第11話 激突2
【ハロルド視点】
「ハハハハハハハハハ!!!楽な仕事だ。こんなガキを捕まえるのに金貨1枚だからな。さっさと連れて帰ろうぜ」
「同感」
「さぁて、奪還したことだから、帰る・・・・。ん?」
目の前に奇妙なガキどもがいた。どこからともなく現れてきたので、俺はナーシャの方を見た。
ナーシャも同様に驚いた表情をしていた。
(ナーシャのシーカーで接近が分からなかった?そんなバカな・・・)
「何だ、お前らは?変なマスクをしたガキ共か。ここは遊び場じゃないぞ。早く帰りな」
俺は若干、引き気味で虚勢を張りながら小さなガキどもを脅した。
「チリンチリンチリン」
俺が持っている魔力探索鈴が鳴った。つまり、
魔力持ち
「なんだ貴様らは?」
ガキが1人、俺たちの前に歩いてきた。
(何者だ?)
「こんにちは。皆さんは冒険者の方々ですか?」
言葉を発した。ゴブリンなんかの人型魔物ではない。人間のようだ。
やけに馴れ馴れしく話しかけてくる。こんな草原で話しかけてくるガキなんて、不気味でしかない。声の質感的には男か。年も10歳にも満たないだろう。本当に何者だ?
「あぁ、俺たちは冒険者だ。脱走奴隷を奪還する為にここに来ている。そこの倒れている奴隷は俺たちのだ。分かったらさっさとここから消えな」
「そうですか。しかし申し訳ないんですが、子供はお互い子供同士を守り合う事が大切ではないかと思っておりまして、このような場所で子供が奴隷としても逃げているのであれば、助けてあげたいと思っています。僕の方でこの奴隷をいただけませんかね?」
「は?あり得ないな。俺たちはこれで生計を立てているんだ。評判もあるしな。無理な相談だ」
「そうですか。生計とおっしゃいましたが、いくらですか?お金で解決していただけるなら、お金をお渡ししますが?」
「金か・・・こいつには金貨1枚の値が付いている。払えるか?」
「はい、ではこちらを」
そのガキは事も無げに金貨0枚をポケットから取り出して、こちらに投げてきた。
俺はそれをキャッチして、確かに金貨1枚と認識した。
「では、いいですか?」
「いや、良くないな。俺たちの評判もあるんだ。失敗した評判をカバーするのに、あと金貨10枚は必要だ」
「では交渉は決裂という事で」
そう言うが早いか、どこからか潜んでいたのだろう、2人の他のガキが現れて倒れている奴隷を確保しようとしている。
「おい、それに触ると俺たちは実力行使をするんだが、大丈夫か?」
「お構いなく」
「ナーシャ!!」
コクンと頷いたナーシャは、一足飛びで奴隷の所まで辿り着いたのだが、それより早く2人のガキ共が奴隷の元に行き、奴隷の体を掴んで逃げていった。
「早っ!?」
ナーシャは驚愕の表情をして、2人とその奴隷を追いかけた。
「チリンチリン」
ナーシャの腰に付けていた魔力探索の鈴が鳴った。自分以外で、一定量の魔力が発動されると、反応する魔道具だ。この魔道具が反応するということは、このガキどもは魔力を使うか、もしくは魔道具を発動させていることになる。
(あれほどの速度で動くのだ。確かによく見ると、このガキどもは腕輪を付けている。どうやら俺たちと同じように魔道具使いだろう)
俺の魔力探索鈴も音を鳴らしているから、こいつらが魔力を使ったのだろう。
「なるほどな。こんな草原の真ん中にいるんだ。魔道具ぐらいは持っていることは簡単に推測できる。それでお前1人で俺の相手をするのか?」
「いえ、戦闘になるのは勘弁してもらいたいですね。僕はこれで。金貨1枚で僕を逃がしてくれませんか?」
「ほざけ!!」
逃げようとする目の前のガキを背中を追おうすると、すぐに横から火の玉が飛んできた。
「ぐっ!?」
俺は、すんでの所で避けたが、その為に一瞬スピードが減速した。その隙に目の前のガキは更に加速して離脱しようとしている。火の玉が来た方向を見ると、その先には違う小さい影が遠くへ去っていくのが視認できる。
「くそっ!!舐めやがって!」
一瞬どちらを追うかを悩んだが、目の前のガキの方がまだ距離的に近い。とにかく一人でも捕まえれば他の仲間たちも一網打尽だ。まだこちらに近そうだった、最初のガキの方を選んだ。
(馬鹿が。英雄ごっこでもしているのか。自分たちの命をかけてやる遊びじゃないぜ!!!)
身体能力を最大限に引き上げ、交渉をしてきたガキを追いかけた。そのガキはそれ程速いスピードではない為、すぐに俺の鞭チョークの間合いに入った。
(容赦しねぇぜ!!今から地獄を見せてやる!!)
触れればそれで行動不能にはなる魔道具だ。怒りで血管が切れんのかと思うくらい、俺は思い切り叩き込んだ。
バシッ!!!!!
ハロルドのチョークは間違いなく逃げるガキの膝辺りに直撃した
はずだった。
しかし、その子供は全く動きを止めず走り続けている。
(ん?魔力を込め忘れたか?)
その後、もう一度チョークで打ちつけたが、あのガキは全く動きを止める様子はない。
(こ、こいつ!?まさか、状態異常をキャンセルする魔道具を持っているのか!?だから、こいつが最初の交渉人として現れていたのか!?小賢しい奴らだ!)
チョークで叩きつけて、ある程度のダメージは通っているはずだが、走るスピードも変わらない。
だったら・・・
直接潰すしかないな。
【レオ視点】
俺はある程度こいつと距離を保つようにして、走り続けた。
鞭が当たった瞬間、強烈な痛みを足に感じた。しかも、当たった瞬間に呼吸が止まるという訳のわからない状態に陥った。
(これはまさか魔道具の効果か?!)
驚きながらも瞬間的に魔力収斂で足と肺を回復し、何とかそれぞれの機能を正常に戻した。しかもこの追跡者は、何度も執拗に魔道具の鞭で攻撃をしてくる。何度も何度も鞭で打撃をしてくる。避けようと思えば避けられるが、あまり避け始めると俺の力を正確に測りかねないから、とにかく甘んじて攻撃を受け続けた。
当たるたびに、打ち付けた箇所が燃える痛みと肺機能の停止を感じられる。しかし、その度に魔力収斂で回復し痛みを治癒しているので正直問題はない。服が段々とボロボロになっていくのが若干残念だが。
痺れを切らせて、とうとう直接的な攻撃に切り替えたようだ。近付いていくる足音がする。
ガン!!
後頭部を強打され、地面を転がされた。
俺はすぐに魔力収斂をし、ダメージはゼロにした。
素早く態勢を整えて、俺はこの冒険者と相対することにした。
「痛いな~」
「いや、おかしいだろ。今の一撃を喰らって、なんでお前ピンピンしてんだよ。お前の魔道具か」
「知らないよ。あなたが手加減でもしてくれているんじゃないの?」
「気味の悪い奴だ」
【ハロルド視点】
「痛いな~」
痛いな~、じゃないんだよ。身体能力向上の魔道具があっても普通なら気絶していいはずの攻撃だ。まだピンピンしているのは・・・、やはりあいつの腕輪。何か特殊な身体能力向上の魔道具だな。
「いや、おかしいだろ。今の一撃を喰らって、なんでお前ピンピンしてんだよ。お前の魔道具か」
「知らないよ。あなたが手加減でもしてくれているんじゃないの?」
「気味の悪い奴だ」
俺もそろそろこいつの茶番には飽き飽きしてきた。
「おいお前、魔道具使いか。あまり舐めた事をしていると、殺すぞ」
「やめて下さい。僕もあまり争いとかにはしたくないんで・・・、あぁ、もう大丈夫か。奴隷と一緒に逃げ切れたな」
何かよくわからないことをブツブツと言ってやがる。本当に気味の悪いガキだ。
「了解。いいぜ。掛かってきな。お前をぶっ殺してやるよ」
は?今なんて言った?
「おい、なんだと」
「だから、さっきからお前がやろうとしている事だ。俺を殺したいのか、拉致りたいのか知らないが、とっとと来いよ。やろうぜ、殺し合い」
「こいつーーーー!!!!」
こいつぐらいは確保しておかないと、今回のミッションでのこちらの収入はプラスマイナスゼロだ。かなりの魔石も、移動に使っているから、これぐらいのガキを奴隷用に獲得しておかないと、あの女奴隷を奪還したとしても、こちらの収入が厳しいからな。
「イライラする野郎だ。逃げないなら丁度いい」
そう俺は少し安堵して、鞭を振るいながらガキに向かって行った。
バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!
鞭が視認できる領域のはるかに上を行くスピードで、また不規則な軌跡を辿り、ガキに襲いかかるのだが・・・。
驚いたことに、このガキ。全てをいなすか避けるかしていやがる。見えているのか!?
こいつ、かなり強い。
俺は拳を強固に魔道具の力で固めあげ、鞭で攻撃している一瞬の間隙で、ガキに近接して腹部に拳打を放った。高速で打撃を放ったにも関わらず、ギリギリの所で、下に回避しやがった。
(バカめ!下に逃げたら足蹴りを食らわしてやるぜ!!)
蹴りを下から放ちガキの顔面を狙うも、そのまた下へと潜り逃げられる。
(くそ!小さい体をうまく使ってこちらの隙に入り込みやがる!)
ガキの背中辺りを、上部から鉄槌打ちで叩きつけてやるが、これも軌道を確実に予測しているのか、関知しているのか、紙一重で躱わされる。
その後も拳打、肘打ち、膝蹴り、足蹴りと暴風雨のように連続攻撃を打ち込んでも全て紙一重で躱されていく。
「チリンチリン」
(こいつの体捌きはどうなってるんだ?身体能力は魔道具で強化されているのはわかるが、こいつの動体視力は異常だぞ。くそ!早くナーシャに追い付かないといけないのに)
奴隷ハンターの一方的な攻撃は続いていった。
【レオ視点】
その嵐のような猛攻撃の中、俺は焦っていた。
(やばいな。大見え切ったのはいいが、避けるので精一杯だ。こっちは魔力解放で全開状態なのに、反撃をしようにも隙が全くない。避けた先にすぐに打撃が打ち込まれてくる。しかも、こいつ、まだ背中に背負っている自分の本来の獲物を使わないで攻撃を続けているぞ。まだ余力を残しているのに)
俺は一旦距離を取った。しかし、距離を取った瞬間に、こいつはとうとう背中の大剣に手を伸ばし、片手で軽々と振り回してきた。それを更に後ろに避けると次は鞭が飛んでくる。不規則な動きで飛んでくる鞭の間合いから外れようと、さらに後方に飛びのいた。
一瞬膠着状態になった。
とうとう本気になったようだ。だいたいこいつと俺の力は同程度な気がする。レベルも30前後、ランクFとEのどちらか。どうしたものか・・・。
その時
地中の方から小さな音がかすかに聞こえて来るのはわかった。
ドドドドド
こんな時に。土竜か。こんな奴と一緒には対応しきれないぞ。
ドドドドド
だんだんと音も近づいてくる。こいつらは習性で、地表にある魔力を感知して、その魔力のある生津物を襲ってくるのだ。
待てよ。
これは利用できるかもしれない。
俺はそう思い、俺は急きょ魔力隠蔽で魔力を体内から消し去った。一か八かの賭けだな。今攻撃されたら、かなりのダメージを喰らう。もしあまり大きなダメージであれば、死ぬ。
どうやら、あの冒険者も何かが近づいてきてるのに気づいたようだ。一気に俺と土竜を同時に仕留めようと思わず、一気に俺に向かって襲いかかってきたが・・・。
ドン!!!ドン!!!ドン!!!
遅かったな。
地中から突如として巨大な土竜が出現し、冒険者のみを襲いだした。こいつも驚きながらも、何故自分のみが襲われるのかに困惑している様子だ。
よし!思った通りだ。魔力の波動を感知して、土竜共は地表の獲物を襲い掛かるのだ。俺は一旦魔力を消し去ったから、俺には襲ってこない。
しかし、土竜共はなぜか視力は普通にあるのだ。地上にいる動くものを見れば襲い掛かってくる。土竜共が俺に気付く前に、決着だ!
「くそ!!お前ら、邪魔だーーー!!!」
そう叫び、冒険者は、大剣と鞭で周囲に群がる多くの巨大な土竜をなぎ倒していく。後ろから現れた土竜を横薙ぎで一閃。土竜は冒険者に噛みつく前に胴体が上下に分かれて、内臓が周囲に飛び散った。足元から巨大な口を開けて現れた土竜には剣を突き立てて鼻先を切り裂いた。少し遠めの土竜には鞭を放ち動きを止め、大剣で止めを刺している。
ピギャ――――――!!!!!
土竜たちの絶叫が辺りに木霊した。
土竜の対応に追われる冒険者に対して俺は一気に距離を詰めるように向かっていた。まさかこんなに土竜が襲い掛かっている間に、こちらが急接近してくると思ってはいないのだろう。奴は俺の動きに全くついてこれていない。俺は一気に冒険者の懐に潜り込めた。
千載一遇のチャンスだ!死ね!!
魔力収斂で拳に魔力を思い切り込めて冒険者の腹部に、思い切り下から魔力の塊を叩き込んだ。
ドン!!!!!!!!!!!
冒険者は大きな弧を描いて後方へと吹き飛んでいった。後方へ吹き飛ばされながらも、空中にいる間に、鞭を使い最後の一撃を俺に打ち込んできた。
バシッ!!!
俺はそれを瞬時に避けた。避けた鞭は地表を叩きつけ、小さな割れ目が後に残っていた。
こいつの力は並大抵じゃないな。
一瞬、俺の拳があいつの体に当たる瞬間に、俺と奴の目と目が合わさっていた。
こちらの攻撃に反応していた証拠だ。無数の土竜の急襲のおかげで得た、一瞬の隙だった。それでも奴は俺の攻撃に反応して、また反撃までしてきた。なんていう凄まじい戦闘能力だ。本来は、俺の一撃は体を貫くはずがあいつの体の防御が固すぎて、貫けなかった。地面を転がっていたが、何とか上体だけを起き上がりこちらを向いている。
こわっ。
相当の衝撃が体を貫いているはずなのに、タフな奴だ。
周囲からは土竜がぞくぞくと出現してきている。交戦はもう有り得ない。そう判断して、俺は脇目もふらずその場から逃亡した。
「ま、まち、まちやがれーーーー!!!!!」
遥か後方から叫び声が聞こえてくるが、俺はそれを無視してただひたすらに森に向かって走り続けたのだった。
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