第17話 ロア・フォルトン2

一人残った部屋に、多く足音が近付いてきた。けたたましくドアが叩かれ、ドアが勢いよく開かれた。


十名程の兵士たちが流れ込んできて、一人椅子に佇むユリアを発見するのみだった。


「ユリア様、お子様達はどこにおられますか?」


「分からないわ。どこかに避難したかもしれません」


「そうですか。分かりました。奥様は今からご協力をお願いしたいとのアマンダ様からのご要望ですので、どうぞこちらへお越し下さい」


「承知いたしました」


その直後、屋敷からある女性の痛みに喘ぐ悲鳴と絶叫が響いた。かすかに聞こえる程度で、全ての声は魔物と格闘する喧騒に掻き消され、誰もそのことに気付く者はいなかった。





「探せ。まだ遠くには行けないはずだ」


正室アマンダに命じられ、ロアとトリスタンを探す為に組まれた捜索部隊は混乱する城塞都市ルーガリアの中を組まなく探していった。市民や冒険者、傭兵などが道に溢れ、その道を阻むのだが、捜索部隊は注意深く都市中を進んでいった。


(この様子だと都市の中にはいないかもしれないな。城壁外に出たか!?)


その結論付けた捜索部隊は、4部隊に分けて2人の子供の行方を追った。


ルーガリアは東西南北にそれぞれ城門がある。それぞれを使う可能性がある。それぞれに部隊を派遣して捕まえなければならない。


暗殺対象がどのような護衛兵に守られているかわからないが部隊を分けた場合、逆に返り討ちに遭う可能性もあるにはあるが、アマンダが子飼いにしている部隊だ。それぞれがランクEの力を持ち、兵士団では人目を置かれる存在である。


トリスタンとサマンサは6人の護衛兵に連れられながら、訳も分からず先を急いでいた。


「お母様は?」


「ユリア様はもうじき後からついて来られますので、ご心配無用でございます。今は皆様の安全確保を優先ください」


「いやーーー!!ママと一緒がいいー!」


「トリスタン様、申し訳ありません。この場所はあまりに死亡リスクが高過ぎます。退避いたしましょう」


「ママー!!!」


「トリスタン!お母さんは後から来るからいいの!頼むから静かにして!今がどれだけ危ない状況かわからないの?魔物が街を攻撃しているのよ!標的にされたらどうするの?!」


「ぐすん・・・マ・・、ママ・・・。ママがいいーーーー!!!!!」


「静かにしてーーー!!」


「ここにおられましたか。探しましたよ」


気付けば後ろに屋敷にいた兵士たちがいた。


平静を装い護衛兵たちがアマンダ子飼いの兵士たちに問い糺した。


「貴様ら、何用だ」


「何用?これはおかしな事を聞く。貴様らこそ、フォルトン家の御息女と御子息を連れ去り、どこへ行かれるのか?」


「御息女と御子息?何を今更。貴様らがこの方々を冷遇していたのは、周知の事実だろ!」


「冷遇?何を根拠にそんなことを。とにかく、貴様らが御二方を誘拐したとの通報を受けて、ここにいる。御二方をこちらに引き渡してもらおうか」


「我々はユリア様より御二方を安全な場所にお連れせよとの命により、ここにいる。貴様らにとやかく言われる筋合いはない。まずは、もう一度、その通報とやらの真偽を確認してから来るんだな」


「その必要はない。さぁ、サマンサ様、トリスタン様、お母様がお待ちです。どうぞこちらへ」


「え、ママが待っているの?」


「トリスタン、そんなわけないじゃない!お母さんが逃げろと言ったのよ!どうして屋敷に連れ戻す必要があるの?!あなた達もふざけたこと言わないで」


「け・・・けど、ママが・・・」


「そうです。ユリア様がトリスタン様とサマンサ様を探されておりました。早くお屋敷へ。外は危険ですので至急屋敷にお戻りください、との奥様よりのご指示でございます」


「お姉ちゃん!戻ろう!ママが待っているよ!」


「トリスタン様、お待ちください。この者達の言っていることは全て虚偽でございます!申し訳ありませんが、私共はこの都市から退避いたします。どうかご理解を」


「いやだ!いやだ!!僕はママと一緒にいる!」


「誘拐犯どもめ!フォルトン子爵ご令嬢、ご子息をどこに連れていく!!!」


突如大声でアマンダ子飼いの兵士たちが叫んだ。周囲の逃げ惑う人々は何事かと、少し立ち止まり、この2つの人の集まりが何をしているのかを少し興味深そうに、また奇異の眼で見た。


(まずいな・・・。ここで変に動けば、周囲からも邪魔が入る可能性がある。このままここから退散するにしても、どうすれば・・・)


その時、どこからか小さく細い針が飛んできた。一瞬、何かが煌めいた事を目端で気付いた護衛兵はそれが毒針であることを、トリスタンの首元に刺さり、倒れ込んだ様子に気付いて初めて攻撃されたことに気付いた。


「し、しまっ・・・」


その瞬間に子飼いの部隊から叫び声が放たれた。


「貴様達!!トリスタン様に何をした!!!この狼藉者たちを取り押さえろ!!」


「トリスターーン!!大丈夫!!??」

      

「お・・・、お姉ちゃん・・・い・・息ができな・・・」


「お願い、トリスタンを助けて!!」


「この針に、この色と臭い、間違いない。サラン草の毒です」


「サラン草?」


「はい、猛毒でこれに体内に入れば、呼吸困難の症状が起こり、数分で死ぬ猛毒です。まずい・・・、このままではトリスタン様は、確実に死ぬ」


「なんとかして!!」


「貴様ら、この毒を持っているということは必ず解毒剤も持っているはずだ。こんな猛毒だ。仕方ない・・・、トリスタン様はそちらに渡す。だから、治療をしてやってくれないか」


「貴様達が何を言っているか、全く分からないな。トリスタン様が死んだとすれば、それは貴様たちの保護中に起こったことだ。ならば、お前たちにその責任はあるのだ。お前たちがトリスタン様を殺した殺人者だ」


「き、貴様ら・・・、まさか・・・、それが目的で・・・」


「お前たちはここで連行する。大人しく拘束されろ」


護衛兵士は耳元で囁いた。

(お嬢様、こいつらはトリスタン様を殺し、お嬢様も殺し、全てを私たちの責任にするつもりです。もしくは、この魔物の襲撃の混乱に乗じて殺すつもりです)


(トリスタン・・・トリスタンは・・・)


(とにかく、ここを即時脱出しましょう)


「殺人の容疑でお前達を拘束する。逃げるなよ。お前達ごとき、拘束することなど造作も無いことよ。ここでお前達は・・・・死ね」


捜索部隊の兵士は2名おり、それぞれが獲物を取り出した。戦闘態勢になり双方、魔道具を装着した。


護衛兵の1人はロアに耳打ちした。

「逃げてください。この城門の先にあります街に行けば、トリスタン様も何とか治療ができるかもしれません早く、行ってください。私がここに残って足止めをします」


聞こえないはずの小さな声だったが、それに反応するように捜索兵士が言い放った。

「逃がしませんよ。あなたたちは全員ここで拘束させてもらう」


「俺たちを舐めるなよ。お前らはここで潰す」


「潰されるのはあなたたちの方です。あなたたちが保有する魔道具の魔力量は、たかだかランクG~F程度でしょう。私たちはランクEです。身の程を知りなさい」


「バカが。魔道具だけで戦闘能力が決まるか。お前たちを潰す!!」


護衛兵の1人、ドハは自身の持っている槍の魔道具を発動させた。ドハが持っていた魔道具には、軽量化する効果があり、重量自体は変わらないのだが、所持者が感じる重量はほとんどゼロとなるのだ。これにより素早い動きが可能となる。


ドハが捜索部隊に突っ込んだ。


他の脱出部隊は、ロアとトリスタンを連れてその場から逃れていった。

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