第6話 タタン街の人達3

俺と他の3人は、街の子供達と戦闘ごっこをしながら遊んだ。俺たちは少しでも力を入れてしまうと街の子供達に大怪我させてしまうので思い切り力を抑えて動くことを心掛けていた。そうして、街の普通の子供たちと一緒に楽しい時間を過ごした。


俺も力を最大限に抑え込み、相手に怪我をさせないことを最優先にしながら、戦闘ごっこに興じていったのだが。


「街の外から来ているらしいけど、お前たちあんまり大したことないなー」


普段は、同年代の子たちとじゃれ合いをしているのだが、今日は突然、大柄の年上の男の子が、俺たちのじゃれ合いに絡んできた。何故か俺と戦闘ごっこでの木の枝での打ち合いを強要してきた。そして、突然俺に襲い掛かってきた。


ヒュン!!ヒュン!!ヒュン!!ヒュン!!ガン!!ガン!!ガン!!


上から、横から、下からと大きな木の枝を両手で持ち、力一杯、俺にぶつけてきた。力を出すと、この男の子に怪我をさせてしまうので、とにかく防戦一方で避けることを重視して、立ち回った。


「なんだなんだ!防戦一方か!?街の外は死の世界と言われているが、お前たちはそこを旅しながら、お前たちのじいさんと一緒に行商してんだろ?そんな腕前でよく死なないな?逃げるのがうまいのか!?」


まぁそう思うよな・・・。こいつの名前は・・・、たしか、ハルだったかな。15歳ぐらいの男の子だ。こいつはガンガンに太い木の枝で俺に打ち込んでくる。


こいつの体つきは、かなり引き締まっており、肩幅が広く、腕や胸が発達している。身長は同年齢のどの連れ立っている奴らよりも高く、存在感は街の中で際立つ。顔つきも眉毛が太く、目元や口元、鼻も彫りが深くはっきりとした印象を与え、強面で厳つい印象を周囲に与えている。こいつの目は冷たい視線を持っており、他人に対して威圧的で警戒心を感じさせる。目つきは鋭く、怒りや不満がにじみ出ている。こいつの顔は普段より、不機嫌な表情をしており、笑顔や友好的な表情はほぼないと言っていい。口元は基本真一文字に結ばれているが、こいつは通常、服装や髪型に気を使っており、清潔感のある服装で、見栄えも良いのだ。それもそのはずで、彼の親も街の中でも名士として大きな影響を及ぼしていることも関係している。


ハルはそんな上級市民気質を受け継いでおり、同年代の仲間を引き連れて、この街の中で我が物顔で振舞ってはいつもトラブルを起こしている。


俺は木の枝でハルの猛攻を受けながら押されっぱなしになっていた。


「そこだ!」


ガン!!!!


ハルは俺の横っ腹に強烈な一撃を加えて、俺は後ろに吹き飛んだ。


「弱い。手応えが無さすぎる。お前のじいさんか冒険者が強いのか、それとも、街の外は実はそんなに大したことないのか。お前と戦っていると分からんな。何か凄い奴だと思って来たんだが、はっきり言って拍子抜けだ」


「はははは・・・。勘違いだよ。僕はそんなに大したことない。僕たちを守ってくれている冒険者の人達が凄いだけだよ」


「ふん。じゃあお前のところのじいさんも大したことないんだな」


横で俺とハルのやり取りを聞いていたアリスは今の言葉に少しカチンときて、俺たちの会話に入ってきた。


「ちょっと言い過ぎよ。うちらのじいは関係ないでしょ」


ハルの表情が剣呑になっていく様子を感じ取り、取り巻きの少年たちがハルの周りに集まってきた。


「なんだ、女がピーピーうるさいんだよ」

「外から来てここで遊ばしてもらっているんだ。お前何様だよ!!」

「弱い奴を弱いと言って何か問題なんだ!」

「しょうもない奴だ!」


ギャーギャーと取り巻きの奴らがアリスを煽ってきて、アリスのイライラ感が強まっていくのがアリスの顔を見ていると手に取るようにわかる。


(まずいな・・・。アリスはこんな扱いはあまり慣れていないしな~)


アリス、ヘレーネ、フィンと違って、俺はよくじいと一緒にギルドへ連れられたり、荒くれ者たちと対面することが多く、このような嘲笑をじいが受けている所を何度も目にしてきた。俺自身も何度も罵詈雑言を浴びせられてきたが、その都度じいからは「気にするな。所詮は子山羊が吠えているに過ぎん」と言って、気にしないで過ごしてきた。最初は俺もイラっとして言い返してきたが、その度に冗長する輩を対処するじいが大変そうで、俺も自重するようになった。じいから何度も注意を受けた。


何故、俺だけがじいとそんな場所へ連れいかれているかは知らないが。


だから、俺はこんな子供に何を言われたところで問題ないが、アリスはそんなに受けていない仕打ちなので、顔が真っ赤になっていた。


俺はノロノロと立ち上がり、アリスの前に立った。そして少年たちに対面して頭を深々と下げて謝罪した。


「すいません・・・。申し訳ないです。僕たちはただ一緒に楽しみたいだけなんです。勘弁してもらえませんか?アリス、もういいから」


俺はアリスを手で制したがアリスの勢いは止まらなかった。

「レオ、こんなんでいいの?レオがバカにされたのもムカつくけど、じいまでバカにされたら腹が立つじゃない!」


「おいおい。嬢ちゃん。勘違いすんなよ。俺はバカにしていないぜ。間違えんな。ただ感想を言っているだけだ。だろ?お前」


「その通りです。大したことが無いのを大したことが無い、と言って何も問題はないです。僕もハルさんの言うことに同意です」


「レオ!あなたまでじいをバカにするの?!」


「レオって言うのか。お前のように聞き分けの言い奴は嫌いじゃないぜ」


「ありがとうございます」


ワナワナと肩を震わせるアリスを一瞥し、俺はさてどうしたものか、と考えた。


ヘレーネとフィン、ノアの状況を横目でサッと把握した。


(アリスはちょっと怒りが収まらない感じか・・・ヘレーネもフィンも、他の子供たちもこの雰囲気を察して、こちらに視線を向けている。他の子供も段々と不穏な雰囲気に感じてきている。ノアはサマンサと一緒に遊んでいる感じだな)


「アリス」


顔を真っ赤にしているアリスが短く答えた。

「なによ」


「だったら、アリスの好きにしたらいいぜ」


「何よ、その言い方!!」


「本当だって。じゃあ、アリスの本気を、ハルさんに見せたらいいだろ?俺たちが街の外でどれほどの体験をしているかを、この木の枝をあげるから見せてあげな」


「レオ、本気で言っているの?」


「あぁ、僕は本気だ。アリス。ハルさんにアリスの本気を見せてあげな。そうすれば、じいも含めて僕たち全員が報われるんじゃないかな?」


俺のまっすぐな目線を受けて、アリスは地面に視線を移して、はぁと深いため息をついて木の枝を俺から受け取った。


「分かったわ。全力ね」


「あぁ、全力だ。全員消し炭にしな」


「おいおい、レオの代わりに嬢ちゃんが相手するのか?止めた方がいいぜ。俺もそんなに手加減ができる方じゃないんだけどな~。しかも、何だそれ?俺たちを消し炭にするって??やれるものならやってみろよ!!」


ハルはまるで自分を簡単にあしらうことができるかのような発言に若干苛立ち、俺たちに向かって吠えた。


「私はレオよりは強いわ。さぁ、私と手合わせしなさい」


「いいぜ。外部の人間の全力か。楽しみだ。かかってこい!消し炭にしてみろよ!!」


そう言って、ハルは上段に構えた。さぁどこからでも掛かってこい、と言わんばかりの隙だらけの構えだった。おそらく、アリスからどんな攻めが来ても、素早い振り降ろしで片を付ける気でいるようだ。


対するアリスは構えることなく右手で木の枝を持ち、ダランと腕を下ろした。


アリスは眼を細めてハルを見た。そして、「全力ね・・・」と小さく口ずさみ、ハルに向かってゆっくりと歩き始めた。


ハルはアリスが不用意に近づいてくることに驚きながらも、(やはりか・・・)と落胆気味にアリスの近接が間合いに入るのを待っている。


あと5歩

4歩

3歩

2歩

1歩

間合いの中!


ハルは上段からの鋭い斬撃をアリスに放った。


(あぁー、この間に森だったら、この子は100回は死んでいるな・・・)


そんなことをぼんやりとアリスは思っているだろうな~、と思わせるようなぼー、とした表情だった。アリスの目は確実に、斬撃を追っていた。俺もその斬撃を目で追った。そして、木の枝でアリスはハルの斬撃を受けた。


ガン!!!!


ハルの剣戟をアリスは脱力した状態で受けて、その力の方向へ体を流した。アリスの木の枝とともに、華奢なアリスの体は地面に押し倒された。


「痛っ!!!」


地面に顔面をぶつけたアリスは、イタタタタと、涙目になりながら地面に這いつくばった。


その上からハルは何度も何度も華奢な体を打ち続けた。


「わかったか!?わかったか!?わかったか!?俺に逆らうな―――――!!!!」


バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!


俺は横で体を震わしながら、その光景を見ていた。俺はただ単純にアリスがキレないかを心配していた。殴り終わった後のは、服もボロボロになったアリスが地面に横たわっていた。


ハルはアリスを見下ろしながら言った。

「はぁ!はぁ!はぁ!ふん!無様なガキだ。さっきまでの威勢はどこに行ったんだか。はぁ、はぁ、はぁ。これからはその減らず口を直しておきな。はぁ、はぁ、はぁ。お前らの居場所が無くなるぜ」


「そうだそうだ!!何が本気か知らないが、あまり大口叩かない方がいいぜ、外部」

「街人最強説」

「街の外に俺も行ってみようかな~。こんな奴らでも生き残れるなら、俺らだったら無双だな。はははは!!!!」


「おい、レオ。これに懲りたら、生意気な口を叩くなと、そこのガキに言っておけ。わかったか?」


凄んで俺に言ってきたので、俺もその期待に応えるように震えながら答えた。


「わ・・・、わかりました」


「ふん!お前らガキと遊んでいる暇はないんだ。行くぞ、お前ら」


その答えに満足したのか、ハルは周りの取り巻きの奴らと一緒に高笑いしながら、その場を去っていった。


周囲の小さな子供たちも呆然としながら今のハルとアリスのやり取りを見ていた。


俺は徐にアリスに近付き、体を労わる様に抱き上げ、無言でいるアリスに俺は優しく声をかけた。

「お疲れ。いい立ち合いだったな。ハルさんはいい腕してるよ。アリスの全力も敵わなかったね。大丈夫かい?」


周囲から見れば打ちひしがれた少女が一人、満身創痍の状態で倒れているところに、彼女の友人が震えながら介抱しているように映るだろう。


アリスは目を瞑りながら、俺にだけ聞こえるように囁くように言った。

「めちゃめちゃに打ってきたわね・・・。女の子には優しくしほしいわ」


俺はできるだけ心配そうな表情を作り、アリスを見下ろした。

アリスは俺の表情をうっすらを目を開けて確認して言った。

「レオの気持ちがよーく分かった気がするわ。冷静になってよかったわ」


「何よりだ」


アリスも俺も、この街の中で強烈な力を持っていることを決して分からせてはいけない。人々が、なぜ俺たちの様な小さな子供に、異常なほどの力が備わっている事が分かれば、俺たちに街の防衛などにその力を乞うことになろう。そして最悪、街の支配層である貴族などに眼を付けられれば、俺たちの異常性に難癖をつけられて、俺たちの棲み処は確実に追いやられるだろう。


「大丈夫?」

「心配したよ」


ハルたちが去った後に、こちらに駆け寄ってきたフィンとヘレーネに向かって俺は言った。

「さぁまだ6つの鐘が鳴るまでは時間があるし、ここにいられるのも長くはないんだから、お前らはここにいて遊んでおいてくれ。俺はアリスを連れて、じいの元へ行ってくる。治療をしてもらって来るよ」


「了解」

「分かったわ。私たちも後でアリスの様子を見に行くわ」


周囲の子供たちは横暴なハルがいなくなって安心して、さっきのやり取りは何でもなかったことにしていいのだと判断し再び遊びに興じ始める。


俺は遊び場となっている集会場から、子供たちに見られないぐらいに距離を取り、アリスをその場に立たせた。


「あぁーあ、私の服がボロボロになっちゃったわね」


「まぁ、良い薬だと思って諦めるんだな。あそこに布屋があるからそこで適当に布を見繕って服にすればいいだろう」


俺はそう言って、近くの布屋を指さした。


「あなたね、私が布で自分の体を巻いているだけだと思っているの?」


「ははは。そう怒るのなよ」


「もー」


アリスは何故か俺の言葉に口を膨らませながら、「全く、レオは女の子の事を分かっていないわ」などと俺に聞こえるか聞こえないかぐらいの音量でぶーぶー言っていた。


アリスはその後、自分が買いたい服を探しにどこかへ行った。


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