Episode075 ケントの健闘。恋よ、来い!(ウィスクが幻想蝶の能力で……!)

幻想蝶は俺が想定していた通り、紫色の鱗粉みたいなのを放ちながら飛翔している。

全長1mなんて、虫嫌いな人が見たら気絶すること間違いなしだろう。

前世で小学校の元クラスメイトに蝶も嫌いってヤツはいたし。

そんなことはともかく、ケントがどれだけ対処できるかが問題だな。

幻想を見せること以外に能がないといいんだが、攻撃手段を持っていたら厄介だ。

まあ、あっても毒霧がせいぜいで、無茶をすればケントでもどうにかできるはず。

もしヤバいときは俺も加勢するしかないが。

とりあえず、リスクがないとは言えないし、『幻想無効』をケントにかけるか。


「そんじゃ、まずは一匹目!」


俺の魔法を受けたのを察したケントは、一番近くにいた幻想蝶に斬りかかった。

すると、特に唸り声を上げることもなく、キレイに胴体を真っ二つにしたらしい。

ケントの剣の腕って、騎士団とかに採用されてもいいレベルだと俺は思うんだが。

ただ、彼がそういうのはガラじゃないって理解してるつもりではある。

斬り伏せられた幻想蝶が翅と魔石を残して消えたのを確認すると、ケントは俺に。


「おいアヅマ! マジでお前の魔法はサイコーだぜ!」

「そりゃどうも。俺はもう都合よく魔法を創れるからな」


ケントの言葉を受け流し、俺は残っている幻想蝶が何匹いるか数える。

だいたい15匹くらいらしいが、ケントの戦闘能力ならすぐにどうにかなるな。


「おーし、すぐに終わらしてやる!」


ケントは勢いよく駆け出すと、次々と幻想蝶を切り伏せていった。

しかも、その幻想蝶全員が翅をドロップするから、何をどうしたら狙ったアイテムがドロップするのか知っているんだろうかとすら思えてしまう。

そのまま俺が何もしないでボーっとしていると、もう最後の1匹を斬るところに。

もう少し捻りが欲しかったなあとヤバいことを考えながらその光景を見ていると。

ブシュッ。

……嫌な音を放って、ケントが斬った直後の幻想蝶から気体が出てきた。

見た目は毒霧なのだが、『解析』曰く、幻想を見せる霧らしい。

毒じゃなくてよかったと安心していると、俺は一つ気が付いた。

まだ俺は『幻想無効』を自分に使ってなかったのである。

しかも、危ないところだったなと内心でホッとしてから、俺は更に気が付く。

俺よりも前に立っているウィスクさんにも使ってないということだ。

マズいと思い、魔法を発動させようとするも。


「ウィスクちゃあああん!」


ウィスクさんは、既にその霧に包まれてしまっていた。

え? コレってこれからどうなるの?

効果をどうにかする魔法なら創れなくはないのだが、ケントの為にも少し様子を見てみるとするか。

もしかすると、両片思いだという決定的な証拠が見つかるかもしれない。

それにしても、霧が降りかかってきたとき、かなり無抵抗だったような……。


「おいアヅマ! お前ならどうにかできなかったのか!?」

「待て待て。アレは毒霧じゃなくて、ただの幻想を見せる霧だよ。どっか行っちゃうかもしれないし、2人で捕まえておけば問題ないさ」


まだ何も知らなくて俺を問い詰めに来たケントを宥め、ウィスクさんを見る。

霧を食らってからは無言になってしまっているが、何かあったんだろうか。

『解析』をウィスクさんに使ってみると。


「……おー、どうやら、何も問題ないみたいだぞ」


俺はケントが『解析』を使えないことを前提に黙った。

理由は簡単で、面白くなりそうだからだ。

ウィスクさんが浴びた今回の霧に込められていた効果が『恋衝動状態(恋愛対象として好きな人と手を繋ぐまで解除負不可)』とのことで、どうやら、好きな人がいるとその人とくっつきたがってしまうという、幻想とか幻惑の類なのかと言いたくなるような感じになっている。

まあ、ソレでもしケントにくっついた場合、ケントは完全に勝ちとなる。

逆にそれで解除されなかったら、俺からすると冷や汗モノなんだが。

さて、ウィスクさんはどうするか……。

と思っていると、頬を火照らせてぎこちなく動くウィスクさん。

どうか、俺の方にだけは来ないでくれ……!

そう願いながら、俺はそっと目を閉じたのだが。


「……ちょッ!? 急にどうした、ウィスクちゃん!?」


その数秒後、ケントの立っていた方向から、驚き半分嬉しさ半分な声が。

……まさかこんなすぐにケントの勝ちになると思いもしなかったが、もしかすると、ヘルメの代わりに新しく就任した同じような神様がいるのかもしれない。

あと、流れで恋人繋ぎをしてしまったらしい彼は、自分の愚かさを呪うことになる。

そのままその霧の効果が切れ、ウィスクさんが正気を取り戻した。


「あ、ああ、あああ……!」


直後、自身がどういう状況に陥っていたのか自覚していたらしいウィスクは、真っ赤にした顔を両手で覆いながら、その場にヘナッと座り込んでしまった。

その様子を見た俺は、ケントにウィスクの霧について説明する。

すると、ソコにケントまで座り込んでしまった。

もうケントの恋が両片思いで確定したのを確認した俺は、少しホッとしたのだった。


次回 Episode076 ケントの恋の顛末

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