第12話 激突3
【ナーシャ視点】
「止まれ」
私はガキどもに追い付き、拘束しようと手を伸ばしたところで、一人のガキが反転し手を払った。その動きがあまりに速かった為、私は反応できず、無様に手が横に払われてしまった。
(速いな。しかも鋭い)
ジンジンと手に痛みを感じながら、私は奴隷を持っていない方のガキと正対した。もう一人のガキは奴隷のガキを担いでいて、もう一方の、私と正対しているガキと目配せをした。おそらく、私とやり合っている間に、もう一方は逃げようとしているのだろう。
「させない」
私は、目の前のガキを押しのけて、方向転換しようとしている、奴隷を抱えているガキを拘束しようとしたが、突然目の前のガキから突風が吹き出て、後方へと吹き飛ばされてしまった。
(なっ??!!)
空中で態勢を整えて、うまく着地ができたが、残念ながら奴隷には遠くへと運ばれてしまったようだ。視界には地平線まで分かる短剣シーカーと足跡が辿れる眼鏡ステップで、どこまでも追いかけることもできるので、今すぐの奴隷奪還は無理そうだが、後でハロルドと合流して後日追いかければいいか、と自分の中で折り合いをつけた。
「まぁ、今はお前を奴隷にすればいいか」
そう呟き、ナーシャは次のターゲットを目の前の不気味なガキに移した。
(私のスピードで追いかけられるから、魔道具の性能では、こちらが上なのだろう。しかし、先ほどの突風は一体?風を起こす魔道具か?面倒だな)
風魔法が使えるような魔法攻撃系の魔道具は貴重だ。ナーシャも探索系魔道具を持ってはいるが、魔法攻撃系の魔道具はあまり見たことが無い。魔法攻撃と身体能力向上を掛け合わせると、私にとって不利かもしれない。
しかし、こんなガキどもだ。戦闘経験や技術の差でどうとでもなる。
けども、もしこれ以上、この子供が魔道具を持っていなければの話だが。
(しかし気味が悪い。何なんだ一体こいつらは・・・?)
目元を布で隠し、眼の部分は空いているので、このガキの眼がこちらを睨みつけているのは見える。体も小さい為、それほど力があるようには見えないが、おそらく魔法攻撃主体なのだろう。私には飛び道具はない為、攻撃には接近するしかない。
それができるかどうかが、この戦闘のカギとなってくる。
(大丈夫だ。私は冷静にこの状況を分析できている。そして、こいつにあまり考える時間を与えるのはダメ)
とにかく先手必勝!
私は全速力で飛び出し、一直線でガキに向かって走り出した。今までの長距離を走るような速度ではなく、短距離で一気に勝負を決める態勢だ。左右にステップを踏みながら、風魔法を飛ばされたとしても当たりを散らすことで、ターゲットを絞りにくくして迫っていった。
目の前のガキは左右を見ながらこちらの動きを何とか捉えようとしているが、全く間に合っていない。
(獲った!!)
左に素早くステップを踏み、腹部を魔道具の魔力で固めた拳で殴打しようとした。
しかし、ガキは最後のステップを踏んで、私が攻撃態勢に入った瞬間に私と目が合った。
(こいつ、この攻撃を読んでいたのか!?)
こいつはサッと一歩後ろに引いて、ナーシャの攻撃を躱した。
(なっ?!)
私は驚いたがそのままの勢いで攻撃を続けた。予測外の起こることなどは戦闘においては日常茶飯事。決してガキだから見くびったりすることなく、私はガキの顔面に横蹴りを放った。しかし、その鋭い蹴りを冷静に見ていたガキは蹴りを掻い潜り、私の懐に入ってきた。
(まずい!)
焦って横殴りで拳打を放つがそれが到達する前に、ガキが発生させた圧縮された風の弾が私の胸部を強打した。
「ぐふ!」
私はあまりの強打に驚き、意識を手放しそうになった。
(くそ!意識を保たないと死ぬ・・・)
気付けば、自分がバランスを崩して、地面を転がっていた。その勢いのまま、もう一度態勢を整え、うつ伏せの状態だが、攻撃を受けられる態勢には戻った。
(やるな・・・)
そう思い、ガキの行方を追ったが視界の中にはいなかった。
(ど・・・どこだ!?)
一瞬陰ったと思ったが次の瞬間には、上空から落下してきたガキの膝蹴りを目視したことを最後の記憶として、私の意識が狩り取られた。
【アリス視点】
「ふー、危なかった」
私は目の前の冒険者が地面に倒れ昏倒している様子を見て、安堵のため息を付いた。
(正直、紙一重だったわね。相手はまだこちらの風魔法に慣れていなかったし、相手には攻撃方法が身体能力向上の魔道具しかなかった。こちらが、戦闘に慣れていないフリをして、相手を油断させられたし、また私との戦闘も腰を据えての戦闘というより、直ぐに制圧しようとしていたから攻撃が雑だった。また私を完全に舐めてかかってきてくれたから圧倒できたけど、もし完全にこちらとの戦闘を準備していたなら、やられていたかもしれない。本当に対人戦闘は、対魔物より難しいな・・・)
そう思い、私は冒険者が持っている魔道具を剥がしていった。顔に付けていた眼鏡は、先ほどの一撃で破壊されており、奴隷ハンターの顔は血みどろになっている。持っていた短剣と腕輪は魔道具なのだろうと思い、没収しておいた。
このまま放置しておけば、他の魔物に殺されて死んでいくだろうと思うが、さてこのまま放っておくほうがいいのかと若干は思案したが、遠くの方から魔力が近づいてくるのを感じた。
(この魔力は・・・レオ・・・。一人ね。逃げているように見えるわ)
レオがもう一人の冒険者を倒したのか蒔いたのか分からないから、次の動きを決めるのには逡巡をする。草原での判断ミスは死を意味する。しかも、私は今一人だ。レオと合流して次の動きを考えたいが、その後方からもしかしたら冒険者の相方が追いかけている可能性もある。
(まぁ、もし逃げてきているのなら、私が合流して返り討ちにしてもいいかな)
一旦は離脱を考えたが、レオの接近を感じてもう後少しもすれば合流できるので、待つこととした。
レオもこちらを感知していたのだろう、私の方へ向かって来た。
「よう」
「大丈夫だった?」
「走りながら話す」
「OK」
2人は猛スピードで森へと駆け抜けていった。
「俺が対応した冒険者はなかなかな奴だった。最初から全力だと勝負は分からなかったな。魔物の土竜をぶつけて振り切ってきた。そっちは大丈夫だったのか?」
「えぇ、大丈夫だったわ。もう一回戦えと言われたら嫌だけど、なんとか倒せたわ。あの女が使っていた魔道具はこちらで確保しておいたから、もう追ってくる心配はないと思う。レオの方の冒険者は、追ってきているのかしら?」
「たぶん大丈夫だ。かなりのダメージを与えていたから、もしかしたら土竜に殺されている可能性もあるかもしれないけどな」
「そう。ノアはどうしたの?」
「たぶん、既に森に帰っている。俺より先にあの場を離脱したから、森に帰っていると思うよ」
私とレオは危なげなく森に帰り、自分たちのアジトへと帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます