聖女の紋章 ~公爵領の魔法幼女は女神の紋章を持つ転生者 ~

I。ランド

はじまりの章

はじまりのお話

瞼を開けたのに

そこは、暗闇の中。

一度は、言ってみたい「知らない天井だ」さえも言えない状況です。

真っ暗な場所でわたしの体を包んでいるのは、ちょうどいい温度のお風呂・・・ というか液体に包まれています。


「どうして こうなった!?」





ガチャ


「うわっ! なに女の子同士で抱きついているんだ!」


「あれ?店長お疲れ様でーす。

今日のお休みも農作業ですか?

それにしても、つなぎがとても汚れて・・・」


蝉の合唱もなくなり、夜には鈴虫の子守歌になる今日この頃。

ガチャっとファミレスの休憩室のドアを開けて入って来たのは、頭にタオルを巻き、車の整備士が着るようなつなぎを泥だらけにして、長靴をはいたまま入って来たのがここお店の店長様です。



**********************************


わたしは、高校3年生で私立の大学の推薦入学が決まっています。

春の卒業旅行のため親友と、ファミレスでアルバイトをしています。

その親友は、高校一年生から同じクラスでバイトも同じ、その名は結衣。

わたしの肩くらいの身長で、女性も二度見するほどの見事な双丘。学校では、告白する男子を先輩後輩関係なく、一刀両断する強者です。


わたしの名前?あ!そういえばまだでしたね。

陽菜。お母さんが名付けてくれて、とても気にいっている名前です。

恥ずかしながら、このファミレスの“看板娘”とクルーのみんなに言われています。

看板娘と言われていますが、家族以外の男性が苦手で、口数の少ないわたしには、愛嬌よくお客様と会話する、結衣の方がよっぽど看板娘だと思っています。


**********************************


さて話を戻します。


仕事が終わった、わたしと結衣は、今日お店であった出来事を、ああでもない、こうでもないと話をしていました。


「12卓に座ったお客様が格好よかったよね?陽菜。」

「うん。そうそう。24卓のお客様は、魔法、剣、紋章など今流行のラノベ?の話をしてみだいだよ。

その若い男性達、ずっと陽菜の方をチラチラとみていたよ」

「え?そうなの?

この間、神話の話で盛り上がったからかな?」

「いやいや、陽菜あなたね、今まで告白とかされたことないって言っているけど、

『孤高の女王様』って学校で呼ばれているのよ?」


「え?そうなの?初めて聞いたよ」


「あのね。

カラスの濡れ羽色でさらさらとした髪。

綺麗な大人の女性を思わせる切れ長な目と長いまつげ。

すぅーっと通った鼻。

薄くてキリッとした唇。

モデルのようなスラッとしたスタイルに、男どもを寄せ付けないオーラ。

それが、陽菜なのよ!」


「あははは。どこにいるの?

そんな陽菜ちゃん」


「ここよー!」


結衣は、わたしに抱きつきました。




そこに、今日は休みの店長が、黄色の汚いつなぎを着て超絶笑顔で休憩室に入って来たのです。



「おお! 陽菜と結衣か。

二人とも、大学の進学が決まったからと言っていつまでもダラダラと休憩室でイチャイチャするな」


「いやいやいや。そんなイチャイチャしません。

それよりも店長、わたしの質問にも答えてくださいよ。

そんな泥だらけな服でここに、来ないでください。

また、スローライフごっこですか?」


わたしは、アルコールスプレーを店長に向けて発射しています。

あくどい顔をしているのが、自分でもわかります。


「陽菜。アルコールを店長にかけても綺麗にならないわよ」

そう言う結衣も、店長にアルコールを発射しはじめました。


「結衣。違うの。綺麗にするためじゃなくて、店長を消してしまおうと思ったの」


「おい陽菜。俺は、雑菌やウィルスか?」

アルコールだらけで、利き腕をあげた店長は、口角を上げています。

あげた手をみて一瞬ピクッと反応してしまいましたが、あげた腕は握り拳で。

しかし店長の口角が上がっているので、本気で怒ってはいないようです。


「え?

店長って、ばい菌じゃないのですか?」

結衣は、すっとぼけた顔。


「ばいばいき~ん って俺は、ばいきん○んか?」


「「え?違うの」」

ノリツッコミの店長に対して、わたしと結衣の突っ込みがあわさりました。


「あはははは」

顔を見合わせ、笑う私達に、

店長は、段ボールから、ある物をだしながら

「せっかく、有機栽培で作ったブドウや野菜を配ろうと思っていたが、渡すの辞めるわ」

店長は顔を斜めにして口を尖らせました。

まるで ふん っと言っているようです。

(子供か!)


そんなふくれ面の店長をみて結衣は低い声で

「ねぇ店長。

アルコールで濡れている服に火を近づけてもいいかな?」


(え?結衣。目が真剣で怖いよ)

と考えていると


「結衣。お前・・・ 俺がそんなに嫌いか?

火だるまになってしまうわ!」


そこには、点火棒(キッチンでガスレンジの種火をつける道具。チャッ○マン)を持って、ニヤリと闇の笑顔を作る少女が、ゆっくりと一歩一歩店長に近づいているのです。



閑話休題


その後

わたしと結衣は店長のご機嫌をとって、ブドウなどをゲットしました。

どうやら店長は、もう一人親戚の方を連れて、祖父母の住む田舎に行って、スローライフを週に二日ほど楽しんでいるようで・・・

いままでにも、農作物や畜産の育て方や、手作りした石鹸や、何故かアルコールの造り方や漂白剤の作り方など散々説明を聞きました。

時間がとられてものすごく迷惑ですが、ブドウと野菜をいただきました。

店長は数年前から、日曜夕方にアイドルグループがやっている○○○○村の番組をみてスローライフに憧れたとか。

店長の育てたお野菜は、かたちは悪けれども、味が濃いと言うか風味が強いので、家族の間でも大人気です。


「じゃ。時間も遅くなってきたし、親戚も待たせているので、俺の車で送ってやるよ」

店長は、休憩室のドアを開けながら私達に声をかけました。


「車の中が泥だらけじゃないなら送ってもらってあげます」

真顔で結衣が、

そしてわたしが

「今日は荷物が沢山あるので助かります。

車のシートが綺麗なら送ってもらっていいですよ」

とちょっと上から目線で。


店長はアメリカ人のよう両手をひろげて

「お前ら本当に送ってもらう人の態度じゃないわ。

車泥だらけかもしれんけど」


「「じゃ。いいです」」

わたしと結衣は声がハモってしまいました。


「いやいや、もう遅い時間だから送っていくよ」


「誰かが一生懸命、有機栽培の野菜と果物の話とか、海水に電気を通すとなんとかと何時までも説明していたから遅くなったのよ」

皮肉一番に結衣が店長を指さしています。


「ああ。すまん。だから送って行くって言っているじゃないか」


「わかりました。そこまで言うのなら送ってもらいます。

車は、お店の駐車場ですか?」


「いいや。従業員駐車場だ。

車をここに移動してくるからちょっと待っててくれ」

店長はお店から出た後すぐに説明し、車に向かおうとしました。


「店長。ちょっと待ってください。

どうせ、信号のある交差点の先なので、私達も車まで行きますよ」


結衣の言葉に続きわたしも

「そうです。店長。

お野菜をもらったうえに、そこまで、させるわけにはいきません。

一緒に車まで行きましょう」


「おお。そうだな。陽菜は、以外と常識知っているようだな」


「ええ。泥だらけの服で、飲食店に入らないだけの常識は、私も陽菜にもあります」


「うっさいわ」

といいながらも、店長は笑っています。


(店長はもしかしたら、ドMで、しかも結衣のこと好きなのかしら?)


結衣と手を繋いで、彼女無しの店長を揶揄いながら横断歩道を渡っていると、わたし達に向かってきて、手を振る人がいました。

店長もその人に向かって手を振っているので、一緒にスローライフしている親戚の人かな?

わたし達は、信号が青に変わったので、手を振る店長の親戚の方に向かって一歩一歩と踏み出しました。

反対側で信号待ちしていた人も、口角を上げて手を振りこちらに、軽い足取りで向かっています。

あと少しで、出会う瞬間!

右から、クラクションを鳴らしながら、ヘッドランプが上向きになっている暴走トラックに気づいたのです。

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