情
明星 とばり
序章
夏の暑さが消えて涼しくなってきた秋
母のスマホに一本の連絡が入った。
電話に出ると少しづつ表情が曇っていく母の顔を今でも覚えている。
内容は、入院していた祖父が亡くなったとの事。
僕は開いた口が塞がらず、それ以降の話は一切耳に入らないくらいの衝撃を受けた。
僕は所謂、おじいちゃん子だ。
家が共働きだった為、学校が終わると近くに住む祖父の家に行き遊んでもらっていた。
僕は祖父が大好きだった。
祖父は、自分の子には厳しく、孫には甘い、典型的なおじいちゃんだった。
奥さんである祖母を先に亡くし一人で暮らしていたからこそ、一番近所で毎日遊びに来る僕を可愛がってくれた。
そんな祖父は、僕がまだ小学生の頃から昔の話を良くしてくれた。その時、いつもとある言葉を言っていた。
「人の情は直ぐに心が移り変わりする。」
小学生の僕には何を言っているのか分からなかったが、ふとした時詳しい話を聞いた僕に祖父は優しく笑い
「大人になったら分かる。」
「でもいつか、役に立つ時が来るから。」
と返していた。
しかし、大人になる前にその意味を理解した
それも、この言葉を教えてくれた祖父に関しての事でだ。
祖父の葬式には沢山の人が参列した、沢山の人が涙を浮かべ優しい顔のした祖父を記憶に残すように見ていたのが、まだ中学一年の僕にも分かった。
祖父はやはり凄い人で皆から愛されてると感じた。
火葬の際は、涙を流す母や親戚を見て、やはりどれだけ喧嘩しても言い合ってても親子なんだと幼いながらに感じた。そして僕も大好きだった祖父を涙を流しながら見送った。
ここで終われば、僕が祖父の言葉を理解するのはまだ先だったかも知れないし、もしかすると忘れていたかもしれない。
祖父を見送った数日後、僕の母やその兄弟は祖父の家に集まった。
そこには、知らないスーツの男も居た。僕達子供は別の部屋で待ってるように言われ各々ゲームをしたり動画みて時間を潰していた。
僕はふとトイレに行きたくなり部屋から出て親達が話している部屋を横切りトイレに行った。
帰りに、少しだけの興味本位で話してる所を覗いて見た。
僕は祖父が亡くなった時以上の衝撃を受けた。
そこに映ったのは少し前に祖父を思って涙を流していた人間が集まってるとは思えない光景だった。
全員が全員を睨みつけて、聞こえるのは怒号。
いつでも食らいつくぞとばかりに前傾姿勢で
「俺が一番親父を看病した!」と怒鳴る普段は優しい叔父さんや、
それを聞いて机に手のひらを叩きつけ
「近所に住んでて、沢山物を買って行ったりお金を使ったのは私!」と普段見ない母の姿。
その他の親戚も矢継ぎ早に自分が如何に父親の生活に貢献したかを怒鳴り散らかしていた。
僕にはその姿がまるで、鬼が祖父の遺体を引っ張りあって誰が先に食すかを決めているように見えた、その姿に恐怖した僕は足早に子供達の部屋に戻った。
その後の事はあまり記憶にないが何も無く過ごしたと思う、そこから数時間後話し合いが終わり各々が帰り支度をしている時、少し離れたところに知らないスーツの男が居た、僕は歩み寄って話しかけた。
車に乗り自分の家に帰ってる時の車内はまた誰かが亡くなったかのように重たく、僕からは一言も話しかけれられなかった。
僕はスーツの男の人との会話を思い出した。
「こんにちは、お母さん達はどうしてあんなに喧嘩してたんですか?」
「君は…次女の子供さんか!おじいちゃんから君の事はよく聞いていたよ。お話聞いちゃったんだね。」
「君のお母さん達はね、おじいちゃんが残したお金を分ける為に話し合いしてて喧嘩になったんだよ。君には難しいかな?ごめんね」
「どうして、この前まで悲しんでたのに。少し前に死んだばっかりのおじいちゃんの事であんな喧嘩できるの?」
「君も大人になったら分かるよ。どれだけ悲しくてもお金のことになると人は変わるんだ。」
そう言って、僕の頭をわしゃわしゃとした男の人は立ち去っていった。僕はその背中を見つめながらボソッと一言呟いた。
「大人じゃなくても分かりましたよ。じいちゃんから散々教わってきたので。」
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