第14話 闘技祭1

それから1年が経った。





ラダはその後タタン街へ送られ、その街の孤児院に引き取られた。うまく過ごしているようで、タタン街でも友人を多く作れて楽しい時間を過ごせている。


俺たちはその後も、狩りの日々に徹していた。毎日、俺たちはじいからは、魔力を使い切るように言われながら、かなり魔力量を上げることができ、制御能力も連携もかなり上達した。とうとう俺たちのチームで今は、あのランクEの大猪も討伐できる力をつけることができていた。


今ならあの奴隷ハンターの冒険者も軽くいなせるだろう。


最近になり俺たちの行動に変化が起こり始めていた。単独での行動を始めた子供たちが出てきたのだ。これはじいからの提案による、自立を促されている為だったりする。


一番の変化はノアだ。ノアは10歳となったので、単独でタタン街の冒険者ギルドで冒険者の登録ができるようになった。冒険者ランクHから活動をし始めている。それも、将来はタタン街のサマンサと一緒になりたいと思っている、と思う。


他の4人の俺とフィン、ヘレーネ、アリスはまだ7歳だったので、ギルドへの登録はまだ無理だった。


ヘレーネはタタン街でじいと一緒に商人ギルドに行く機会が多くなり、商人としての活動をし出していた。彼女は特に服のデザインや売買にとても興味があり、よく服の行商人と商売に関して意見を聞いていることがある。


俺とアリス、フィンはまだこれからどうするかは考えている。ヘレーネやノアのように何か強烈にこれがしたい、なんてことはまだ分かっていない。俺としては、将来冒険者にでもなって、街から街へ渡り、世界を旅をするような生活も面白いかな、とも思っている。その時は、アリスとフィンもチームとして組んでみたいと誘うのもいいかなぁ、とはぼんやりと思っていたりする。まだ2人には話をしていないが。


今日、俺たちはノア抜きで、4人で森の狩りをしていた。ノアは今日もタタン街に行き、冒険者稼業に勤しんでいる。まだ冒険者ランクHなのでできることは雑用のみだ。やれ、これをあそこに届けてくれ、とか、やれ、あれを修復してくれ、とか。あいつなら、直ぐにでも、ランクEになろうと思えばできるのだろうが、あまり目立ちすぎると困るので、5~6年間で1ランクを上げるようにじいからは助言されている。


俺たちは、ノア抜きでアリスとヘレーネを最大戦力として、森の中を進んでいった。


俺は、いつも通り索敵に徹しながら森の中の状況を細かく把握しながら前進した。


少し進むと、草むらの中を2メートルぐらいの体長のトカゲが地面をのそのそと動いていた。土トカゲだ。こいつはランクEの力を持ち、特徴は無数の土を空中に浮かべて土の弾丸を獲物に対して発射する。


俺は、静かに近づき木の茂みの中へと飛んでいった。ヘレーネは徐々に水を流していき、土トカゲの足元を濡らしていった。土トカゲからしたら、おそらく水たまりのある場所に入ったんだぐらいしか思っているだろう。何事もないかのように、ゆっくりと動き続けた。


そこで、一気にヘレーネは水を凍らせた。


ガキッ!!!


土トカゲは足元の水が突然凍り動けなくなった。ここで初めて攻撃されている事を土トカゲが感づき自分自身の周りに土壁を土魔法で生成し始めた。


アリスは真空斬を風魔法で起こし、土トカゲに飛ばした。


ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!


「ギャ―――――――!!!!」


土壁もろとも土トカゲを切り刻み、土トカゲの体の表面がどんどん切り刻まれていった。


土トカゲは、このままではやられると判断したのだろう、体から黄金の光を輝かせた。体内の魔力を最大限解放して、身体能力を大幅に向上させた。足と手を動かし、凍っている氷を壊し、力を溜めて目の前のアリスとヘレーネに突進しようとした。


ガン!!!!!!!


しかし、その行動の機先を制するように、上空から俺は土トカゲの背中に着地し、完全に土トカゲの背骨を叩き折った。

「キャ・・・キュ・・・・キャ・・・・」


土トカゲはあまりの衝撃と激痛で、呼吸ができない状況だった。俺は、この機会を逃さず、手刀に魔力を収斂し、土トカゲの折れた背骨の部分を狙って、胴体を真っ二つに叩き切った。





俺たちは土トカゲの死骸を持って、棲み処に戻っていった。この魔物の心臓部辺りにある魔石を取り出し、そして肉を洗い流して、木の枝に吊るして乾燥させた。その土トカゲの下には焚火を燃やして、火の煙で燻していった。これで美味い肉になっていき、また保存も利くようになる。


俺たちの実力で、大猪ぐらいのランクEの魔物であれば、俺たち一人でも打倒できるぐらいまで力をつけることができていた。魔力量も大幅に増大し、また魔力収斂も更に威力を増しており、今まで貫けなかった魔物たちの魔力解放で強化された体も貫けるようになった。これぐらいの力があれば、冒険者ランクではEかDぐらいだろうか。じいからは、7歳の年齢でここまでできるのは、もう既に人間を辞めているな、とよく笑いながら褒めてくれる。これで褒められているのかどうかは微妙だが。


俺は相変わらず属性魔法は使えないが、その代わり魔力収斂による身体能力の向上は誰よりも上手い。またそれに伴い回復魔法の精度が上がった。


もちろん、得手不得手の魔物もいるが勝率はかなり上がっている。




そんな日々を送りながら、俺たちは時には街に行き、時には森で狩りをしながら過ごしていた。


今日はノアとヘレーネがタタン街での仕事の休みを利用して帰ってくる日だ。ヘレーネはタタン街での服飾の仕事をしており、そこで売り子だったり、服を作ったりしている。それがとても楽しいんだとか。ノアは、冒険者の仕事をして、何でも屋として働いている。2人とも1カ月ぶりの帰還に、俺たちもとても嬉しく、ゆっくりと棲み処での懇談となった。ノアは、最近のタタン街の様子を語ってくれた。


「ノア、ヘレーネ、久しぶりだな。どうだ、タタン街での仕事は?」


ノアは頭を掻きながら答えた。

「大したことないさ。草取りして、ドブ浚いして、荷物を運搬したりして、時には城壁外へ行く冒険者の荷物持ちをやったりしたな。あ、城壁の監視塔での夜通しで見張りをしたな」


「いいな。簡単で楽そうだな」


「ははは。本当にそうだぜ。まだ俺のランクは最低のHだから、魔物を狩ってくるような仕事は受けられないんだ」


「そっかー。まぁしょうがないよな。ノアを最低ランクからスタートさせているっていうのは、本当にナンセンスだけど、金に目が眩む冒険者がいきなり魔物討伐がしたいと言ったら、即死亡だしね。そういう冒険者の保護する目的で、冒険者ギルドはランク制を作っているんだろうな」


「そうだと思う。レオ、お前よくそんなことが分かるな」


「分かるよ。どれだけ冒険者や傭兵の死体を見てきたことか」


「俺なら、ランクDくらいならいけるんだろうが、この歳の子供が魔物を狩りたいって言っていたら、頭がどこかおかしいと思われるからな。まぁ俺もすぐに金が必要なわけじゃないから地道に仕事をして、長い時間かけてランクを上げる準備をしていくよ」


「気長にいくしかないよな」


「ヘレーネはどうなんだ?」


ヘレーネは誇らしげに現在の仕事の充実さを語った。

「服は面白いよ。色んな種類の服があるし、みんな自分の個性を表現したいのよ。私たちが全員違うように、面白い様に人間は一人ひとり違うのよ。人間はね、自分らしさというのを表現したいものなのよ」


「はぁ・・・」


「まぁレオは、まだ自分のことを表現したいと思わないから、おこちゃまなのよ。まぁ、これから私のやっていることも理解できるようになるわ」


「ヘレーネのその上から目線が無かったら、優しくて可愛い女の子になるんだろうね」


「えっ!!??私が優しくて可愛い女の子っていうこと?」


何故かヘレーネは顔を赤くして俺を見ている。


「いや・・・、だから、上から目線がなけれ・・・」


「レオもやっと人を見る眼が出てきたのね。まぁ、また今度色々と教えてあげるわよ」


「頼んでない・・・」


ノアは森に残った3人の様子が知りたく話題を変えた。

「それで、お前らはどうなんだ?何かしたいは見つかったのか?」


アリスはあっけらかんとした様子で言った。

「私はまだこれから探す感じかなー。タタン街よりも大きな街に行けば、私のしたい事も見つかるかなー」


フィンはいつも通り無表情だった。

「考え中」


俺も色々と思案しているので、そのままの胸の内をノアに語った。

「俺は、まぁ、そうだなー、悩んではいるが、ノアみたいな冒険者も面白いかなー、とは思ってる。せっかくのこの力と知識なんだ。活かさないのは勿体無いだろう?世界を旅でもできたらなー、とは思うかな」


「レオらしいな。お前なら何をやってもうまくいく気がするぜ」


「へレーネとはタタン街で会ったりしてるのか?」


ノアとヘレーネはお互いに顔を見合わせて、「そういえば・・・」と言わんばかりに唸りながら声を出した。


「いや、ヘレーネとはほとんど会っていないな。時々俺が道を歩いている時に、街の中でヘレーネが荷物を運んでどこかにいくのを見かけたことがあるな。お前も見習いの仕事は大変だな」


「私もノアが何をしているのか全く分からないぐらい、街での接点がないわね。あ、そういえば、一回、あなたが猫を追いかけている所は見たかしら。あれも依頼だったの?」


「はははは。まぁな。逃げる猫を捕まえるのは、基本普通の人間には無理だ。俺も少し魔力を使ったな」


2人の会話を聞きながら、アリスは目をキラキラさせた。

「2人は凄いよ。もう自分の夢に向かって走り出しているんだからね。大したモノね」


「アリス。それは関係ないと思うぜ。誰が何をどのタイミングでしようとさ。自分のしたい事が見つかれば、早いも遅いもないぜ」


「へぇー、えらく達観しているのね。ノアのそういうところが大人なんだと思うよ」


俺もフィンも同意して、うんうんと頷いていた。

「そう思う」

「いや、実際ノアは大した奴だと思うよ」


ヘレーネは「あ!」と思い出しように声を上げた。

「そういえば!今度タタン街でお祭りがあるのよ!」


俺たちは興味津々で聞いた。

「どんな?」


「闘技祭だってさ。街の中の腕っぷしの強い奴らが集まって、腕を競うんだとか」


俺はじっとヘレーネを見て言ってみた

「ヘレーネは出るのか?」


「いやいや、私は出ないでしょ。どう考えたらそう思うの?」


ノアは冗談ぽく横から突っ込んできた。

「ヘレーネだったら優勝できるんじゃないのか?ははは」


ヘレーネは、肩をすぼめた。

「優勝は無理でも上位には食い込むと思うけど、そもそもそういう生き方はしないんじゃないの、私たちは」


ノアは少し笑った。

「それはそうだ。まぁ、俺も観戦だけのつもりだ」


「え?」

アリスは意外そうに声を上げた。「ノアはもう冒険者なんだから少しぐらいいいんじゃないの?」


「何を言っているんだ。当たり前だろ?俺が出たら、みんな仰天するよ。お前達も興味あるか?」


俺はワクワクして答えた。

「いや、普通にあるでしょ。面白そうじゃん!まぁ、参加はしないけど、世の中どんな人たちがいるかは興味があるね」


「どんな人たちが出るんだろうね?」


ヘレーネも街にいる中で、色んな人たちから闘技祭については話を聞いていたので、説明を補足した。

「タタン街には冒険者ギルドもあるし、傭兵ギルドもあるし、また商人ギルドも街の外から多くの猛者達を呼んだりしているから、本当に多くの猛者が来るわ。それに収穫祭を兼ねての祭りだから、貴族たちも来るらしいわ。世の中の普通を知る上では、ちょうど良いかもしれないね」


アリスは目を光らせながら聞いた。

「いいねー!いつにあるの?」


「1ヶ月後にあるらしいよ。タタン街の一番の話題はこれだから、みんな話をしているよ。それに街の入り口や、そこら中に立て看板で案内が書いてあるからね。まぁ読める人達は少ないけども」


その後もこれからはどうするんだとか、どんな見通しでいるんだとか、また最近のじいは何をしているんだとか、取り留めもない話に花を咲かせて、5人は久しぶりの再会を喜ぶのだった。


それから俺たちは、また5人一緒に狩りをする時間を過ごしていった。大猪や土トカゲ、大鷲などのランクEの魔物を狩り、ランクCの大猿の群れに遭遇した時は、それまで狩った魔物の肉や魔石など、全てを投げ出して逃げ切った。死にそうな目にも遭いながら、俺たちは森での強烈な生存競争の中で、自分たちの力を磨いていった。時には、じいと一緒にタタン街に行き日用品を買い求め、祭りに向けての機運が高まる街の雰囲気を楽しみにしながら、時間は自然と過ぎていった。


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