Episode076 ケントの恋の顛末
ドロップ品を残さず回収した俺たちは、王都に帰っているのだが。
「……先ほどはすいませんでした……」
「お、おう。あんま気にすんな」
……2人の距離が余計に離れちゃったような気がするんですが!?
俺としてはくっつける作戦だったのに、どうしてこうなった……。
まあ、幻想蝶の翅で服を作るところで挽回できるかどうかがカギかもな。
他人事のように考えながら、手の甲が触れる度にビクッとする2人をニヤニヤ眺めている俺なのだった。
*
「クエストお疲れ様でした! 報酬と売却金の合計で、15万テリンになります!」
俺たちはそう言われ、目の前の金貨を受け取ってその場を去った。
10人も死んでいた所為か報酬が高かったが、今回は2人で山分けしてもらう。
本当なら「結婚準備金のことがあるからな?」って言って茶化すのもアリだと思っていたのだが、2人がやたらと互いを意識してしまっているからできない。
それはともかく、これから例の店に行こうとしている。
幻想蝶の翅を服に加工してくれるところだ。
前に紹介してもらったいいところで、100種類以上の品物に加工してくれるらしい。
それはケントの恋を叶える上で必要だから、分かっていると思っていたのだが。
「なあ、今から幻想蝶の翅を……」
「……悪ィが、ちょっと2人きりにしてくれねえか?」
どうやら、当事者である2人の中で情報整理がしたいらしい。
それは、恐らくバレていないであろうケント自身の想いを明かす行為に他ならないのだが、彼にはそれだけの覚悟ができたってことなんだろう。
「……分かった。頑張れよ」
「ああ。お前が協力してくれたこと、ムダにしねえぜ」
俺たちは最後にそう短く交わすと、互い拳を軽くぶつけたのだった。
*
……どうしてあんなこと言っちまったんだ――!?
俺はアヅマが去る背中を見送りながら、内心で後悔している。
勿論、アイツが協力してくれたから現状にあり、それを感謝しているのは本当だ。
そんな俺だが、2人で話す勇気も覚悟も持ち合わせていない。
本当なら、ウィスクちゃんと手早く解散し、そのまま宿屋で悔しがるつもりだった。
だが、どうしてか俺はそうする気にはなれなかった。
どうやら、心の奥底の自分までは騙せないってことらしいな。
……しゃーねえ、やってやるか。
俺は軽く頬を両手で叩くと、まだアタフタしているウィスクちゃんのところに行く。
そして、一回深呼吸すると。
「な、なあ、ウィスクちゃん。クエストの打ち上げでもしないか?」
もう慣れてきたらしい自分の心臓の鼓動に気を付けながら、俺はウィスクちゃんに話しかけると、彼女は俺を見上げて顔を真っ赤にした。
……俺だって、こうまでされたら鈍感じゃいられねえ。
自惚れる気は全くないのだが、ウィスクちゃんは俺のことが好きなんだろう。
なんで両片思いだと気付けなかったのかと後悔するが、ソレは俺の落ち度だ。
なら、これから幸せにしてやりゃあいいじゃねえか。
俺はまだ確定していない未来に胸を弾ませながら、ウィスクちゃんの回答を待つと。
「……はい。しましょう……!」
まだ火照っている頬のままのウィスクちゃんは、俺の誘いに乗じてくれた。
俺はそんなに金はねえが、アヅマの分まで貰っちまったしな。
つまり、俺は値段の高い店に連れて行くだけの義務みたいなモンが……!
という思考は、俺の右腕をウィスクちゃんが掴んだことで中断された。
「高いところじゃなくて、あなたみたいな人と過ごせる、この賑やかな空間じゃダメですか……?」
俺は愛おしい少女の上目遣いに悩殺されたような感覚を覚えながらも、頷き返した。
*
昨日のケントの恋の手伝いのことを思い出しながら、今はテイニーと一緒にギルドの冷蔵庫に在庫の補充に来ている。
テイニーによる冷蔵庫の状態確認を終わらせた俺たちは、朝っぱらから飲み潰れている数人の顔見知りに近寄った。
こういうヤツ等は、意外と面白い情報を持っている時があるのだ。
だからこそ、こうして見つけたら話しかけるようにしているのだが……。
「――って感じで、プロポーズを成功させやがったらしいんだよ~。まったく、どうして俺たちにゃカノジョの1人もできねえんだ!」
「そ、それなら、朝から酒はやめるべきだと思うぞ……」
――俺は理不尽に怒り始めた大男を宥めながら、ちょっと驚いていた。
なんと、俺が帰ってから、夜の人口密度が一番高い時間帯に、酒の勢いも借りつつ、遂にウィスクさんに告白したそうだ。
当然――と言っていいのか分からんが――のように、彼女からの返答は問題なくオッケーだったらしく、俺が話を訊いたコイツ等は皆でケントを祝っていたらしい。
ケントなら、変なところでヘタレが出て、話をあやふやにして帰ると思っていた。
かなり失礼だとは思うが、彼ならそうしたハズだ。
俺の知らないところで成長してるんだなあと謎に感動しつつ、俺は『思念通達』を起動し、起きていれば通話ができるだろうケントに。
『よお、ケント。童貞卒業おめで……』
『どうして俺が一足飛びに童貞卒業するって思われてんだよ! 俺だって順序くらい気にするわい! ……というか何なんだよコレ! お前のチートだろ?』
『ま、まあ、そうだな』
適当に返した後、俺はケントと少し話し続けた。
テイニーは大男たちからケントたちの話を聞いているらしいから、しばらくは問題なかった……と思う。
ケントとウィスクさんはその夜は同じベッドで寝たものの、言っていたように順序を大切にしたいケントは、ウィスクさんとは何もしなかったらしい。
だが、本能は抗えなかったらしく、ずっとムラムラして眠れなかったんだとか。
まあ、よく理性で耐えたなと少し褒めたくなったが、それだと俺が襲わない理由も理性によつ抑制だけになってしまうので、人それぞれだと割り切って訊かなかった。
『まあ、そういうところだ。ホント、昨日はサンキューな。今度お礼させてくれ』
『ああ、頼んだよ。それじゃ、もう切るな』
そう言うと、俺は『思念通達』を遮断した。
ちょうど大男たちから話を聞き終えたらしいテイニーが、俺にも1人に1回ずつでいいからプロポーズしてくれないかと言ってくるのはちょっと困ったが。
……いつか、俺もそうするべき日が来るのかもしれないな。
そんなことを思いながら、俺はテイニーと一緒に帰路を辿るのだった。
次回 Episode077 南国地域グルーヴへ旅行!? ※何度も茶番すいませんでした
《第二部 第三章》スタート
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