虫たちの王になる話 by sh

 小さい頃から虫が好きだった。飛蝗や蟻、蜻蛉、みんなはあの見た目からか、毒などに対する恐怖からか、あまり近づくことはないよね…。でも俺はそんな虫の見た目や生態がすごく好きだ。ただ……、この世界の虫たちはなぜかめちゃめちゃ大きいし危険だけど。

 ガサゴソガサゴソ

……俺は今茂みの中で隠れている。なんで隠れているかって?それはね……。

「うわ~!大きいな~!」

森の中にいる巨大な虫の魔物を見るためである!え?魔物とか危険だろって?虫見るために危険を冒すとか頭おかしいって?いいかい君たち。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」っていうだろう?それくらいのリスクを負ってもこの虫たちを見る価値は俺にとってはあるのだよ!見たところあの虫たちはジャイアントアントみたいだね。全長70㎝はあると思われる巨大な胴体!とげのついた脚!そして丈夫そうな大顎!…まあ見た目は名前から察することができると思うが要するにでかいアリである。この世界にきてまだ3日もたっていないが、こんなのにあえるとはなかなかについているな!

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……え?この世界にきて3日もたってないってどういうことかって?話すと長くなるけど要するに巷でうわさの「異世界転生」ってやつなのだろうか。まあ死んではないんだけどね。いつもどおり大学の午前の講義を終わらせてコンビニに昼飯を買いに行ってたんだ。そしたら路地裏のほうに1メートルくらいのかなり大きな影が見えたんだ。俺はもちろんその影が何か気になったさ。もしかしたら珍しい生き物かもしれないだろ?

だがそこにいたのは予想をはるかに超越した生き物だった。そんじょそこらの珍しい動物とかではない。それはとんでもなくでかい……バッタだった。そうみんなが小さいときに捕まえてた草の間を飛び回るあの「バッタ」だ。そんなにすごいのを見つけちゃったら追いかけるしかないよね。そのときの俺も迷いなく追いかけた。路地裏の奥の方へはねていくその生き物を。追いかけて……追いかけて…気づけば草原にいた。

さっきまでいたはずの町とはまるで違う、見渡す限り広がる大草原。俺の知っているあの町にこんな景色は広がっていない。

そのとき初めて気づいたんだ。自分の置かれている状況に、この異常すぎる状態に。そこからは必死に周りを走り回って誰かいないかと叫んで……6時間くらいそうしていたかな。気づけば夜になっていた。周りは静まり返り、空には今まで見たこともないような美しい景色が広がっていた。

「ああ…きれいだなあ」とか思いながら現実逃避。

……―ガサガサ…ガサ……

周りからなにかの音が聞こえる。まあそうだよね。この素晴らしい大自然、生き物がいないわけがなく……。気づけばまわりは赤い点に囲まれていた。うっすらと見えるシルエットから狼?みたいな動物だと分かる。その中のすべてが俺を見てよだれをたらしている。こいつはやばいですぜ!こいつら俺のこと餌としか見てませんぜ!あ~俺ここで死ぬのかな~、母さん生んでくれてありがとう、とか思っていると声が聞こえてきた。

「おいあんちゃん!早くこっちまで走れ!」

声の方向を見ると、そこには明かりに照らされた数人の人影が見えた。

 それからは、俺を助けてくれた親切な人たちの家にかくまってもらっているというわけだ!思い返せばいろいろあったなあ。前の世界ではただ大学に通って、出会いもなく、講義に出席する以外の外出はほとんどない、家でゲームかアニメたまに昆虫の図鑑を眺める日々だった。両親は二人とも病気で死んでしまった、言ってなかったけど…。正直元の世界に未練はない。ここにきてよかったかもしれない!

「キ゚イイ、ギ、ギイイイイイイ!」

ん?なんですか?

「ギイイイイイイイイイイ!」

あ、これヤバイかも、たぶんジャイアントアントにばれた。

「うおおおおおおおおおお!」

とりあえず逃げる!森の奥の方へ!ジャイアントアントは移動は速いが目は悪いらしい。だからとにかく視界の悪い方へ逃げるのです!バキバキ!メキッ…!すぐ後ろから木々をなぎたおす音が聞こえる。大きいといっても70㎝ほどである。それなのになんで木をなぎ倒せるんですかねえ?

 しばらく走っているといつのまにか後ろからの音は聞こえなくなっていた。どれだけ走ったんだろうな~、とんでもなく疲れた。俺こんなに走れたんだね。ちょうど目の前に洞穴が空いた大木があるしここで一旦休ませてもらいますかね。

……ん?なんか落ちてる。

洞穴の中にはかすかに光るアクセサリーのようなものが落ちていた。腕輪かな?腕にはめるものらしい。だが形が奇妙だ。まるで何体もの虫を合体させたかのような見た目をした飾りがついている。俺は見た目的に好みだと思うが他の人はどう思うのだろうか……。まあ落とし物だし、貰っちゃってもいいかな?腕にはめてみる。なかなかに見た目はイイね!それじゃそろそろ帰りますかね!帰り方知らんけど!……うん……迷った。これが遭難というやつだろうか。

―ガサッ……!ん?

「キイイイイイイイイイ!」

「あっ、こんにちは~ジャイアントアントさん。お元気ですか~?それじゃワタクシはここら辺で~。」

「待ちなさい!」

待てって言われて待つ人なんていな……ん?なんかこいついま喋らなかった?

「あのーもしかして喋れる方ですか?」

「話してるじゃないですか」

普通に話せますね、すごいです。なんで?

「なぜあなたは、話せるんですか?」

「その腕輪しているくせに何言っているんですか?」

腕輪?この拾ったやつ?これと話せることと何の関係が?

「その腕輪の持ち主はですね、すべての蟲系の魔物と会話およびテイムできるのですよ」

マジで?そんなことができるの?俺最強じゃない?つまりは虫たちで軍団を作ることも可能ってことでしょ?

「あなたはわたしをテイムしますか?」

「そりゃあしたいですよ!ぜひとも!」

こんなにうれしい話があるか?虫好きにとってはまさに最高級の喜びといっても差し支えないですよ!

「あなたはワタクシたちをいやがらないのですか?」

「え?」

「昆虫類や虫は人間たちには嫌われることが多いのです。この腕輪の元の持ち主もワタクシたちのことを嫌悪していたみたいです。だからその腕輪を捨てたのでしょう。それでもあなたはこの腕輪の持ち主となり虫たちとかかわるのですか?」

なるほど…確かに虫が嫌いな人は多い。虫が大丈夫な人も少ないのに好きな人なんてかなりの少数派だろう。この腕輪も長いこと放置されていたのだろう。なんせこの見た目だしね。

それでも……。

「俺は虫が好きだし会話ができるのであればぜひとも会話したい。君たちが嫌じゃないのであれば俺が新しい腕輪の持ち主になる。」

「本当に、よろしいのですね」

「ああ」

「ではあなたを新しい蟲王の腕輪の継承者とし、我ら蟲魔族の主とすることを認めます!」

ん?なんか話が大きくなってない?俺今から虫たちの主になるの?ていうかこの腕輪そんな名前だったのね。

まあなってしまったものは仕方がない。この世界に来てまで目標もなくフラフラ生きるのも嫌だしな。俺は今から虫たちの主なんだ。とりあえずは仲間を集める旅をしたりするのもいいのかもしれない。

でもまずは。

「ごめんこの森から出してくれない?」

「まさか迷っていたのですか?」

そのまさかなんですよね。なんせこの世界に来てまだ3日も経ってないし。

「はあ、仕方がないですね、行きましょう。」

このあとこの森にいたジャイアントアントをすべて仲間に引き入れた。とりあえずは第一歩ってところかな。一体どれくらい頑張れば一人前の虫たちの主になれるかな…。さて、俺をかくまってくれた親切な人たちにお礼をしないと。挨拶をしたら早速旅に出ますかね。

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