を出そうと意識すれば魔力の代わりに生命力が燃やせるというだけの話で、普通は意識せずとも止まるよ」


私はほっとした。


そしてこの日より私の魔力訓練の日々がスタートしたのでした。

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