第二章 ケントの夏の恋をアドバイスする話。

Episode072 友人の恋の悩み

どうしてこんなことに巻き込まれてんだ……。

俺はそんなことを頭から振り落とし、目の前の現状に俺を巻き込みおったヤツ……ケントの物憂げそうな表情の原因をどうにかしなければいけないと思考を切り替えた。



かき氷屋がかなり繁盛した翌日。

楽しかったには楽しかったのだが、正直言って疲れた。

だからと言ってかき氷を販売しないってのは反発が起こりかねないんだよな……。

まあ、俺たちのことを考えてくれる連中が多いとは思うのだが。

というワケで、俺は『物質創造(高)』と『記憶再現』を組み合わせて使い、昨日のかき氷の販売価格であった200テリンを入れると扉の開く、かき氷の入っている無人販売の冷蔵庫を創った。

金を入れないと開かない無人販売の冷蔵庫って聞いたことないけど、もしかして前世にもあったのかもしれない。

とりあえず、そこにイチゴ味とメロン味とレモン味のかき氷を30個くらい入れておけば明日まではどうにかなるはず。

今日から、毎日夏はコレに魔力とブツの供給にギルドまで行かなきゃいけないってことにはなるんだが、どうにかならないものかね。

来年までには毎日行かなくて済む方法を考えておくとするか。

という感じで、今はテイニーと一緒にギルドにソレを置きにきていた。

ギルドからはすんなり許可が出たのは、昨日の売れっぷりが知れ渡っているって認識でいいんだろう。

冷蔵庫を設置し終えて帰ろうとしていたそんな俺たちは、ギルドの酒場で酒を片手にテーブルに突っ伏していた見覚えのある背中を見て足を止めて話しかけたんだが。


「……アヅマって、本気で好きになった相手っているか?」


ハーレムの俺にはかなり理解し難い、そんな質問を投げかけてきたケント。

ただ、その悩みに悩んでいるみたいな雰囲気の友人を放っておけるハズもなく……。



「……わざわざ話を聞いてくれるなんて、ワリィな。お前だって忙しいだろうに、たかが男友達の俺なんかに……」

「いや。むしろ、数少ない男友達だからこそだっての」


長くなりそうだからと、先にテイニーに帰ってもらった後。

かなりお疲れの様子のケントは、まるで深く恋に悩んでいる男子みたいな感じだ。

おっと、あんな現実世界にも程がある日本じゃそんな顔はなかったんだけどな?

漫画とかで恋に悩みすぎた男子高生がしている顔――のイメージ――に似ているなと思った程度である。

それより、今はケントが何で悩んでいるかなんだよな……。

最初の質問から考えるにコイバナってのは確定なんだが、まずノロケ話ではないな。


「……ところで、最初の質問の答えってどうなんだ?」

「え? ……別に自慢してるワケじゃないんだが、俺はあの12人が好きなのは確かなんだが、誰が一番かとか決められない所為で本気の恋とか分かんないわ。あ、でも全員しっかり好きなんだけど、コレは本気で好きになったとは言えないよな……?」


俺が変に口ごもると、ケントは少し笑った。

もしかして、ハーレムだけど曖昧な恋をしている俺のことを嘲笑った……のか?

いや、あのケントに限ってそんなことはない。


「なんか、その答えってお前らしくていいと思うぜ。少なくとも、もうお前以降は誰も感じない感覚だろうけどな」


どうやら、俺らしい答えだったかららしい。

それとも、俺みたいになれない自分への嘲笑なのか。

そもそも俺はヘルメがまだ神様だった頃にお膳立てしてもらえたからどうにかなったけど、そうじゃなかったら今頃は悲しく試験に追われていただろうからな。

そう考えると、まだケントの方が幸せになれた可能性だってあるワケだ。

まあ、神様に目を付けられないといけないって難点が存在しているんだが。

とか考えていると、ケントが呟くように話し始めた。


「……実はさ、最近新しく冒険者になったって女の子を好きになっちまったんだ。エルフの女の子でさ。しっかり者で、この前ココで酔い潰れちまってた俺に布団かけて、置き手紙までくれてさ。『風邪をひかないようにしてくださいね』って。一度臨時パーティーで一緒になっただけだったのに……」


俺はそこまで聞いて、かなり失礼なことをケントに考えてしまった。

ケントは、あんまり女子に優しくされない男子に起こりがちな、『女子に優しくされると好きになっちゃうヤツ』が発動しただけでは?

別に誰が誰を好きになろうとソレは個人の自由だとは思いはするが。

まあ、試してみるだけの価値はあるんじゃないのか?

とりあえず、そういうことなら俺も全面的にサポートするしかないな。

俺にわざわざ話したってことは、俺はケントに信用されてるってことなんだろうし。

まずは質問して誘導するところから始めた方がいいだろう。


「それで、お前はどうしたいんだ?」

「お、俺は……。そりゃ、好きだって伝えたいけどよ……、そう簡単なことじゃねえし、まだ距離を詰めてないのに告白しても成功するとは……」

「だからだよ! 少しずつ距離を詰めるべきなんだよ! お前がたとえ飲んだくれのレッテルを貼られていたとしても、ソレを覆すくらいに好きにさせる為には!」


俺は1人だけを愛する展開はそう長く続かなかったからな。

それに、恋愛にて必要なあの互いに好きだと言い出せずにいるあの期間を体験できなかったまま俺の場合は始まってる。

だからその辺の感覚はよく分からないが、少なくとも前世に読んだ話とかから参考にできそうなところは引っ張りだしてみるか。


「それじゃあ、今日から俺たちが協力してやるから、しっかり告れよ!」

「……ありがとな、アヅマ! やっぱ持つべきものは友だ!」


俺が差し出した手を握りながら、ケントはさっきまでの表情を吹き飛ばすような満面の笑みを見せてきた。

ココにその少女がいたら良かったよなと思いながら、俺は自身の失態に気が付く。

……もしかして、俺たち・・って言ったことに納得されてる?

とか思っていると。


「あ、ケントさん! お久しぶりです!」


その相手だと思われる、エルフの少女がやってきたんだが。


次回 Episode073 俺の主人公属性、発動するなあああ!(切実)→問題ナシ

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