1章 友 〜前編〜

祖父が亡くなってから半年以上が経ち、僕は二年生に上がり普通の生活を送っていた。

変わったことと言えば、僕の家がマンションから祖父の家に変わったということだ。

元から家が近かったからなのか、遺産の内の一つなのかは定かでは無いが、遺産整理が済んだ少し物の減った寂しい家に入った時、僕の心も少し寂しい気持ちになった。

しかし、入った時の懐かしい香りのおかげですぐに落ち着きを取り戻した。


僕の部屋は祖父が一番使っていた書斎だった場所にしてもらった。この部屋には祖父の大事にしていた本や一緒に遊んでもらった将棋盤、祖父との思い出が沢山詰まっているから、どうしても欲しかった。

親も僕が祖父を大好きだと知っていたから快く了承してくれた。


そんな、祖父の思い出が詰まった部屋に流れる雰囲気にそぐわない軽快なアラームで目を覚ます。

パジャマ姿のまま家族が座る食卓に向かう。

おはよう。と挨拶を交わして椅子に座ると和風の落ち着いた雰囲気の台所にこれまたそぐわない

スクランブルエッグにソーセージ、バターがたっぷり塗られたトーストが並べられていた。

いただきます。と手を合わせて呟くと、それらを口いっぱい頬張っていく、鼻から抜けるバターの香りがとても心地よく食欲を唆る。

洋食は好きだが、ふと顔をあげると広がる景色はやはり和食を想像させられるだろう。


数分かけて食事を済ませて洗面台で歯磨きと顔を洗う。

部屋に戻り、ハンガーに掛けていた制服を着て、鞄の中身をチェックし家を出る。


学校まで十分弱で着くので、ゆっくり向かう。途中家の前を毎日掃除している方が居るのでいつも通り挨拶していつも通りの歩幅で歩く。

校門には、服装や髪型を点検するために生徒指導の先生が居て、挨拶をしながら横切る。

いつも思うが、決して自分の服装や髪型が問題ないのは重々理解しているが、何故か呼び止められそうな気がして横を通る時ヒヤヒヤする。


いつも通り、自分の下駄箱で上靴に履き替えて

自分のクラスに向かう、少し大きめの扉を引き入ると一瞬クラスにいた人間の目がこちらに向く。

僕はこの瞬間が好きだ、集団で敵を威嚇するかのように振り向く様は面白く感じる。

一秒にも満たないであろう時間こちらを向き誰なのか確認したらまた談笑に戻る。


僕は自分の席に座り教科書を机の下にしまうと同時に一冊の本を取り出して読む。

タイトルは【月と星の王子と夜の姫】

内容は月と星、ふたつの国の王子が夜の国のお姫様に恋をして自分のものにする為に国同士の戦いが起きるというお話。

一見SFチックだが、各々の人間の本質的なものが見れて僕は好きだ。


本を読んでいると、目の前の机に乱雑に鞄を置く音が聞こえて、ガタガタと椅子を引く音が聞こえる。

「おはよう!」と椅子を反対に座り勢いよく声をかけてきた。

少しすると離れた席からもう一人大人しそうな男が近づいてきて「ういっす」と軽く手を挙げて近付いてきた。

「二人ともおはよう。」僕はそう返してまた本に意識を向ける。


勢いよく話しかけてきた男は龍。

大人しそうな男は優樹。

この2人は小学校からの幼なじみだ。

龍は所謂リーダータイプの性格で、正義感が強く困った人を何があっても助けたいという意思がある強い男だ。それ故に周りが見えずに空回りすることもある。

優樹は打って変わって無口で口下手だ。勉強も運動も出来るが人と話すのが苦手な為に昔虐められていたが、そこを龍が助けた事により友達になった。ただそのためか龍を神格化してる様子も伺えるのが怖い時もある。


二人と話しながらも本を読んでいると、龍が少し険悪な感じで「てかさぁ、聞いてくれよ。」と

言ってきた。僕はまたどうせ大した事じゃないだろうと思い本から視線を動かさず「どうしたの?」と答えた。





まさか、僕達があんなことになり

自分が最低な人間だと気付く

いつも通りの毎日にはならないと言うことを

知らずに。

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