第15話 闘技祭2

そして1ヶ月が過ぎた。






「さぁ明日が祭りだな。楽しみだな」


俺は他の子供達とワクワクしながら、タタン街の一区画にある旅人用の宿舎に泊まり、他の子供達とキャッキャッと言いながら夜を過ごしていた。


タタン街はこの闘技祭の準備で、そこかしこに屋台が立ち並び、多くの商人や冒険者、傭兵が集っていた。貴族も来ており、街全体の盛り上がりが凄い。


ヘレーネは街人たちが噂している話を聞いて、皆に共有していた。

「色んな噂は飛び交っているけど、今の所、優勢は冒険者サンダールかな。彼が優勝するんじゃなかっていう評判が一番多いかなー」


俺は初めて聞く名前だったので、単純に聞き返した。

「どんな奴なんだ?」


ヘレーネは俺の反応にとても驚いた表情をした。

「えっ!!??あなた知らないの?サンダールよ。この街でランクDに一番近いと言われている、ランクEの冒険者じゃない!」


レオ「へぇ、そうなんだ。ランクDに近いランクE冒険者か。確かに強いな」


ヘレーネ「何でもエルフ族と人族とのハーフらしいの。スラっと高身長で、イケメンなのよ。凄いよね。格好良くて強いなんて反則よね」


レオ「へレーネはただイケメンだから良いんじゃないの?ははは」


ヘレーネ「イケメンは目の保養なのよ。おこちゃまにはまだ早い嗜みね」


レオ「あっそう。まぁ顔がどうだとか良いとして、強いのかよ?」


へレーネ「そうよ!ランクDに限りなく近いと言われている冒険者よ。例えれば、サンダールが襲ってくるのは、大猪が群れで襲ってくるようなものよ。私たちも大猪一体だけなら対処のしようがあるけども、群れで来られたら退避を選択せざるを得ないじゃない。それをいなせるぐらいの力を持っているのよ」


レオ「けど、それは魔道具を使った時の強さだろ?魔道具が無ければただの人じゃないのかな?」


ヘレーネ「まぁ、それはそうだけどね。それでも魔道具のみの力で彼の力を測れないのよ。サンダールは、チャクラという円形の不思議な武器を使っていて、確か見るものが止まって見えるぐらい、動体視力が良くなるらしいの。だから攻撃がほとんど当たらないの。けども、攻撃が当たらないというだけで、その身体強化のチャクラぐらいしか武器を使っていないから、戦闘技術は抜群にあるってことよ。レオでも苦戦するんじゃないかしら」


レオ「ランクDに近いねー。けども、その力も魔石の供給があってこそだよね。その魔石の供給をなくすぐらいの持久戦に持ち込んだら勝てるのかな?」


ヘレーネ「それがね、さすがソロでずっと活動しているだけあって、魔石のストックは切らしたことないんだって」


レオ「なるほどー、一回どんな戦いをしているか見ないと何とも言えないね。一度戦ってみたいなー」


ヘレーネ「まぁ、レオには敵わないと思うけど、私が戦ったら負けちゃうわね。あのイケメンに見られたら、私はすぐに降参しちゃから」


レオ「なんじゃそら。それは戦闘能力に関係ないじゃん。はははは!」


ヘレーネ「まぁ、もう少しあなたも大人になれば分かるのよ」


レオ「あぁ、そうですか」


ノア「他にも獣人族のダンダーク、傭兵ランクEの槍使いのスピノ、冒険者ランクEの剣士アキニ―、なんかも注目されているな」


レオ「獣人族か・・・。体力が人族よりも数段あるからな。他の獣人族は出場はしないのかな?」


ヘレーネ「分からないわ。この地域周辺では、獣人族自体が珍しいからね。ダンダークだけでも、この街唯一の獣人族だから、ダンダークが優勝するんじゃないか、っていう下馬評もあるわね」


レオ「これは絶対に見に行くべきだな。明日が楽しみだな。屋台も多く出るだろうからな。アリスの好きな砂糖餅も食べれるんじゃないかな?」


アリス「もう・・・。その単語を出すと、お腹が減ってくるのよ~。やめてよね」


レオ「ごめんごめん。失敗した。ははは」


ノア「まぁ、世の中の普通が知れる一番いいチャンスだ、明日は」


ヘレーネ「ちなみに、今回のイベントの大きな目玉は強力な魔道具が賞品として出るところらしいわ」


レオ「へぇー、どんな?」


ノア「火炎魔法を撃てる魔道具らしいぜ」


レオ「まじか?」


ノア「だろ?まぁ、この世の中で攻撃系の魔道具は稀少だからな。それが優勝品として出るんだから、出場しない冒険者や傭兵はいないだろうな」


アリス「私もほしいかな」


ヘレーネ「私もあったらいいな、とは思うかな」


ノア「まぁ、俺たちにはいらないだろうがな。そもそも、俺たちの実力がわかってしまうのが一番怖いし、それに今は魔道具の使い方を学ぶよりも自分たちの地力である魔力を増やすことに専念した方がいい」


ヘレーネ「そうね。ただ将来、火炎魔法が必要になった時、そういう機会があった時に、火炎魔法が出せる魔道具を持っていられたら、少しでも生存率は上がるんじゃないかなと思ったから、言ったのよ」


その話を聞いて、レオはふー、とため息をついて言った。

レオ「その意見も分かるには分かるが、俺なんかどの属性魔法も使えないポンコツだが、それでも自分の地力の魔力を増やしていけば、十分自分の生存確率は上げられると確信しているよ。紛い物の魔道具なんかに目移りしないで、自分の魔力量を増やしていけよ、ヘレーネ」


ヘレーネ「わ、わかっているわよ!そういう意見もあるってだけの話で、私がその意見を持っているとは言っていないわ」


レオ「じゃあいいけどな。まぁ、俺たちは既に魔法が使える力を持っているから、魔道具はあまり魅力的ではないのが本音だが、それでも世の中のスタンダードは知りたいよな」


アリス「そうだね。ランクDに近い、ランクEの力を見てみたいね」


ノア「俺らは準備はできているのか?向こうでの滞在費なんかも用意しておかないと、祭りに参加できねーぜ」


アリス「そうだね。下着に上着に靴に、諸々ね。もうみんなは出発してもいいのかな?」


レオ「もちろんさ。早く行こうぜ」


俺たちは、じいからは既に何か言われることもなく、1週間に1回は、生存確認で拠点に顔を出せぐらいしから言われず、好きにしているので、1週間後に帰ってくることを確認して拠点を出発した。


森を抜けると青空が広がっていた。広大な草原が太陽の光に照らされ、風に揺れる草の一面が眩しく輝いている。太陽の元、無限のように広がる草原は青々と茂り、その中には微風によるさりげない波紋が生まれ、草原がまるで一つの生命であるかのような、活力に満ちた場所に思えるのだ。青空に輝く太陽の光は、草原全体を明るく照らし、その輝きはまるでこの世界は平安の世のように思える。しかし、この草原には人間を簡単に殺すことのできる魔物が蠢いているのだが、この自然はそんな素振りは一切見せない。


草原の中では、多くの生命が息づいていた。小さな虫たちが草の間を慌ただしく行き来していた。花々は風に揺れ、鳥たちが木々の上でさえずりを奏でていた。川のそばでは、水鳥たちが優雅に泳いでおり、その様子はまさに自然の美を象徴であった。草原は豊かな生命で満ち溢れ、その美しさが見る者の心を魅了している。


俺たちは美しいこの壮大な風景を堪能しながら、その中を疾走した。太陽の光が遠い地平線まで照らし、風が俺たちの髪を撫でた。俺たちは笑顔を浮かべ、談笑しながら高速で走り続けた。


俺たちはまるで自然の一部として溶け込んでいるかのような感覚に陥っていた。俺たちの歓声や笑い声が風に乗り、草原全体を駆け巡っているようだった。自然が俺たちを包み込み、俺たちがその自然の王者であるかのような感覚だ。


少し進んでいると、ランクEのジャイアントアントが群れで現れた。体長が1メートル弱とあり、巨大な蟻であるジャイアントアントの顎や進むスピードはかなりのものであり、また群れで行動をするがために、脅威度は簡単に跳ね上がる。


しかし俺はヘレーネに目配せした。ヘレーネは小さく頷き、巨大な水球を何百と生成し、遠距離より何十匹あろうかというジャイアントアント達を攻撃し始めた。


近接戦で戦う頃には10匹程度にまで減らした。俺たちがジャイアントアントと戦うのは決して初めてではなく、奴らの弱点は自分の手の裏のようによくわかっている。土の中で過ごす魔物は、基本、水に弱い。猛攻撃を避けた魔物達に、俺たちは身体能力を強化した体で、そのままの勢いで体当たりした。倒れたところを体の節々の接合部分を俺たちは各々の方法で切断していく。一気に片をつけるのではなく、徐々に戦力を削っていくのが定石だ。


気付けば全てのジャイアントアントは半死半生となり、戦える状態には無かった。俺たちはそれぞれジャイアントアントの胸部を貫き、心臓部分から魔石を収集して止めを刺していった。かなりの量になるがせっかくの討伐だ、後でギルドで引き取ってもらえるから収集しない手はない。いつもの方法でサリカさんからのお使いと言ってお金と交換してもらえる。ランクEの魔物の魔石を100個ぐらいだから、だいたい金貨10枚ぐらいにはなるだろう。


俺だけが索敵専門とし、後の4人で収集活動に専念した。しばらくするとかなり遠くではあるが、巨大な魔力の起伏が感じられた。俺は皆に注意喚起した。


「おい、もしかしたら上位ランクの魔物が近付く可能性がある。ここから撤収しよう」


余ったジャイアントアントの死骸からは魔石を取り出すことはせず、放っておくことにした。俺たち5人は背中に背負った嚢に収集した分の魔石を入れて、俺たちはタタン街へと先を急いだ。


いくら俺たちがこの草原ではある程度は無双状態だとしても、どんな魔物に遭遇するかは正直分からない。先程のジャイアントアントも、もっと魔力を温存した戦いも有りではあったが、交戦中に別の魔物が参戦してきたら俺たちが死ぬ確率は上がる。どこまでも草原や森の魔物を過小評価せず、自分たちを過大評価しない。これがこの世界での生き残れる方法だ。見誤った者から消えていく。


俺たちもいくら大魔導師に鍛えられ、絶大な力を得たといえどもまだ7歳の子供。経験値不足は否めず、自分たちの生存を最優先し、一切の油断を排しての行動を取っている。


ある程度進んでいった。このペースでいけば、後1時間もすればタタン街に着くだろう。そんな中、ある魔力の衝突が感じられた。


レオ「まずいな。このまま進むと交戦中の何かにぶつかるな」


ノア「危うきには近寄らずだな。どっち方面だ?」


レオ「移動をしているな。段々と小さくなっていく。待て・・・。人だ」


アリス「冒険者かが追い込まれているの・・・」


フィン「大丈夫かな・・・」


ヘレーネ「正直助ける義務も義理もないわ。ここでは全て自己責任だしね。逆に私たちが殺されてしまう可能性もあるわね。助けを求める人を助ける方が危ない可能性もあるわ」


レオ「・・・。助けよう」


ヘレーネ「レオ・・・?どうして?」


レオ「見ると、たぶん逃げているのは子供だ。守っている他の取り巻きはいるが、その小さい子供を守っているな」


フィン「子供・・・。じゃあ助けよう」


アリス「そうね。子供は助けることにしているからね」


レオ「行こうか。正直間違っている可能性もある。近くで直接確認してみよう。もし大人たちだけであれば、我関せずで貫こう」


アリス「了解!行こう!私たちの進行方向にいるのよね?」


レオ「そうだ。このまま10分も走れば現場をぶつかる」


そう言って、俺たちは再び走り始めた。俺は疾走中も細かく事態の推移を探っていた。どんどん大きな魔力量の個体が無くなっていく。魔物に襲われているのだろう。しかし一方の多数いる魔物たちはかなりの量の魔力を有している。俺たち以上だ。そんな中に俺たちが飛び込んで行ったら殺されるだけだ。


段々と近付いていくと、他の4人も状況を把握してきた。


ノア「なるほど、襲いかかってくる魔物から、護衛兵たちが護衛対象を守っている、という絵面だな」


アリス「そうね。そんな所ね」


ヘレーネ「ねぇ、ヤバくない?結構強いよ、この魔物。私たちが束になって相手できる相手じゃないよ」


レオ「撤退するか?」


ヘレーネ「そうね・・・。一旦様子見かな」


レオ「そうだな。賛成だ。他は?」


アリス「様子見に賛成」

ノア「いいよ」

フィン「了解」


レオ「じゃあそうしよう」


近くに小高い丘があり、そこから状況が一望できた。


状況はハッキリ言って最悪だった。


5人ほどの護衛兵が、1人の小さな子供を守っている。どうやら貴族か何かなのだろうか、煌びやかな一見して高価な軽装の鎧を着ている。他の護衛の大人達も高貴そうな鎧に身を纏い、襲いかかる魔物達に応戦している。


護衛兵たちもかなりの力量だが、相手が悪い。


交戦中の魔物達は、あの大猿の一群だ。


なぜこんな場所にいるのか分からないが、普通なら森の奥にいるはずが、こんな草原のど真ん中にいるなんて、本当に何があるか分からないな、草原は。


ランクCの化け物。あの護衛兵の戦力なら、あと100人はいないと撃退はできない。


俺たちも、何度遭遇して命からガラ生き延びているか。


あの小さな子供を助けるなら、あの真っ只中に入らないといけない。


無理・・・、ではない。俺たちが決死の覚悟で介入すれば、あの子供ぐらいなら助けられるだろう。他の護衛兵は囮にして見殺しにするなら、だ。


レオ「最終は彼らの選択だ。行こうか。合図で全力での魔法攻撃を頼む」


「「「「了解」」」」


4人は丘の上で攻撃のタイミングを測り、俺は今も大猿の一群に追い立てられている一団に向かって走っていった。



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