第20話 ロア・フォルトン5
【レオ視点】
「き、貴様・・・何者だ?何故知っている?絶対に外には漏れない、極秘情報のはずだ・・・。貴様、誰だ・・・?」
「俺は別にあんたたちの事情に入り込むつもりも何もないが、こんな小さな女の子に呪いをかけて、人生めちゃくちゃにするのは、あまりいい気はしないな」
「それを知っている君には興味は尽きないが、痛まない腹を探られるのを困る御方もおられる。ここでその芽は摘ませてもらいましょうか。不幸な出来事です。非常に不幸な出来事です」
「お前ら狂ってるぜ。知っているか?この子、魔力が使えると分かった瞬間、狂ったように泣き喚いてたよ。相当苦しい思いをしていたんだろうな。こっちもブチ切れ寸前なんだよ。お前、苦しまずに死ねると思うなよ」
「何をガキが粋がっているんだ!!調子に乗るな!!殺す!!!!」
そう言って、その兵士風の男が俺に襲い掛かってきた。獲物は手から肘先ぐらいの長さの短剣。携帯用に勝手が良く、殺傷能力もある形状から見るに、対人暗殺用武器だ。持つ手の部分辺りに魔石が埋め込まれている。魔道具だ。何の効果があるかは正確には分からないが、暗殺用武器であるなら、消音移動だったり、暗視機能だったり、麻痺効果だったりするのだろう。
しかも、こいつの魔道具・・・結構強いな。おそらく、ランクEぐらいある。ただの刺客ではない。タタン街の冒険者の中でも上位の方に位置するんじゃないだろうか。
【兵士視点】
(バカめ!俺は子爵私兵団のナンバー3だ。冒険者ランクもEまで上げてんだよ。この草原を単独で街から街へと移動できる戦闘能力を持ってんだ。お前のような子供なんぞ、軽く締め上げてやるぜ!こいつも奴隷落ちにしてやる!)
奴は少女を静かに地面に置いて、俺を正面から迎え撃つもりだ。
俺が短身のダガーを右手で持ち袈裟斬り気味に剣戟を放った。奴は1/3歩分だけ下がり紙一重でダガーの間合いの外側に体を動かして躱した。俺はダガーを振り切った後で返す勢いで逆袈裟斬りを更に一歩踏み込んで斬り込んだ。
しかし、その逆袈裟斬りの下を掻い潜り、俺の腹部に思い切り掌底を喰らわしてきた。
「グハ!!!」
一瞬、奴と目が合った。
俺は驚いた。こんなちいさなガキがこんな膂力で攻撃をしてくるとは!
俺は3メートル程後方へ飛ばされ、転げていった。
あまりの衝撃と驚きで俺の顔はよじれている。腹部には強烈な痛みが走った。俺は腹部を押さえ、捩らせて悶えた。
「ぐぞ・・・ぐ・・・ぐぞ・・・・き、ぎざま・・・くそっ・・・」
「もう終わりか。さぁ来いよ。その魔道具の効果は知らないが、全部叩き潰してやる」
俺は何とか立ち上がり、ダガーの切っ先を奴に向けて叫んだ。
「き、今日のところ、いったん引いてやる!つ、次に会う時はお前を殺す!首を洗って待っているんだな!」
「お前ふざけているのか?お前はここで終わるんだよ。俺が終わらせる」
しかし、俺は奴の言葉など聞き終わることなく、踵を返してタタン街に向かって一目散に走り出そうとした。
(ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!こんな奴を相手にしてたら命が100あっても足りない!)
【レオ視点】
「逃がすかよ」
俺は追いかけようと力を溜めて飛び出そうとした。その時、横で地面に横たわる少女が視界の端に映った。
(そうだった・・・。頭に血が昇って彼女の存在を忘れてた。このままあいつを追って、この子が他の魔物に襲われてでもしたら、ここまで守ってきた意味がない・・・)
襲ってきた兵士から視線を切り、少女の元まで走り寄った。振り返ると既にあの兵士は居なくなっていた。奴の魔道具から発する魔力も感じなくなっていた。
「逃げられたか・・・。この子を追いかけてくる奴らがいると思うと、厄介だな・・・」
とにかく、今から彼女を連れてタタン街に入るしかない。
そう決めるが早いか、俺は少女を両肩に担ぎ、再びゆっくりと歩き始めた。いったんタタン街に入って、他の仲間と合流する。そこでまた少女の今後について話をしたいな。魔力が使えるようになっているのだから、この少女もまた自分の子爵領へ帰りたいと思うのだろうか。いや、今までの仕打ちを考えるなら、距離を置いてタタン街に永住することを考えるか。また街に到着してから、相談していいだろう。
【兵士視点】
「はぁ!はあ!はぁ!はぁ!」
俺はあいつの視界から離脱するように、逃走を開始した。
「なんなんだ。あいつは・・・。あいつ、俺の動きを完璧に捉えてやがる。化け物か・・・。くそ!こっちはうまく、この隠密の魔道具ハイドを使えさえすれば、こんな奴は不意打ちで一撃なのに。奴がこちらを城壁外でロアを担いで歩いている段階で普通ではないとは思ったが、こいつは想像以上にヤバい・・・」
こっちに向かって来るような素振りを見せたが、あいつは横たわっているロアを見て、そちらの方に走り寄っていった。しかし、こちらを確実に見据えていた。
(まずい!まずい!まずい!コイツは人の形をした魔物だ!こんな奴と真面目に交戦したところで、こっちが殺される!なんとかあいつの視界から逃げなければ。逃げれば魔道具ハイドを発動させて、あいつから逃げられる!)
【レオ視点】
俺は今後の予定をつらつらと考えていると、後5分もすれば、街に入ろうとする位置まで来た。
ほっと一安心した所で、俺は急速に側面から接近してくる反応を感知した。
(なるほどな。さっきのヤツだな。姿が全く見えない。おそらく奴の魔道具の効果なんだろう。隠密型。しかし、お粗末な戦法だ。俺の索敵能力を見誤ったな。かすかに奴の魔道具の魔力を感知できる。極小の魔力量だが、俺からは見えすぎるぐらい見えているんだよ)
俺は気付かないフリをしながら自然を装い歩き続きた。
相手との接触は後10秒ほど。
9...8...7...6...5...4...3...2...1...
来た!!!
殺気が立ち込める方向へ視線だけを送る。
鬼の形相で、手持ちのダガーを一閃してくる。一撃で殺すつもりだ。俺の首筋を狙って奴の気配が伸びていく。
当たるインパクトの直前に俺は後ろに倒れ、一直線で首筋を狙うようにして迫ってくる気配を避けた。
「!!!??」
(こいつは正直凄い。目を凝らしてもほとんど見えない。気配がほとんど無い。視覚的には確かに薄らには見えるが、凝視しないとすぐに見逃してしまうぐらいの存在感だ。俺ぐらいの索敵能力のある奴でないとおそらく接近にも気付かないだろう。大した魔道具だ)
確かにこの力があればこの草原も一人で踏破することも可能になる。ただし、俺の様な索敵に特化した敵に合わない限りは、な。
俺は俺のちょうど真上を飛び進んでいく兵士に向かって、蹴りを放った。打撃は兵士の体に直撃し、横に吹き飛んでいった。痛みから回復する間を与えず、俺は少女を再び地面に置き、その兵士にすぐに駆け寄り、その体に触れた。
「な・・・なにを・・・」
痛みから回復するまでの数秒の間、俺はこいつの体に触れた。何をするのか見当がつかず、兵士の体は小刻みに震えていた。
「お前はここで死んでろ」
俺は魔力をその兵士の体内に浸透させ、内臓という内臓を破壊していった。
「ぐふっ!!!!」
体の穴という穴から血が吹き出した。
「き、ぎざば・・・、ば、ば・・・び・・・ぼ・・・」
兵士は何が起こったかも分からずその場で絶命した。もうそこに横たわるのは、生気の無いただの死骸でしかなかった。
「ふー、面倒な相手だったな」
結局この兵士が何の目的で、何をしようとしていたかは分からずじまいだが、このままタタン街に入って周囲を付きまとわれても困る。ここで片を付けざるを得なかったが、奴の目的ぐらいは聞き出したかったな。
少し後悔の念を胸に秘めて、こいつの持っていた魔道具を回収して俺は再び少女の元へ戻り、両肩に彼女を担いでタタン街への道を急いだ。
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