第13話 ラダの今後
【レオ視点】
拠点へと全員が無事に戻り、皆息も絶え絶えだった。
俺は全員いるのを確認して深いため息を付いて話を始めた。
「あの冒険者たちはやばかった」
ノアは、実際に俺が相対した冒険者に火球を打ち込んだが、軽く躱されたのを経験しているだけに、あの冒険者の実力はある程度把握していた。
「そうだな。まだこちちの誘拐を目的としていたからこそ、こちらも対応できたが、もし最初から全力でお互いを殺し合う場であったら勝負は分からないな」
「そうだな。いやー、本当に世界は広い。まだまだ強い奴らがごまんといる」
アリスはため息をついた。
「本当にそうだわ。それにまさか、奴隷が逃げているところに遭遇するなんてね。本当にレアなケースだったわね」
皆、地面に座り込み、沈黙した。自然と皆、同じ方向に視線を動かした。
そこには簡易な布の服に身を包んだ、少女が一人地面に横になって寝かされていた。
俺はひとまず少女の体に触れ怪我の状態を診て、魔回復を施していった。
「体の内部のダメージはないな。外傷は無数にあるが基本は疲労だろう。さぁ、これで治った。さて、この女の子をこれからどうするかだな」
ヘレーネは膝を抱えながら愚痴る様に言った。
「そうね。こちらで助けたはいいけど、ここに住まわせるのはちょっとね」
ノアはジッと少女を見ていた。
「じいに聞かないといけないな。たぶんじいなら『お前たちで面倒を見ろ』とか言ってくるような気がするが」
俺もじいの口真似をして言った。
「『お前たちの好きにしろ。ワシはもう面倒は見んぞ』なんて言うかもな~」
「「「「言えてる」」」」
「誰が何を言うのじゃ?」
「あ!じい!」
「ただいま。誰だい、そこで横になっている子は?」
「じい、実は・・・」
俺たちは今までの経緯を説明して、女の子を保護したことを伝えた。
「お前たちが遭遇した冒険者は奴隷ハンターである可能性が高いな。奴らのランクは高いぞ。よくぞ生き延びてきたな」
「確かにかなり強かったよ。勝てたのはラッキーだったかな」
「それで、お前たちはこの子をどうしたいんじゃ?」
「じいが許してくれるなら、ここで一緒に暮らしてもいいと思うけど」
「いや、もうここでの生活で、一人増やすのは無理じゃろう。お前たちも他の人間を構っている余裕はないじゃろうしな。先ほどの話でも出ていたが、お前たちの戦闘の経験値はまだまだ少ない。特に対人戦かのう。これからのお前たちの生活を考えても、ここの部分を鍛えたいと思っているが、そこに今から奴隷だった子供が参加するのは不可能じゃろう」
「じゃあ、どうしたらいいんだ?ここにいれないなら」
「そういうところもしっかりと考えないと、これからお前たちは無責任に人を助け、結局殺してしまうかもしれないのじゃ。おかしな話かもしれないが、この子供にとって、奴隷としての立場であっても生きていればまた良いこともあったかもしれないのじゃ。お前たちの行為は、そういう機会を奪うことにもなりえない。最後まで救うことができないのであれば、放っておくしかない場合もあるのじゃ」
「そ、そんな・・・」
「アリス。お前の心優しい所はいいが、それが将来仇になりえることをよく知っておきなさい。さて、それは置いておいて。この子をどうするかじゃが・・・」
「タタン街の孤児院は?」
「まぁ、妥当じゃろうな。そこで孤児院に引き取ってもらうのが一番じゃろう。親が死んだ子供などは世の中吐いて捨てる程いる。あの街は街全体で子育てをしているようなものじゃ。あそこの『マザー』には顔が利くからワシから話を通しておこう。それと、お前たちのことはこの女の子は分かっていないじゃろうから、ワシが救ったことにしておこう。それにお前たちは魔法は使わないように。発覚すると後が面倒じゃ」
「よかった~。このまま草原に戻すとかしたら、本当に私は辛かったわ」
「それは、俺も一緒さ。せっかく命懸けで助けたような子だ。匿えないから、さようならでは、俺も情けないよ」
「けども、人を助けたいと思っても、私たちでは救えない命もあるのかもしれないと思うと、今回の件は本当に考えさせられるわね」
俺たちは如何にこの世界が自分たちが思っている程、優しくもなく甘いものではないことを再確認した。自分たちが生きているのでさえ奇跡のようなもので、この世界で生き抜いていく厳しさを痛感した出来事となった。更に人を助ける為には戦闘能力の様な力も必要だが、それ以上に人とのつながりなども大事であることを実感した。
「う・・・ん・・・」
女の子が目を覚まし、周囲に5人の子供たちと1人の老人がいるのに気付いた。
「こ、ここは?」
「ここは森の中じゃ。お主は奴隷じゃの。よくここまで走り抜けたの」
「え・・・。な、なんで知っているの?」
「お主の腕を見ればわかるわい。番号が烙印されるじゃろ。お主が売り買いされ、管理されているのがわかるわい」
「これ・・・番号なのね・・・。え・・・、そういえば、私、連れ戻されそうになったのに、どうして・・・?あ、あなたたちは何者なの?」
「ワシがお主を助けたんじゃ。まぁ、ワシはこの森で生活をしている、世捨て人の様なものじゃ。この子らはワシが保護している子供たちじゃ」
「そ、そうなんですね・・・。あ・・・、私と一緒に逃げた子たちを知らないか?いや・・・、あ・・・、私が振り向いた時には・・・、大きな魔物に食べられて・・・、あ・・・あ・・・、みんな死んだ・・・」
思い出したかのように嗚咽し出したその子は、自分だけが助かった幸運と、自分しか助からなかった不幸を同時に感じながら、どうしようもない運命の不条理さに嗚咽した。
俺たちは彼女がひとしきり泣き、落ち着いた時を見計らって、声をかけた。
「大丈夫?」
「・・・」
「私たちも同じようなものだったのよ。じいが助けてくれなかったら、私たちも全員死んでいたわ。あなたも奴隷の生活から逃げる為に、命を賭して城壁から出たんじゃないかしら」
「・・・」
「一緒に逃げた仲間の子たちは可哀想だけど、あなただけでも生き延びたのは本当に奇跡と思うわ」
「・・・分かってる」
「そうね。分かっているわよね」
「・・・ありがとう・・・」
虚ろな目で、少女は何とか言葉を紡ぎ出した。そして、じいを見た。
「あなたが私の命を助けてくれたのね。本当にありがとう」
「礼には及ばん。さて、お主には名前はあるのかい?今までなんと呼ばれてきたんじゃ?」
「私の名前はラダ」
「そうか。ラダ、これからのお主のこれからについて伝えたい」
「うん」
「お主の逃げていた先を考えると、タタン街を目指していたと思うが、どうじゃ?」
「うん。そうだ」
「ふむ。そこまで逃げられれば、何とかなる計画はあったのかな?」
「いや、私たちには何もないわ。ただ必死で逃げただけ」
「まぁ、そうじゃな。分かっておったが、許してくれ。確認でも話はしておかねばならんのじゃ。そこでじゃが、タタン街の孤児院には、ワシの顔も利く者もおる。そこで暮らしてはどうじゃ?」
「いいの?そんなに親切にしてくれて」
「当たり前じゃ。ここまで助けたのじゃから、このまま草原にほったらかしにはできまい。お主の仲間の分まで生き抜くことが、お主の仲間の為にできる最大の弔いと思って頑張る事じゃな」
「あ・・・ありがとう・・・」
再び彼女の目に涙が光った。今までの奴隷仲間たちと過ごした日々が胸に去来し、死んでいった仲間を思い出し、自分はこれから生きていくことを決意したような表情だった。
ラダはボロボロの服にボサボサの髪の毛、そして泥で汚れた体で、煤汚れていた。助かるとの安堵感から、今までの緊張感が途切れたようで、その場で力尽きたように倒れ込んだ。
じいは素早くラダを抱き上げ苦しんでいる様子を見た。
「まずいな。かなり衰弱しておる。水を飲ませよう。食事もあったじゃろう。それを彼女にあげてやれ。このまま放っておけば本当に死ぬぞ。さぁ、お前たち、彼女を介抱しなさい」
「分かった!とにかく彼女に早く食事だ!」
じいは水魔法で、水球を浮かべてロアに渡した。ノアは焦りながら、食料を保存している洞窟へ走っていき、果物を持って戻ってきた。俺やフィン、アリスはそれぞれの果物を彼女が食べやすいように持っていたナイフで小さく切り刻み、彼女に渡していった。
彼女は少し驚いたように目を開いて、じいからもらった水を見たが、すぐに飲み始めた。そして、俺たちから渡された果物を少しずつ食べ始めた。少しずつ果物を食べては水を飲み、一息がつくまでは食事に専念した。俺たちは心配そうに見入った。
「た、助かった・・・生き返ったわ。本当にありがとう。あなたは魔導師なのね。魔法をそれほど巧みに使うと驚きだわ」
「そうじゃな。ここいらではそれなりに名の通っているセネカという魔導師じゃ」
「セネカさん。本当にありがとう。あなたは私の命の恩人。私は近くの街メラドールから逃げてきたわ。噂で別の街や街に逃げ込めたなら奴隷の立場から解放されると聞いたから、ここまで来たけど・・・。突然、冒険者が追ってきて鞭でやられた瞬間に気を失ったわ」
「ほぉ。なかなか冷静な分析じゃな。まぁ、数日はここでゆっくりするがよい。では、その岩の裏側に行きなさい。大きな穴があり、そこに温かい水を張っておいてやろう。体を清めよ。ヘレーネ、お前たちが着ている服で大きな物をラダに渡してやれ。アリス、お前はラダに湯浴みのできる場所に案内してやれ」
「了解よ」
「わかったわ」
2人はテキパキと言われたことをこなしていった。
手持無沙汰の男たちは、ぼぉと女の子たちの様子を見ているだけだった。
「お前たちは近くの食用の植物か果物を取ってこい。また寝床も用意してやれ。数日はここにいるからな」
「あ、そうか。もう出発するわけじゃないのか」
「まずは休息をしっかりと取り、ワシも一旦はタタン街に行って、マザーのカミラに話を通さんといかん」
「もし食料が足りないとかの理由でマザーが断るのなら、俺が定期的に持っていってやるよ」
ノアは神妙な顔をして、ラダに言った。
「ほぉ。ノアはえらい入れ込みようじゃな」
「奴隷の辛さは、俺も分かっているつもりだ。俺も元々は奴隷だったからな。もしこれからラダの生活状況が難しい状況があった場合は、俺がサポートしたいと思う」
「わかった。ラダの事はよく、お前たちで気にかけてやってもらいたいと思う。頼んだぞ」
「了解」
「分かったよ」
「大変だしな」
俺たちはじいの言葉を心に留めて、これからのラダの生活に思いを馳せた。
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