第4話 タタン街の人達1

ノア「危なかったなー」


レオ「いやー、あの親猪の魔力量は半端なかったな」


フィン「ランクE・・・勝てない」


アリス「完全にこっちの火力不足ね。いつものやり方でこちらの最大火力をぶつけたけど、親猪の防御力を貫通することはできなかったわ。硬かったわね。さすが、ランクE。良かったのはとにかくあの状況でも、子猪が狩れたことね。レオが弱っている子猪の止めを刺すのを優先してくれて良かったわ」


ヘレーネ「たしかに。子猪が狩れたのはレオのファインプレーね。あの強さならランクFぐらいが相当かしら。ランクEの親猪が、私たちの正面にいたから追撃は打てなかったのよね。本当に良かったわ。レオ、木の上から落ちて地面に激突したと思うけど大丈夫だったの?」


レオ「大丈夫だ。あの巨木を一撃で倒すとはすごい勢いだったな。あれにはやられた。すぐに魔回復させたから大丈夫だったよ。今回の狩りはまた色々と反省材料はあるよな」


ノア「まぁそうだな。親猪と子猪を引き離せばより安全な狩りになっていたな。各個撃破が良かったのかな~?」


アリス「もしかしたら最大火力よりもヘレーネの水魔法でまずは子猪を遠くに吹っ飛ばした方がよかったかもね。それで2匹を引き離せて各個撃破って感じかな」


フィン「土魔法で・・・穴を作って猪達を離しても・・・よかったかな」


レオ「おぉ、それもいいな!フィンの土魔法は凄いもんなー」


俺たちはあーだこーだと先ほどの狩りの反省会をしながら、あの混乱状態の中で確保した子猪を当分の食糧にするべく、血抜きをして俺たちのアジトへ移動していた。


じいからは、こうやれとかああやれとか細かい指示は基本無いが、じいとは常に議論を戦わせている。俺たちの考えを伝えると、的確にその穴を付いてくる。そして、その穴を埋めるために俺たちは必死で考え、意見を言う。そして、また反論される。


こうして、俺たちはじいから常に考え続けることの大切さ、臨機応変に物事を解決していく大切さを叩き込まれていった。だから、今ではじいがいなかったとしても、俺たちの中で意見を戦わせながら、より良い方法を考え出すのが俺たちの習慣になっている。


じいは狩りの基本的な組み立て方や魔物の情報を教えてくれたりして、原理原則を教えてもらうだけで、後はどこまでも「自由と責任」を持って指導をしている。


将来俺たちは必ずじいの元を離れ自立していく。その時に自分の頭で考えられない人間になってはいけない、とじいは口酸っぱく言ってくるのだ。その為の様々な知識はじいからは詰め込まれているが、それをどう扱うかは俺たち次第だ、とじいは言う。全部教えてくれてもいいじゃないか、と思う時もあるが、やはり今まで想定もいなかった状況に遭遇した時は、自分たちである知識や状況をこねくり回して、考えて対処するしかない。


なので絶体絶命の時も、じいが『自分の頭で考えろ』との習慣が身に付いていたおかげで、今までも死を免れた状況は数知れない。これも全てじいの訓練の賜物だな、と俺たちの中ではよく話をしている。本当にじいには感謝の思いでいっぱいだ。


どうして、俺たちの様な子供を助けてくれているのかは、俺たちはよく分かっていない。俺たちはとにかく生き残るので必死だ。


俺たちはアジトに到着して、血抜きを待ちながら、ヘレーネの水魔法で内臓を洗い、食用植物を用意して食事の準備をしながら楽しく談笑しているところに、じいも何かの用事を終えたのか近付いてきた。


「楽しそうじゃな。今日の狩りはうまくいったか?」


俺は肩を竦めた。

「親子連れの猪を不意打ちしたけど倒せたのは子猪のみだったよ。ランクEの大猪にはまだ太刀打ちできなかったな」


それを聞いたじいは満面の笑みを浮かべた。

「まぁ上出来と言って良いじゃろう。親の猪の反撃を受けたら普通の冒険者パーティなら全滅じゃ。ランクEの大猪じゃと、一般の魔導師であれば100~1000人ほどの戦力じゃからの。そこから撤退して生き残っているんじゃから、お前たちは本当によく頑張っとる。上出来上出来じゃ」


こうやって、じいは俺たちのやっていることをよく褒めてくれる。この言葉がけが実は俺たちの前進の糧になっていたりするのだ。


「猪の血抜きをしておるな。では、お前たちの食事が終わったら出発するぞ」


ノアは『出発』という言葉に興奮したように反応した。

「おぉ!!今日はタタン街に行くのか?楽しみだな~。早くタタン街の飯が楽しみだぜ!」


俺はニヒヒと笑いながらノアに言った。

「どうせ、ノアは飯よりサマンサに会えるのが楽しみなだけじゃないの?」


ノアは顔を真っ赤にしながら、逃げる俺を捕まえようと追いかけてきた。

「ち、違う!!サマンサは関係ない!!」


「はいはい」


「違うって言っているだろ!」


ノアは執拗に俺を追いかけるが、俺はノアの追跡から全力で逃げる。ノアもノアでかなり本気で追いかけてくるからだ。ノアに捕まえられると、加減を知らないから結構痛みに遭わせられる。けども、これがなかなかスリリングで楽しかったりする。


アリスは一人、街で食べられる食事を想像してよだれを垂らしていた。

「あぁ~砂糖が食べたい・・・。じい、あそこのお菓子と私たちが狩った毛皮を交換してね。絶対だよ」


ヘレーネは自分の長い髪を触りながらボソッと呟いた。

「新しい髪留めが欲しいわ」


フィンはみんなの嬉しそうな顔を見ながら、笑みをこぼしていた。


じいは皆が楽しみにしている様子を見て、嬉しくなった。

「お前たちはいつも通り、街の子供たちと遊んでおくようにな。他のことは一切任せておけ。はははは!ワシも行くのが楽しみじゃわい!」







じいと俺たち5人は走りながら森を抜けてバウト王国領内に入った。そこから大体10キロ程、国内部へ移動するとタタンという名の城塞都市がある。その都市には5万人強が暮らし冒険者ギルドや傭兵ギルド、商人ギルドもある。城塞都市としては中規模の大きさらしい。俺を含めた5人の子供はこの街しか知らないから、何とも言えないが。


街の外縁部は石やレンガで作られた巨大な城壁が建設され、その所々に無数の魔法具が埋め込まれている。発動させるキーを持つ衛兵たちが、外部の魔物の襲来を魔法具で防ぐのだ。街の東西南北にある入口の門には衛兵たちが交替で昼夜を問わず門の警備の任務に就き、外壁の上を歩き、定期的に巡回する。入口の門は大きな鉄扉となっており、かなり堅牢な作りになっている。夜の時間帯、門は閉じられ、魔物の襲来から街を守る。門は閉じられても警備の衛兵たちは常に警戒をして、その任務に就いている。門の近くには監視塔が立っており、魔物の接近を常に警戒しているのだ。


接近してくる魔物には、壁の上から弩砲や投石機での遠距離攻撃をし、撃退する。魔道具で向上させた身体能力で放たれる無数の遠距離攻撃は、かなりの破壊力に達する。また壁に埋め込まれている無数の魔道具により、強力な魔法が発動する。ランクEぐらいの魔物の群れなら楽勝で退けることができる。ランクDでは、ある程度余力を残せて撃退できる。ランクCは街全体の総力戦だ。街が生き残るかどうかが決まる。しかし、ランクB以上になってくると、他の都市に救援を呼ばないと全滅だ。その為の部隊も編成されている。


魔物が来るような非常事態の時は、冒険者ギルドや傭兵ギルドの高ランク者たちは緊急招集される。年に1、2回ぐらいはランクDが襲ってくる非常事態が起こるから、ギルド関係者は、高ランクの人達の動向には常に気を配っている。


またランクに関わらず人々にとって恐怖なのは、飛行系の魔物だ。地上走行系の魔物であれば、接近に対して発見、撃退はまだ何とかできるが、空からの攻撃に対してはかなり大変だ。衛兵たちは飛行系の魔物を警戒しており、その魔物が接近に気付けば街全体に対して警戒勧告を発令する。魔法道具の射程範囲内に入った飛行系魔物は攻撃して殺す。しかし城塞都市全広域をカバーすることは至難の業の為、打ち漏らしは必ず出てくる。だから、走行系高ランク魔物と飛行系魔物たちは、共に街の人々にとっての恐怖の対象となっている。


俺たちが森を出てしばらく移動すると、十数体の死骸が草原の真ん中で晒されている場所に遭遇した。おそらくここ周辺の狩りをしていた冒険者か傭兵たちなのだろうか。それとも、護送の任に当たっていた人達か。それとも、人間同士の抗争があったのか。全ての死体は戦い殺された残骸があった。死骸の様子を見ると装備品がそのままになっていた。日常のありふれた光景だ。


人の死が非常に身近であるがために、人々は自分たちの生活空間内に固まり外に出ることを普通しない。死骸を見ていると、原形を留めている死体は一つもない。どれもどこかが欠損しており、ボロボロとなっている。魔物に食い散らかされたりされたのだろう。また腐敗がかなり進んでいたため、少なくとも1週間は経っていると思われる。


俺たちは死体が散乱している場所を歩き回り、身元が分かるタグや冒険者カード、魔道具などを探した。また、冒険者や傭兵であれば、身分証の金属のタグや魔道具を持っている事がほとんどであるため、じいはそれらを回収し、遺品としてギルドへ持っていくことにしている。これらを持っていけば冒険者ギルドや傭兵ギルド、または商人ギルドで謝礼がもらえるし、遺品の魔道具も結構な金額で売却もできる。もし仮に遺族がいた場合はとても感謝される。


冒険者と傭兵の違いは、冒険者は依頼されたことは何でもするが、傭兵は戦闘関連のみの依頼をこなすのだ。例えば、国が起こす戦闘に参戦したり、衛兵として街、都市を警護したり、街から街へと移動する要人の護衛もしたりする。冒険者も同様の依頼もこなすので、冒険者の方がこなす依頼の守備範囲が広い。しかし冒険者は自分たちの得意とする依頼分野を持っており、例えば冒険者なら薬草の採取や魔物の素材を確保など、多種多様な依頼が舞い込むことが多く、冒険者たちは自分たちの得意分野だけの依頼を受ける場合が多い。


複雑な案件や高難度の案件を依頼したい人たちは、自分たちが頼みたい冒険者や傭兵にそれぞれに自分たちの仕事の依頼を頼むことが通例だ。


商人ギルドは、商人たちが自分たちの商売を守るために作られた互助組織だ。街で商売をする人が増えれば、その人たちの交通整理が必要となる。誰でも彼でも道端で商品を並べ始めて商売を始めたり、不良品を騙して売ったりすると、地元住民たちや冒険者、傭兵たちなどが迷惑する為だ。それぞれの街での様々なトラブルに対処するのが、この商人ギルドだったりする。


商人たちも護衛を付けて街の外を訪れるのだが、このような草原で人の死骸があった場合は貴族の場合もあるし、冒険者、傭兵、商人の場合もある。すでに腐敗臭漂うこの場所で、誰が生前何の職業の人達でどのような立場の人かを判別するのは、その死骸に身分証の金属のタグが無い限りは何とも言いようがない。


手に入れたタグを見ると冒険者たちの一団であることが何となく分かった。魔物討伐の依頼を受けて城壁外にいる時に、運悪く自分たちのより高いランクの魔物に遭遇してこの一団は壊滅したのだろうか。


俺たちは冒険者カードや身分証のタグ、魔道具などを回収して、死んだ冒険者たちの冥福を祈り、タタン街への旅路に戻った。


更に進むと遠くの方に街を守る城壁が見えてきた。


人里に近付いてきたら、じいは魔法で5体の人型ゴーレムを作り出し、そのゴーレムを護衛兵との名目で俺たちの周囲を歩かせ始めた。そして馬車を魔法で出現させ、その中には今まで狩ってきた魔物の肉や毛皮、また先ほど回収した品物を転移魔法で出現させ、格納した。俺たち子供5人は、その馬車の中に潜り込み、タタン街に入る為の体裁を整える。じいは、商品を売り歩く行商人に扮し、俺たちはその付き添いの従者となった。


人型ゴーレムと言っても見た目は完璧に人間だ。2メートルほどの背丈でローブを身に纏い、仮面を被り口数は少なく不気味な様子なのだが、自由意思を持ち話すこともできる。なので、5体とも無口だが話すと普通に話はできる。誰もまさかじいの魔力で動かされているゴーレムとは思わないだろう。人型ゴーレムなので疲れる事は無い。原動力はじいの底無しの魔力なので半永久的に動けると言って過言じゃない。


俺たちは城門前に並ぶ人たちの列に並び、自分たちの順番が来るのを、周囲を警戒しながら待つことにした。


このタタン街には俺たちは今までも何十回と訪れており、食糧や日用雑貨品、衣服など、俺たちが森で手に入れられない品物を手に入れている。俺たちが持っている魔物の肉や毛皮、植物を売ることもできる。魔物関連の物は街の人間たちでは簡単に手に入る物ではないので、かなりの高い値段で売れる。だから、人々は命のリスクがありながら城壁外に冒険へと出るのだ。


俺たちが馬車の中に待機するのは、俺たちが馬車の外に出て一緒にじいやゴーレムと歩いていると、俺たちの様な子供が外で自由に動き回っている姿は不審に思われるからだ。だから、じいは周囲に無用な疑いをもたれないよう、俺たちを馬車の中では大人しくさせている。馬車の周囲を護衛兵に扮した人型ゴーレム5体が歩き、馬車の手綱を握りしめる商人に扮したじいがゆっくりと馬車を前進させた。


入り口の門の前で列をなして待っている人間たちが10人程いる。ほとんどが冒険者か傭兵たちである。街の外に出るのは基本、一獲千金を狙う向こう見ずな奴らで、街を一歩外に出ると凶悪な魔物たちが闊歩しており、その中に飛び込むのは命懸けだ。戦闘能力も胆力も度胸も尋常ではない。皆、屈強な男たち、女たちであった。どんな奴らも傷ついた多くの道具を装備している。おそらく全て魔道具であり、死が荒れ狂う城壁外の世界で生き延びた証だ。


俺たちはその冒険者や傭兵の姿を見て、「格好いいなー」とか「すげぇ」とかと口々に感嘆の声を漏らしていた。冒険者たちが装備している道具は見た目からしてかなり格好いい。不思議な形の剣や槍、斧、棍棒などを持っているので、見た目がかなり厳つく、暴力的でめちゃめちゃ格好良い。


基本俺たちは魔道具を持たない方がいいと、じいから言われている。魔道具は埋め込まれている魔石を原動力として、魔法と同じ効力を発揮することができる奇跡の道具だ。だから自分が魔力を使うことができなくとも魔法が使うことができるのだ。城壁外に出る人たちにとって必須のアイテムであり、城壁内にしても人々の生活を向上させるための様々な用途の魔道具は存在する。もちろん、一つひとつは高価であるため、一般庶民が所持することはない。貴族や冒険者、傭兵たちが使用するのが普通だ。


じい曰く、今は自分たちの魔力を何度も使うことで魔力量が増やせるので、魔道具を使うより自分の魔力を使うことが最優先だ、と。


俺たちもじいの話を聞き、将来を見据えたら魔道具を使うよりも、自分たちの力で十分に森での生活を営めているわけで、またその生活の全てが訓練の場になっているため魔道具はとても魅力的だが、今はまだ必要ないと納得している。しかも、大体のことは魔法などで代替できるから、俺たち自体も今の生活の中でそれほど必要とは思っていない。あったところで俺たちのやっていることの劣化版か効力が有用ではないことがほとんどだ。


しかし自分たちに必要ないからと言って、知らないでいいかというと全くそうではない。様々な魔道具を持っている人間とも相対することもあるので、世の中に魔道具があるかを知っておくのは非常に有用だ。俺たちは街に来るたびに目をキラキラさせながら、冒険者や傭兵たちが持っている魔道具を見て、弱点や有用性について議論している。





じいの順番が来たので、じいは首にかけた商人カードを提示した。衛兵がじいの一団を見て言ってきた。


「商人か・・・。おぉ、よく見ればサリカ殿。よくぞタタン街に来られた。今回の荷物は何だ?」


「はい、運よく魔物の毛皮と肉、それに森で採取された植物を仕入れることができました。この街の商人ギルドで卸させていただきます」


「おぉ!魔物の肉か!高級品ではないか!」


「はい、是非お店でご賞味いただければと思います」


「しかし・・・なぁ」


十数名の衛兵達が守る門で、俺たちを対応している衛兵の表情が急に曇りだし、歯切れが悪くなっていった。衛兵の視線が鋭くなり厭らしい印象を与えるようになる。


「最近は実入りも悪くなってなぁ、多くの魔物の襲来が最近あって、みな大変な状況なんだ」


その様子の変化をいち早く察知したじいは、金貨を2、3枚手に握り、衛兵の手を取った。


「衛兵様、本当に日々の防衛任務大変にありがとうございます。どうぞ。これからもお体を大切にされながら、街の平和のためにご活躍ください」


「おぉ。お主の心遣い非常に感謝する。5万もの人たちの幸福と安穏は我が双肩にかかっているからな!ははははは!」


「もちろんでございます、衛兵様。これからもどうぞよろしくお願いいたします」


「うむ。よし。おーい!この荷馬車は入っていいぞ!!」


検閲が終わり、号令が発せられ、俺たちは街の中へ入ることを許可された。



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