Episode074 臨時パーティーと幻想蝶とケントの行動

『思念通達』でざっくりとしたことを伝え、俺はケントたちと掲示板から良さそうなクエストを探している。

今日はできるだけケントに見せ場を譲りたいってことで、俺は極力戦わないようにしたいところだ。

というか、今日中にこの件を片付けられるようにしたいんだが。

チームワークが必要なクエストにすべきかもしれない。

それとも、その魔物の習性に頼らさせてもらうか。

とか思いながら掲示板を眺め続けていると。


「……ん? 『幻想蝶の討伐』?」


どっかのタイミングで宝石人形を討伐した日に、カミナスが薦めてたヤツか。

確か、コイツの翅はキレイな洋服にしてもらえるとか言ってたよな……?

……俺の、というかケントの勝ちだな。

俺は未だいいクエストを発見できていないケントに近寄り、計画を耳打ちする。


「……なあ、ちょっとムズいクエスト受けることもウィスクさんにプレゼントをあげることもできるクエストがあるって聞いたら、ケントはどうする?」

「……詳しく」


俺の話を聞く姿勢になったケントと掲示板から距離を取り、俺は手に持った『幻想蝶の討伐』の紙を見せながらケントに話を続ける。


「コイツなんだが、ドロップする翅は服にしてもらえるそうなんだ。ソレをウィスクさんに渡したら……どうなると思う?」

「ハッ! ……女誑しの二つ名は伊達じゃねえな」


……そんなこと言われても。

少なくともヘルメありきだったんだから、あまり気持ちのいい言われではない。

女誑しと呼ばれる分には不快ではないのだが。


「コイツは危険なんだが、俺が臨機応変に『魔法創造』で魔法を創るから、それでどうにかできそうか?」

「……やっぱりお前はチート野郎としての上限がないのな」


呆れ半分驚き半分でそう言ってくるケントは、かなりワクワクした様子だった。

チートでハーレムな俺は何をしても成功すると思われているのかもしれない。

まあ、そんな頼られ方をされるのも、たまには悪くないだろう。


「それじゃあ、コレでいいか?」

「ああ、よろしく頼んだぜ、相棒」


相棒になったつもりじゃないんだがとツッコもうとしたが、野暮だと思いやめる。

なんだかんだで男冒険者の中では一番頼りにされてるってことなんだろうし。


「ウィスクさん、いいクエストがあったんで来てくれ」

「はい。どんなクエストでしょうか?」


……ケントの恋を叶えるクエスト、とでも言っておこうか。



俺たちは現在、幻想蝶の出現する区域に来ている。

幻想蝶の所為でこの森で迷い人になる人は少ないらしく、ソレは多くの冒険者たちにとっても同じことが言えた。

だから、『幻想蝶の討伐』の紙には、10個もの『死んだ冒険者の数スタンプ』が押印されている。

ソイツ等は行方不明になったんだろうが、今の俺がどうにかできないワケがない。

そもそも、精神生命体にそういうのは効かないと思う。

ちなみに、今回創った魔法は『幻想無効』である。

他に必要になるようだったら創るだけだし、何の問題もなく討伐できそうだ。

本当はケントだけの手でどうにかしてほしいのだが、幻想蝶の特性が分からん以上は俺の魔法で対抗するしかないのである。

……ちなみに、待ち始めて既に数分が経過したのだが、もう俺の創る魔法でおびき寄せるべきだろうか。

どこぞの駄女神じゃないんだから、そんなことでヤバいことにはならないはずだ。

俺はじれったくなり、ケントとウィスクさんに訊いてみる。


「なあ、もう魔法でおびき寄せていいか?」

「アヅマがいいって言うんなら、俺としては問題ないぜ」

「私も、もう戦える用意はできています」


剣を構えているケントと杖を握りしめるウィスクさんも、問題ないらしい。

さて、幻想蝶はどれだけ俺を楽しませてくれることやら。

俺はそう思いながら、『魔法創造』で創った魔法『魔物集合』を使う。

……狙った魔物をおびき寄せるという効果にしてあるが、もしかすると幻想蝶以外の魔物が来る可能性があるのが怖いが。

それから30秒足らずで、どこからか何かが近付いてくる音が聞こえてきた。

セミとかみたいな翅じゃないからうるさくないのだが、意外と多い気がする。

今のうちに、ケントの体質を『ウィスク・ロッシュが近くにいる場合、身体能力が5倍になる』と書き加えておくとするか。


「……ん? なんだか身体が軽くなったような……?」


俺が書き加え終えると、すぐに効果が出てきたらしい。

剣を調子よく振る姿を見ていると、5倍はやり過ぎだったかと思えてしまうが。

そして、ケントは俺の方をドヤ顔で見ながら親指を立ててきた。

ケントがドヤ顔するのは分からんが、俺がやったことだとすぐに気付いたんだろう。

まだ俺が『性質操作』を使えることは言ってないはずなのだが、彼も勘のいいガキなのかもしれない。

それとも、テルネモの事件が新聞で報道されたときに書いてあったのかもしれない。

あの事件にはもう不必要に触れたくないという俺たち13人の意見で、もうあの日以降のことは知らないんだよな。

それはともかく、俺も親指を立て返してやると、ケントは剣を構え直し。


「よっしゃ! 久々のクエスト、やってやろうじゃねえか!」


堂々と言い放ち、飛んでくる全長1mくらいの紫色の蝶と対峙するのだった。


次回 Episode075 ケントの健闘。恋よ、来い!(ウィスクが幻想蝶の能力で……!)

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