第10話 激突1

俺たちは今日も狩りに行くことにしていた。


じいからよく言われるのは、今は狩りをする中で経験値を積むことが最も大切だ、ということだ。俺たちもじいの言うことには同感だ。


今は、自分たちのレベルを上げることで将来の生存率を大幅に上げることができる。


世の中にはレベルというものが存在する。レベルはその生物の総合的な『戦闘能力』を示す数値だ。


『戦闘能力』は肉体的な力、精神的な力、魔力量、技能の洗練さ、などを総合的に換算され、レベルという数値に変えることが可能なのだ。


何でも、レベルを数値化する魔道具や魔法が存在するようで、冒険者ギルド、傭兵ギルド、商人ギルド、そして貴族たちがそれぞれ所持している魔道具で測定できるらしい。しかし、人のレベルを数字に置き換えるので、まず数字が分かる人間でなければ、その数字を理解できない。


この世の中での識字率はだいたい10%ぐらいだろうか。俺たちはじいからの基本的な素養を叩き込まれ、じいからの『賢士(けんし)の纏い』を日々与えられているので、知能的にかなり押し上げられている。


『賢士の纏い』とは、じいの特殊な魔法で、魔法をかけられた対象者の知能を上げることができるのだ。これをしてもらっている時は、俺たちは3つか4つの事を同時に考えることが可能になる。俺たちはじいが今まで蓄積してきた知識を叩き込まれ、理解できているのはこの魔法のおかげだ。


10%の識字率しかないので、誰しもが分かるA~Hの8つの文字の『ランク』で戦闘能力を大雑把に区分分けしているのだ。8つの文字なら覚えられると、広く世界に定着しており、多くの人々がお互いの立ち位置を使う時に、A~Hを使っている。


ちなみに、俺たちのレベルはだいたい30前後で、ランクFとEの間ぐらいだ。


じい曰く、レベルとランクの換算表はだいたい以下の様になるらしい。


レベル1~10 ランクH   

レベル11~20 ランクG

レベル21~30 ランクF

レベル31~40 ランクE

レベル41~50 ランクD

レベル51~60 ランクC

レベル61~70 ランクB ←今のじいの位置、三大貴族・騎士団長クラスはここ

レベル71~80 ランクA ←昔のじいの位置

レベル81~90 ランクS




俺たちはじいの指定されている狩場に行き、将来巣立つ時に備えて日々訓練に勤しんでいた。


レオ「さぁ、行こうか」


アリス「今日はどこに行くの?」


レオ「今日は草原の方に行きたいな」


ノア「そうだな。じいが言っていたけど、土竜が大量に発生しているらしいぜ」


レオ「おぉ、いいな。土竜の肉は美味しいから、食べたいよな」


フィン「土竜。食べる」


ヘレーネ「タタン街の西側に多くの土竜がいた、ってじいが言っていたね」


レオ「よし。じゃあ、そっちを目指していこうか」


そうして、俺たちはタタン街の西側の草原エリアに向かっていった。森の中ではあまり気にしないが、草原に狩りに出る時は、俺たちは魔物の皮で作ったアイマスクを目元に装着して移動する。このアイマスクだが、眼の部分をくり貫いているので、もちろん視覚的には問題ない。これで万が一冒険者に俺たちの姿を見られたとしても、俺たちの顔は覚えられないから安心だ。


また俺たちは偽の腕輪を装着し、ボロボロの短剣を腰に差した。これも魔道具を持つ冒険者から見れば、これらの装着物が魔道具として誤認されるので、俺たちが魔力を使っているようには見えないのだ。本当にじいの偽装工作の知恵には頭が下がる。


俺たちはいつも通り索敵をする俺が先頭に立ち、後ろからノア、フィン、アリス、ヘレーネの4人が周囲を警戒しながら、後ろから付いてくるフォーメーションで進んでいった。


天気は良好であり、まさに狩り日和の一日であった。途中で1匹のランクGの毒サソリと遭遇したが、俺は見つけた瞬間に毒サソリの胴体に一撃打撃を加えて沈黙させた。毒サソリは中身がほぼ毒の液体で、飲むために魔法で身体能力をあげながら飲まないと死んでしまう。美味しい味はするのだが、今は土竜叩きが第一優先事項なので、死骸はそのまま放っておいた。


タタン街に寄らずに過ぎたので、若干ノアが街を見る眼が寂し気だった。たぶんサマンサに会いたかったのだろう。俺はノアの肩を叩いて、「まぁ、また次に行った時にでも会えるんだから。今は大量発生中の土竜の狩りに集中していこう」と小さい声でノアに伝えた。ノアは「うるさい」と俺の手を払いのけた。本当に素直じゃない奴だ。


俺たちはかなりのスピードで移動しながら目的のエリアに到着した。


レオ「さて・・・。ここら辺りだな」


ノア「わかるか?」


レオ「あぁ、かなり多くの土竜が地中深くにいるな。準備は良いか?」


アリス「いつでも」


ノア「やろうか」


ヘレーネ「やっちゃおうか!」


フィン「何匹でも殺す」


レオ「よしみんなで一斉に、魔力全開!!!!」


一気に俺たちの魔力が膨れ上がった。それを合図にしてか、地中からド!ド!ド!ド!ド!ド!と不気味な音がして、どんどん大きくなってきた。


レオ「さぁ来るぞ!」


アリス「かなりな数だね」


ヘレーネ「食い殺されないように気を付けないとね」


レオ「結構な攻撃力だからな。やつらの爪も牙も」


ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!


あちこちから土竜が地中から飛び出してきた。5人の真下からそれぞれ現れた。


俺は土竜が地表へ出てきた瞬間を狙って鼻先を蹴とばした。衝撃が脳天まで響いたのか、体を左右にクラクラさせて動けなくなった。土竜の眼球に魔力収斂した手刀で突き刺して頭蓋骨を貫通して一体の土竜を絶命させた。


ノアは下から素早く噛みつこうとする土竜を避けた。勢い余って出てきた土竜の体の腹部に炎を纏った蹴撃を与えた。土竜の腹部への強烈な衝撃と高温度の攻撃のダメージで動きが極端に鈍くなった。土竜は急いで穴の中に戻ろうとしていたが、更に腹部に炎に包まれた拳打が叩き込まれ、土竜は気絶した。


フィンは土竜が飛び出してくるであろう地点の真上に鋭く尖らせて硬質化した土を浮かべ、出てきた土竜の口に突き刺し、貫通させた。体を痙攣させた土竜が地上に横たわっていた。


アリスは出てきた土竜を風魔法で竜巻を作り、思い切り空中へと放り投げた。空中をのたうつ土竜に無数の真空斬を放ち、無数の切り傷が表皮に現れた。痛みに悶え、受け身を取ることもできず地上に土竜を激突させた。瀕死の土竜に対して、アリスは風を圧縮させた空気弾を掌に集め、思い切り土竜の頭部にぶつけた。「グシャッ!!!!」と頭蓋骨が破壊される音が周囲に響き、土竜は死に絶えた。


へレーネは飛び出してきた土竜を躱して大きく後方へ飛び、生成した大きな水球を土竜に叩きつけた。飛び出した先が水の中とは思ってもおらず、土竜は水の中から逃れようとするが、動いた方向に水球も動いていくので、脱出ができない。


ガボゴボガボゴボ!!!


いきなり空気がなくなり、地上で窒息するとは思わずパニックになった土竜は必死で地中に戻ろうとするも、水球の中は激しい流れが発生しており、上も下も右も左も分からない状態であった。必死に抵抗するも段々と動きが止まり窒息して絶命した。


5人は怒涛の勢いで地中から飛び出してくる土竜達を難なく屠っていき、地上には土竜の死体が累々と横たわっていた。


レオ「まぁこんなものかな」


アリス「はぁ、はぁ、はぁ、結構疲れたね」


ヘレーネ「ふー、何体いたんだろう?30体ぐらいはいたかな?」


ノア「今日の飯はかなりいい感じだな」


フィン「腹減った」


レオ「さぁ、みんなで魔石をくり貫いて持てるだけ肉を持って帰ろう・・・か・・・?」


そう思い移動しようとすると、タタン街の逆の方角から、遠くの方にゆっくりとした動きでフラフラと近づいてくる影を、俺は視界の端に捉えた。すぐに、魔力収斂で視覚を強化してその影の正体を見定めようとした。


(なんだ?あれは?人か?なぜこんな場所に人が歩いているんだ?俺たちも人の事は言えないが・・・)


フラフラと走りながらも、おそらくこちらに向かっている。


(何を目指している?こんなところで走っている人がいるなんて・・・)


ノアや他のメンバーは、その奇妙な存在にまだ気付いてはいなかった。


レオ「なぁ、みんな。たぶん小さな魔力の動きを察知したんだが。たぶん子供かな、と」


ノア「ん??小型の魔物じゃないのか?普通、小さい子供は魔力を持っていないだろう」


レオ「いや、分からない。微量の魔力の反応が感じられるが、魔物にしては小さすぎる。一体何なんだろう?貴族の子供?魔道具を持っている一般市民?」


アリス「で、それがどうしたの?」


レオ「もしかしたら助けてあげた方がいいかもしれない。ほら、向こうの方角。かなりフラフラな感じなんだ」


ノア「魔物が弱っているケース・・・そんなことも考えられるんじゃないかな?」


俺は皆に遠くの小さな影を指さした。それで皆、その存在を認知したが、たしかに小さな魔力量しか感じられない。人影自体も小さく見た目は小さな子供だった。


ノア「小さな子供だよな・・・いや、ちょっと待て。なんだ?あの人影の後ろから何かが近づいてくる。き、巨大な魔力量だ!!」


だんだんと微量の魔力を発する存在が近付いてきた。遠くの方からボロボロの布をまとった人影がふらふらと近づいてくるのが見えた。それよりも、さらにその後から2つの巨大な魔力反応が感じられる。おそらく、2つの巨大な魔物か何かに追われている子供だろうか。城壁外で子供がさまよっているのであれば、俺たちにとっては『助ける』の1択しかない。


レオ「小さな子供か何かが追われている。行くぞ」


ノア「あぁ、急いだほうがいいな。しかし、警戒した方がいい。あの2つの巨大な魔力を持つ奴らに見つかったら、こっちもただじゃ済まないぞ」


俺たちは相手に見つからないように、近寄って行くとだんだんとその人影も明瞭に見えてきた。明らかに人の子供だ。さらにその後には大人の人間が2人が見えた。


1人は鞭を持って攻撃しているように見える。


今、鞭の一撃が入った。小さな影は倒れ伏した。遠くから笑い声が聞こえてくる。どうやら鞭を持っている方の大人からだ。


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