あるのかな by シリウス
目の前で虫が死んだ。
さっきまで動き回っていたけれど、襲われて食べられた。当たり前の景色なのに、気分が揺れ動いている。
「日々を過ごしていく中でこんなことはなかったのに…」
もやもやとした気持ちの抱えたまま、気がついたら学校が終わっていた。
「急いで帰らないと」
帰っている最中でも、目の前で起きたことが脳裏に焼きついて忘れられない。別のことを考えて忘れようとしても、消えてくれない。なんで忘れられないんだろう。
そうしていたら、家に着いた。
「ただいま!」
大きく声をあげることで多少気を紛らわせようとした。
「「おかえりなさい」」
父と母が同じタイミングで返事をした。相変わらずの仲の良さだなと思った。そういえばもう夕食の時間だなと時計を見て気がついた。
「今日の夕食ってなに〜?」
そう言うと、すぐに
「今日は白身フライよ〜」
という声がリビングから返ってきた。このもやもやとした気持ちはわからないけれど、とりあえずは白身フライを美味しくいただこう。
夕食を食べ終わり、部屋でごろごろしながら死ってなんだろうと思っていたら、
「お風呂沸いたよ〜」
という声が小さく聞こえてきた。
「は〜い」
と返事をしてからお風呂に入り、温まりながらさっきまでのことを考えていると、動悸し始め息も荒くなってきた。それは、死というものが怖くなってきたからだ。
人が死ぬとどうなるんだろう、魂というものがあれば魂はどこへいってしまうのだろう、死後の世界というのはあるのだろうか。
そんなことがふとした拍子に思い浮かんできた。そして、思い浮かんできたこの考えこそが僕を震え上がらせた。
怖い…ただそれだけが今の僕を縛り付けている。
この世界がなくなってしまったら、魂はどうなってしまうのか。魂というものがあるのなら、あらゆるものに宿っているのか。はたまた特定の一部にのみ宿っているのか。死んだら生まれ変わるということはあるのか。意識はどこからくるのか。死んで、生まれ変わるのを何億何兆以上も世界が終わるまで繰り返したとしても、世界が始まった後に生まれ変わるか、それとも並行世界で生まれ変わるのか。
考えるつもりがないのに、考えてしまう。より深く考えてしまう。
温まっているはずなのに、鳥肌が止まらない。
さっさとお風呂から上がって寝てしまおうと思い、立とうとするが、足が竦んで立ち上がれない。
深呼吸を何度かしてみると、動悸が治まってきた。
「お風呂から上がったよ〜」
親に心配させたくなかったから、いかにもいつも通りに声を上げた。
先に宿題を終わらせてから
「おやすみなさ〜い」
と、親に言って寝ようとした。
いつまでたっても眠れない。
今までは考えたこともなかった未来に対する不安、死んでしまったあとどうなるのか。そして、それに伴うあらゆる分からないこと。
それらが眠気を吹っ飛ばすほどの衝撃を持って与えてくる。
気が付いたら、朝になっていた。
一体いつ寝ていたのだろう。そんなことを思うぐらいだったのに…。
朝食を食べて、登校していると、また、虫が食べられているところを見た。息が荒くなると思ったが、なにも起こらなかった。
一体どうしてなんだろう。
そうこうしている内に学校にたどり着いた。
授業中、昨日の光景に思いを馳せながら考えていると、あらゆるものに魂が宿っているのなら、なんで僕は朝食の時、罪悪感などを感じなかったのだろう…。
授業が終わっても悩み続けた。なんのために生きて、生きるために生き物を殺すのだろう。
今まで、当たり前だと思っていたことが不思議に思えてきた。
疑問が疑問を呼び、収拾がつかなくなってきた。
天啓のように簡単な答えが湧いてきた。
“いただきます”と“ごちそうさま”
この二つの言葉は昔の人たちが感謝のために考えたことを表した言葉だけど、生きるための言葉だということに気が付いた。
それでも残っている疑問がある。家に帰ったら親に聞いてみよう。
学校が終わり、家に着くと父親に早速聞いてみることにした。
「パパ、突然だけど疑問に思っていることがあるんだ」
と言ってから、昨日と今日のことを伝えてから、
「生き物ってなんのために生きるの?」
と尋ねた。
そしたら、父親から
「それはパパにも分からないかなぁ。なんのために生きるかは、人によって別々の答えがあるんだよ。でも、その答えを得るのも人生の大きな目的の一つじゃないのかな」
と言われた。
感謝を伝えてから、父親から言われた言葉を思い出していた。なんのために生きるかは人それぞれか…。
魂の存在、生きる意味、死後の世界などなど。
それらは本当は誰にも分からないものなのだろう。おそらく分かる時が来るのは未来永劫なく、分かる時が来たらそれは人とは違う存在になっているだろうと思えた。
この世界には分からないことだらけだ。誰かがいつかは見つけることはあるだろうけれど、見つけられないこともあるだろう。
そんな世界に僕たちは生きている。
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